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甦れ!NEWSの価値
vol.1355
「ニュース砂漠」
という言葉をご存知でしょうか?
こちらは、地方紙の衰退や廃刊などで地元ニュースが消えた地域を指す言葉。
フォーブスの2年前の記事では、アメリカでは3143郡のうち、地元紙が1紙もない郡の数が204に達していると報じています。
〈Forbes JAPAN / 2023年12月26日〉
さらに、全体の半数以上の1562郡には新聞が1紙しかなく、その多くは週刊紙だそうです。
日本でも昨年4月、ニュースの砂漠を危惧し、一般社団法人徳島新聞社の記者さんたちがストライキを起こしたことが記憶に新しいところ。
〈朝日新聞 / 2024年4月27日〉
改めて今の時代において、有料メディアの価値を考えてみたいと思います。
「ニュースの砂漠」が起きているワケ
まず、ニュースの砂漠が起きている要因を整理してみたいと思います。
さまざまあるのですが、主に挙げたいのが「無料情報」の豊富さです。
SNSが発達し、無料でも有益な情報が増えている。
もちろん、メディア社(記事を提供する記者も含め)は、裏取りするなど信頼性を担保する努力は見せています。
一方、世界で2500万部が売れたという大ベストセラー「サピエンス全史」の著者で、歴史家のユヴァル・ノア・ハラリさんは、「世の中にある情報のほとんどがフェイクである」と語っております…
…まぁ、それはちょっと何とも言えませんが…、受け手側に目を向けた時、ハラリさんは人が情報を信じるか否かにあたっては必ずしも「真実かどうか」をポイントにしていないと指摘しています。
「大きな疑問は人間がそれほど賢いのであればなぜこれほどまでに愚かであるのか。『なぜこれほど自滅的な決定を下しているのか?』というものです。
問題は人間の本質にあるのではなく、私たちの情報にあるのです。
ほとんどの人間は善良な人々であり、善意を持っています。しかし、善良な人々に間違った情報を与えれば間違った判断を下します。つまり真の問題はなぜこれほどまでに悪質な情報が存在するのか、そしてなぜ私たちの情報の質が改善されないのか。
私たちの情報技術は(昔と比べて)はるかに洗練されていますが、情報の質はそれほど向上していません。私たちは歴史上最も高度な情報技術を手にしているにもかかわらず、人々は理性的な会話を行う能力を失いつつあります」
と語っております。
〈NHK NEWS WEB / 2024年12月26日〉
そして、この悪質な情報が存在する理由を、このように解説されております。
「真実はしばしば苦痛を伴います。自分自身、あるいは自国について、知りたくないこともたくさんあります。それに対してフィクションは、好きなように心地よいものに作ることができます。
つまり、コストがかかり、複雑で苦痛を伴う真実と、安上がりで単純で心地よいフィクションとの競争では、フィクションが勝つ傾向にあるのです」
その上、最近は日本でもメディアが本当に真実を担保できているのかという、いわゆる「メディア不信」がこれまで以上に広がっている。
今後はAIによる情報生成がより活性化していけば、既存メディアのおかれる状況は、ますます厳しいものになっていくでしょう。
価値のあるメディアとは?
真実か否かというのは、有料メディア(記事)であっても、無料メディア(記事)であっても、100%担保できるものではないと思いますし、読者側はそうした前提に立っていた方が安心でしょう。
ハラリさんも、読者側のマインドとして
「最も重要なのは、自己修正メカニズムです。
『自分にも知らないことがある』、『間違いを犯すこともある』と認める能力です。それは、他者を修正するものではありません。他者の問題を指摘するのは簡単です。自分の間違いを修正できる能力なのです。
子どもたちが歩くことを学ぶ方法です。立ち上がって一歩を踏み出そうとして転びます。また立ち上がり、別のことを試します。また転び、また立ち上がり、そして徐々に歩き方を学んでいきます。
これは、人間社会全体という大きなレベルでも同じです。間違いを認めて修正をできれば私たちの情報は正確なものになります。これが、悪い情報が時間をかけて改善され、より良い意思決定ができるようになる理由です」
と語っております。
では、改めて有料として成立できるメディア(情報)の価値とは何でしょうか?
その1つのヒントとして感じているのが、「10 Magazine Japan」編集長の増田さをりさんの次の言葉です。
「ニュースメディアではなくて、『ゆっくり読みたい』と思えるような読み応えのあるコンテンツを目指している」。
〈FASHIONSNAP / 2024年10月1日〉
デジタル化が進む中で、ぬくもりと人間味を感じられる消費されない情報を提供したいと語っていらっしゃるのです。
この言葉を読んで、フィリップ・コトラーさんの「ナレッジマネジメントの6階層」が頭に浮かびました。
知見と知恵が有料になる
ナレッジマネジメントの6階層とは、ナレッジを
●知恵…特定の分野や事象に関する深い理解や洞察
●知見…知識を適切に活用し、状況に応じて判断や決定を下す能力
●知識…情報を理解し、関連付けて体系化したもの
●情報…データを解釈して意味を持たせたもの
●データ…情報の最も基本的な形態(数値や文字の集合)
●ノイズ…関連情報から逸脱する、目的に対して不要な情報
という6つに分けています。
ちなみにAIは「データから知識」を得意としており、人間はそれ以外の3つを得意としているとのこと。
メディアに関しても、データから知識については、AIが発達することで良くも悪くも今まで以上方に世の中に溢れるようになり、価値はどんどん目減りしていくでしょう。
一方で、だからこそ深い洞察や判断、そして新しい見方を指し示すような記事に価値が集まっていくはずです。
それは、夜空に広がる無数の星の中で北極星にように輝いていく。
著名人が運営する有料サロンに多くの人たちが集まる様子からも、それは分かるでしょう。
誰がどんな考えで、情報を発信しているのかが重要視される時代。
ですから、今後の記者の在り方も、より匿名性から実名性に移っていくのかもしれません。
今まではメディア企業の看板が信頼になっていましたが、これからの時代は、それは難しく、同じ企業であっても、記者によって信頼される人、されない人というのは出てくるような気がしています。
そして、読者側も必ず自分に不都合な情報もバランス良く取り入れていく中で、情報の渦の深みにハマらず、最適な判断をしていく。
そうした発信側と受信側の掛け合いが一体になったカタチが、新しい時代のジャーナリズムになっていくと良いなと個人的には思っております😊
本日も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました!