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【速攻解説】Swift連携の「Project Pax」で国際特許出願へ!「ビジネスモデル特許」って意味ない?(いや、ある)

こんにちは、プログラマブルな信頼を共創したい、Progmat(プログマ)の齊藤です。

2024年10月22日に、本年11件目のプレスリリースを発信しました。
タイトルは、「Swiftと連携したステーブルコイン国際送金システムに関する特許出願について」です。

そして実は約1ヵ月前の9月18日、本年10件目のプレスリリースである「ステーブルコイン決済プロダクトが実運用向け開発フェーズへ クロスボーダー送金に加え、国内送金・個人間送金へも対応Stablecoin Payment Product Moves into Development Phase for Practical Use Expanding to Support Domestic and Peer-to-Peer Transfers Alongside Cross-Border Transfers)」を発信していました。

プレスリリース等を実施したイベント週では、
情報解禁後いち早く正確に、背景と内容についてこちらのnoteで解説しています。

実は私、独立前の信託銀行員時代に8件の特許を取得した人間でもあり、俗にいう「ビジネスモデル特許」について多少の知見/経験もあったりするので、今回のプレスリリースに合わせて端的に勘所を共有したいとも考えています。(特に金融をはじめ”重い産業”で新規事業を企画する皆さんにシェアしたい!)

ということで、通算29回目の本記事のテーマは、
「【速攻解説】Swift連携の「Project Pax」で国際特許出願へ!「ビジネスモデル特許」って意味ない?(いや、ある)」です。


要旨

時間のない方向けに、端的にサマると以下のとおりです。

  • 「Project Pax」で構築する「ステーブルコイン国際送金システム」は、4つの機能群で構成されます。

  • すなわち、「①ブロックチェーン秘匿化機能群」「②各種ブロックチェーン対応ウォレット機能群」「③銀行システム連携機能群」「④Swift等の国際金融機関ネットワークとのシステム連携機能群」で構成され、今回特許出願が完了したのは④部分です。

  • ③部分についても別途特許出願のうえ、いずれも「国際特許出願」を予定しています。

  • ④部分については、「④-1)連携サブシステム」「④-2)ブロックチェーン管理サブシステム」「④-3)ブロックチェーン」で構成され、④-3については単一チェーンだけでなく、マルチチェーンのケースも含めて特許出願しています。

  • マルチチェーン間でSCを移転するケースにおいては、IBCやLCPを利用することも含めてまとめています。

  • 今回権利化を狙っている内容はいわゆる「ビジネスモデル特許」といわれるもので、「いずれにせよ社外関係者に部分的にでも知られる可能性があり、かつ自社以外でも生み出せる可能性がある内容であれば、先に特許出願しておく方が有利」といえ、有用性を背景に出願数や権利化数(特許査定率)が伸長しています。

  • 日本だけでなく海外でも権利化するための方法として、「PCT国際出願」という手法が利点が多いです。

  • 特に重い産業/大企業の中でイノベーションを起こそうとしている方々にとって、「大企業内アントレプレナー」となるうえで足掛かりとなるのが「メディア露出」であり、このとき実質的に必要となるのが「特許出願中」というステータスのため、特許について知悉しておくことは重要です。

では、順番に解説していきます。


「ステーブルコイン国際送金システム」のポイント

まず、「Project Pax」が何なのか?については、国際送金の基本知識と共にこちらの記事(↓)に詳しくまとめていますので、適宜ご覧ください。

「Project Pax」で構築する「ステーブルコイン国際送金システム」の全体像については、先述の9月18日のプレスリリースにて端的にまとめています。

「ステーブルコイン国際送金システム」の全体像
(プレスリリース「「ステーブルコイン決済プロダクトが実運用向け開発フェーズへ クロスボーダー送金に加え、国内送金・個人間送金へも対応」より抜粋)

4つの機能群で構成され、このうち「4. Swift等の国際金融機関ネットワークとのシステム連携」機能群について、特許出願が完了しました。日本国内の特許出願後、「国際特許出願(PCT国際出願)」も予定しています。(詳しくは後述)

また、「3. 銀行システム連携」機能群についても別途、特許出願を予定しています。


特許出願のポイント

今回特許出願した内容について、簡単にポイントを解説します。

まず、前述した”全体像”について、特許出願資料における図面としては、次のような内容で提出しています。

特許出願資料|図1

各端末装置(≒送金依頼企業&送金先企業)と「仕向金融機関システム」及び「被仕向金融機関システム」との連携部分、各金融機関システムと「連携サブシステム」との連携部分については、前述のとおり別途特許出願予定であり、今回の特許ではスコープとしていません。

今回の特許出願範囲は、図1における破線囲み部分(連携サブシステム、ブロックチェーン管理サブシステム、及びその先のブロックチェーン)です。
当該箇所について、もう一段解像度を上げた図面が次の図2および図3です。

特許出願資料|図2
特許出願資料|図3

図2と図3の違いは、ブロックチェーン管理サブシステムの先のブロックチェーンが単一か複数かの違いです。図3のような複数チェーン間でSCを移転する際の前提となる「IBC」「LCP」「リレイヤー」といった各要素については、過去に技術解説(↓)を極力わかりやすく書いたつもりですので、適宜ご参照いただけると嬉しいです。

そのうえで、ブロックチェーン上のステーブルコイン移転の前工程/後工程について、「スイフトシステム(Swift)」をハブとして、今回構築する新システムの機能群とどのように情報をやりとりするかについてまとめています。

詳細な文字情報は「明細書」としてまとめて特許庁に提出しており、しばらく時期を置いて全て公開されますが、上記の図面だけでもザックリした流れのイメージは想像できるのではないかと思います。

今回出願した内容は、製造業でみられるような特定の独自技術ではなく、いわゆる「ビジネスモデル特許」といわれるものです。
今回の特許出願の意味合いを理解するうえで、知っていそうで実はよくわからない「ビジネスモデル特許」について、次のパートから解説していきます。


「ビジネスモデル特許」って意味ない?

ところで、「ビジネスモデル特許」って意味あるのでしょうか?
そもそも、”ビジネスモデル(儲けの仕組み/アイディア)”を特許で権利化するというのも違和感がありませんか?

その違和感は正しく、”ビジネスモデル”そのものは、特許の対象にはなりません。
結論からいうと、特許で権利化するためには、「ビジネスアイディア×実現手段としてのICT(情報通信技術)の仕組み」とする必要があります。

少々回りくどいのですが、「発明」と「特許」も厳密にいうと違う概念のため、正確に理解しておく必要があります。

「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう

(出典)特許法第2条第1項

「特許発明」とは、特許を受けている発明をいう

(出典)特許法第2条第2項

特許制度は技術の保護を通じて産業の発達に寄与することを目的としています。したがって、販売管理や、生産管理に関する画期的なアイデアを思いついたとしても、アイデアそのものは特許の保護対象になりません。

(出典)特許庁「ビジネス関連発明の最近の動向について」

つまり、「①ビジネスモデル」>「②発明」>「③特許(を受けている)発明」という包含関係であり、①と②の間には「技術」という要素が必要になるため、翻って③の前提条件になるということです。

ということで、前のパートで「ステーブルコイン国際送金システム」の出願内容について簡単に解説していますが、図表をよく見ていただくと、ビジネスモデルにおいては”エンティティ(登場する企業/組織等)”に相当する部分が「●●装置」「●●システム」という用語に置換されていたり、”取引/役務交換”に相当する部分が「情報の流れ」の表現に変わっていることがお分かりいただけるかと思います。
こうすることで、「発明(技術的思想の創作)」となり、特許の対象になりえます。

そのうえで、「特許」は「発明(ビジネスモデル+ICT)」を保護する手段の1つに過ぎないため、「ビジネスモデル特許は意味があるか?」は選択肢を比較してPros/Consを考える必要があります。

  • 手段①:”ノウハウ”として秘匿(社外秘化)する

    • Pros(得るもの)

      • 実現方法の詳細について、競合他社含めて知られる可能性が低くなる

    • Cons(失うもの)

      • 自社が秘匿している間に、競合他社が先に特許出願をして権利化した場合、自社が生み出したものであるにも関わらず利用することができなくなる可能性が残る

  • 手段②:”特許”で保護する

    • Pros(得るもの)

      • 対象となる発明について、出願の日から20年間、他社による模倣に対して差し止めや損害賠償請求等が可能になる(という”刀”を有することで競合他社への牽制となる)

    • Cons(失うもの)

      • 発明の内容(正確にいうと出願した範囲)について必ず世の中に公表される

つまり、特許内容の公開がなければ社外に知られる可能性が極めて低く、かつ自社以外では生み出すのが困難な内容であれば「秘匿化」しておく方が有利ですが、
いずれにせよ社外関係者に部分的にでも知られる可能性があり、かつ自社以外でも生み出せる可能性がある内容であれば、先に「特許出願」しておく方が有利、といえるかと思います。

そのうえで、特許出願範囲が狭すぎると、部分的な変更のみで実質的に同様のビジネスモデルを模倣可能になってしまう(ので特許が取れるのであれば範囲は極力広い方がいい)一方、特許出願範囲が広すぎると、新規性等の特許要件を満たしづらくなり特許そのものが取れないリスクもあり、実務的にはこの”範囲指定方法/表現”が極めて重要です。
ここらへんは、まさに信頼できる弁理士の先生と膝詰めでお話しされることをおすすめします。

ということで、齊藤個人としては「意味は大アリ」と思っている「ビジネスモデル特許」について、客観的なマクロ動向についても確認したいと思います。

先ほども出典として引用した、特許庁さんが公開している「ビジネス関連発明の最近の動向について」から内容を引用/転載させていただきます。
(リンク先は以下のとおり)

https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/biz_pat.html

まず、出願/審査の全体動向です。
なお、これまで「ビジネスモデル特許」と呼んでいたものは、出典資料上は「ビジネス関連発明」と呼称されています。

出典:特許庁「ビジネス関連発明の最近の動向について」
グラフ1 ビジネス関連発明の出願件数の推移

2000年に生じた出願ブーム後の減少傾向は2012年頃から増加に転じており、2021年は13,032件の出願があったようです。(上記グラフ1)

出典:特許庁「ビジネス関連発明の最近の動向について」
グラフ 2ビジネス関連発明の特許査定率の推移
(ビジネス関連発明自体を主要な特徴とする出願を対象)

当初低調であった特許査定率(出願した発明のうち実際に特許を受けた割合)は年々上昇しており、近年は技術分野全体の特許査定率と同程度の70%台で推移しているということで、2000年の出願ブーム時よりも”ビジネス関連発明が質的にも良化”しているといえるのではないかと思います。(上記グラフ2)

次に、分野別の出願動向です。

出典:特許庁「ビジネス関連発明の最近の動向について」
グラフ3 分野別ビジネス関連発明の出願件数の推移

「サービス業一般(≒スマートフォン/オンラインサービスの拡大)」「管理・経営(≒AI活用等の拡大)」「EC・マーケティング(≒電子商取引に付随するデジタル広告等の拡大)」が上位3分野であり、ついで意外にも「金融」が比較的高い水準で推移しているのが見てとれます。(上記グラフ3)

金融については、2015年以降のいわゆる”FinTech”の潮流を反映しているものと考えられますが、Progmat(独立前の三菱UFJ信託銀行時代の出願を含む)もその一角である”デジタルアセット×金融の融合(金融分野へのブロックチェーンの適用等)”の流れも寄与しているものと思います。

皆さんご想像のとおり、特に金融分野の大企業は基本的に合理的な(したたかな)企業行動をしていますので、客観的にも「ビジネスモデル特許は一定の意味はある」と認知されているといえるのではないでしょうか。


「国際特許出願」ってどうやってやるの?

ということで、「一定の意味はあるといえるビジネスモデル特許」について、”どうせ情報が公開される”(前述した”特許のCons”)のであれば、保護される範囲は広い方がよいでしょう。

ということで、日本だけでなく海外でも特許として保護されるためのポイントについて、簡単に触れておきます。こちらは、特許庁さんが公開している「特許の国際出願って?」から内容を引用/転載させていただきます。
(リンク先は以下のとおり)

https://www.jpo.go.jp/system/patent/pct/seido/document/index/panhu17.pdf

まず前提として、「①特許出願」>「②特許で権利化」という包含関係であり、特許権として保護されるためには各対象国でそれぞれ権利化されている必要があります。日本で特許を受けているからといって海外でも保護されるわけではないですし、例えば全世界で保護を受けられるような「世界特許」「国際特許」という概念はなく、あるのは「国際出願(海外にも出願する)」という手続きである点に注意が必要です。

海外に特許出願を行う方法として、「直接出願」と「PCT国際出願」という2つの方法があり、「直接出願」はその名のとおり特許権を取得しようとする全ての国でそれぞれ個別に出願手続を行うものなので、非常に大変です。(出願日は、それぞれ手続を行った日付となります)

もう1つの手段である「PCT国際出願」という方法は、”PCT=Patent Cooperation Treaty=特許協力条約”に基づき、国際的に統一された様式による出願書類を1通作成し、自国(日本)の特許庁に提出することで、PCT加盟国である全ての国に対し、同時に出願したことと同じ効果を与える出願制度です。

それぞれの国における出願日(国際出願日)は、自国(日本)で出願した日付となるため、「直接出願」よりも簡素な方法(出願時点では翻訳等不要)でより早いタイミングで出願することが可能です。(特許権は、出願日基準で保護されます)

出典:特許庁「特許の国際出願って?」P2

そんな「PCT国際出願」のプロセスは、大要以下のとおりです。

出典:特許庁「特許の国際出願って?」P4

ポイントは、国内移行手続(特許を取得したい国での実体審査に向けた翻訳文作成/手数料支払等)まで「優先日から30月の猶予期間」がある点だと思います。
この2年半の間に実際に権利を取得する国の選定等を見極めることができ、適宜国内移行をしないことで翻訳費等の支出を回避することができるため、出願人からすると大変ありがたいところです。


余談:実は”大企業内の新規事業担当者”にこそ特許出願はオススメ

さて、ここで余談です。
ライフワークの1つとして、「イノベーションの担い手は、起業/スタートアップだけが選択肢ではない」「これからのイノベーションは、大企業の中の人こそ大いにチャンスがある」という布教活動を行っているのですが、「特許出願」はこの文脈において実は重要な”武器の1つ”だったりします。

「重い産業の大企業の中の人向け”着火”資料」から、当該部分について抜粋のうえ、本記事でも簡単にご紹介します。
(資料の全量版は公開していないので、リクエストあれば今後公開するかもです)

まず、私の考える(ぶっちゃいえば、そこそこ出くわしがちな)大企業内新規事業担当者の”アンチパターン”について可視化します。

大企業内新規事業担当者の”アンチパターン”

一言でいえば、”ただのメッセンジャーボーイ/オペレーター”になってしまい、社内外に対して何の力も持てない人、です。

例えば、外部のセミナーで情報収集や名刺交換ばかり行っているようなパターンです。こういう方は、得てして過度に”外向き”で社内軽視/社内信頼残高無しであることも多く、外部で出会う潜在的なパートナー企業の方からしても”外れ”です。「自分では判断できないので持ち帰ります」といって何も動か(せ)ないパターンですね。

では、どうすれば”アンチパターン”を乗り越えられるのでしょうか?
いわゆる「大企業内アントレプレナー」について、私の考える要件/状態を可視化します。

「大企業内アントレプレナー」の要件/状態

ポイントは、各ステークホルダーとの”直アクセス”ルートが確立されていることです。”伝聞”では、物事を動かすことはできません。”組織的な慣性”が大きい大企業を動かすうえでは、なおのことです。

この”直アクセス”ルートを社内外(特に社内の最終決裁者=社長)にどのように開通していくかがミソなのですが、序盤のステップとして鍵になるのが「メディア露出」です。

但し、大企業の中の人(この時点ではまだ”何者でもない人”という状態)が新規事業関連情報を「メディア露出」するうえで、かならずぶち当たるであろう壁の1つが「サービスリリース前に情報出したら競合に模倣されるだろ。責任とれるの?」と指摘してくる方々です。(基本的に悪気はない、はずなのですが…)

そんなときに「ご指摘ありがとうございます。当該リスクについては予め対応済みです。」と言い切るためのわかりやすいマジックワードが”特許出願中”です。特許関連の経験をお持ちの方は、一般的にいえばそこまで多くないと思いますので、前述した特許に関する基本的情報に明るいだけでも”優位”に立ちやすく、「”特許出願中”と併記することで模倣リスクに対してむしろ牽制が効く」という主張に対して、「それならいいか」と矛をおさめてくれる可能性を高めることができます。(もちろん分野/内容によりますが、実際そうだと思います)

「大企業内アントレプレナー」に至るステップ論|特許出願からのメディア露出

「メディア露出」から、どのように直アクセスルートを拡げていくかについては、さすがに趣旨から外れますので本記事では割愛します。


さいごに(近々、STでも発表あります)

ということで、今回の記事では「Project Pax」で構築する「ステーブルコイン国際送金システム」のうち、Swift連携部分の機能群について特許出願した内容をご紹介すると共に、意味合いを理解するための「ビジネスモデル特許」や「国際特許出願」についての基本情報や、特に重い産業/大企業の中でイノベーションを起こそうとしている方々への”特許出願の使い方”についてまとめてみました。

ここ数か月、ステーブルコイン関連の情報公開/解説が続いており、「セキュリティトークン(ST)/デジタル証券はどうなっているんだっけ?忘れてない?」とご心配いただいているかもですが、近々、ST関連でも大きめの情報公開を予定しています!

当該発表に合わせて、半分が過ぎた2024年度の業界動向や、足許の状況に関する背景等も極力解説しますので、ご期待いただけますと嬉しいです。
(プレスリリースと同刻に公開しますので、タイムリーに把握されたい方はぜひ「フォロー」をお願いします!)


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