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Why Tokenization (なんでトークン化するの)?

こんにちは、プログラマブルな信頼を共創したい、
Progmat(プログマ)の齊藤です。

10月2日の新会社設立に合わせて公開した第1回記事では、
「そもそも、Progmatって何なん?」を解説してみました。

Progmatを語るうえで、キーワードの1つが、
"RWA(リアルワールドアセット)のトークン化"でした。

そこで第2回目の本記事のテーマは、
「なんでトークン化するの?」です。


千載一遇の"日本×トークン化"


最近、「トークン化(デジタルアセット)ビジネスの領域で、日本は世界の中でも相対的にチャンスが大きい」という意見が多くなっています。
これは私も同じ意見です。

しかし少し前までは、
「日本は何をやるにも遅い」
「世界の潮流に逆行している」
「こんな国でビジネスできない、早く海外に出るべき」
という意見が大勢を占めていました。
いったい何が起きているのでしょうか?

これを理解するうえで、
大前提となる各国の法律/規制に対するアプローチの違いについて、
エッセンスだけでも理解しておくと損はないと思います。

What is 成文法主義 vs 判例法主義

成文法主義 vs 判例法主義

まるで法学部の授業のようですが、少々お付き合いください。
予めお断りしておくと、私は法学部出身でも弁護士でもないため、あくまでビジネスパーソンとして把握しておくと役に立つエッセンスについて、齊藤の個人的理解ベースでザックリ解説するものです。

さて、日本は成文法主義の国です。
要は、制定された法律の根拠が無ければ「黒」(法令違反)、”グレーゾーン”は”みなしブラック”の世界観です。
法令遵守が絶対である金融機関が典型ですが、法的根拠がないうちから「トライ」はできません

よく比較されては羨望の対象となるアメリカは、判例法主義の国です。
要は、法律で原理原則を定め、各個別事案が「黒」か「白」かは、過去の判例によって事後的に判断される世界観です。
”グレーゾーン”であるうちは、”(現時点では)ブラックではない”ため、まず「トライ」してみるという判断がしやすいといえます。

これは歴史的/構造的な話ですので、「だから日本は…」と嘆いても始まりません。
成文法主義の相対的なメリット、判例法主義の相対的なデメリットはないのでしょうか?
実はそれが「予見可能性」(結果を見通しやすいかどうか)です。

日本は良くも悪くも、ほぼ法律で綿密に定められた文言に沿った運用がなされるため、解釈の余地はほとんど残されていません。
ネガティブにいえば「硬直的で柔軟性に欠ける」のですが、ポジティブにいえば「サプライズはない」ともいえます。

アメリカをはじめとした判例法主義の国は、解釈の余地が非常に大きく、ポジティブにいえば「時代に即した柔軟な運用が可能」なのですが、ネガティブにいえば「運用者の裁量によりサプライズが起きるリスクがある」ともいえます。

日本とアメリカの相対的立ち位置

アメリカにおけるデジタルアセット情勢の転調

ここまで前提を共有するともうお分かりだと思いますが、2023年10月現在のアメリカは、「判例法主義」のネガティブな側面が大きく作用し、これまでは”グレーゾーン”だったビジネスが後解釈で「黒」と指弾されるリスクが高いビジネス環境になっているといえます。

なぜ急にこのような状況になったのでしょうか?
多くの識者の意見では、2022年におきた大手暗号資産取引所のFTXの破綻をトリガーに、デジタルアセットに対する世論/政治情勢が一気にネガティブに転じたとされています。

つまり「絶対的に日本がすごい」わけではなく、ある種の”敵失”で相対的に有利になっているに過ぎない、という謙虚な環境認識が重要だと個人的には感じています。
いつまでも日本が有利というわけではなく、”今この瞬間が千載一遇のチャンスだ”ということです。

What is デジタルアセット @日本

では、成文法主義の日本において、デジタルアセット(トークン)に対する制定法はどこまで整備されているのでしょうか。
そもそもの前提として、「デジタルアセット(トークン)」って何?を明確にしたいと思います。

デジタルアセット(トークン)の定義

実は、日本法上「デジタルアセット(トークン)」の定義がバチっと記載されているわけではないのですが、各関連法上の記載を結びつけ、次の3つの要素を満たしているものを「デジタルアセット(トークン)」と呼ばせてください。

  1. 分散型台帳上で(必ずしも”ブロックチェーン”とは書かれていない)

  2. 電子的に移転可能

  3. 財産的価値

一口にデジタルアセット(トークン)といっても、その性質は様々です。
2023年10月時点の日本では、その性質に応じて、既存の近しい概念にあてはめて規制を設計するというアプローチを採用していると理解しています。
主な分類は次の3種類です。

  1. (主に)決済手段として利用されることが想定されているもの

  2. 保有すると利益分配を受けるもの

  3. 特定の権利行使や役務の受領、又は希少価値自体に意義があるもの(上記1、2以外ともいえる)

1の性質をもつデジタルアセット(トークン)が、「暗号資産」と「ステーブルコイン(以下、SC)」です。(暗号資産がどこまで決済手段として利用されているか、の議論は、定義(利用されることが想定されている)とは無関係のため横に置きます)

既存の近しい概念は、もちろん既存の決済手段ということで、このタイプは資金決済法及び銀行法で規制されます。
SCは、法律上「電子決済手段」として定義され、要件も明確になっています。

2の性質をもつデジタルアセット(トークン)が、「セキュリティトークン(以下、ST)」です。

既存の近しい概念は、もちろん既存の有価証券ということで、このタイプは金融商品取引法(金商法)で規制されます。
STは、法律上「電子記録移転有価証券表示権利等(以下、電有等)」として定義され、要件も明確になっています。

「ユーティリティトークン(以下、UT)」を含む「NFT」等は、1にも2にも該当しない場合、「資金決済法」「銀行法」「金商法」の適用を受けないものとして取り扱いが可能となっています。

デジタルアセット関連法整備=一巡してます

以下がファクトです。

デジタルアセット関連法整備の歴史

結論からいうと、
日本は主要なデジタルアセットに対する法律整備は一巡しているといって差し支えないです。
(STやSCに関する法制化経緯や法律上のポイント等は、本記事ではボリューミーすぎるため、別記事で詳述したいと思います)

ビジネスの進展に合わせた細やかな制度チューニング(税制の最適化を含む)は続くと思いますが、それでも「法的根拠が不明確だからビジネスができない」状況では決してなく、あとは「日本の民間セクターのやる気と創意工夫」次第といえます。
繰り返しですが、”今この瞬間が千載一遇のチャンスだ”ということです。

一方で、これはビジネスです。
ノリではなく、社会的/組織的な意義や意味が無ければ、決して大きく発展することはありません。

Why ST(なぜST化するの)?

まずSTについて、既に金融商品市場がある程度高度化されている日本において、なぜわざわざトークン化する必要があるのでしょうか?
結論からいうと、「新しい市場創出のチャンスがあるから」です。

ST化=新市場創出のチャンス

”新しい金融商品市場”の解像度を上げるために、2つの軸を提示します。

  1. 商品化対象のアセットは何か?

  2. 販売相手の投資家は誰か?

これまでは、「幅広いアセット」×「幅広い個人」の組み合わせのセグメントは比較的ホワイトスペースでした。
ST市場は、このホワイトスペースです。商品の需要サイドにも供給サイドにも、それぞれ大きなメリットが存在します。

まず需要サイドですが、
端的にいえば「今までアクセスできなかったアセットをオーナーとして保有できるようになる」ということです。
言い換えると、これまでは機関投資家や富裕層といった一部の投資家にしかアクセスできなかったアセットが存在していました。

次に供給サイドですが、
端的にいえば「新しい投資家層の登場により、今までは商品化困難だったアセットも商品化の可能性が生まれる」ということです。
個人ならではの”オーナーシップやステータス感(いわば、ドヤ感)”をくすぐる商品訴求により、商品として成立することを意味します。
言い換えると、これまでは一部の投資家の目線に合わず、商品化できなかったアセットが存在していました。

こうしたことが可能になった背景を、より深堀りします。

トークン化 ≒ 上場しなくても”限界費用ゼロ”

これまでの金融商品とSTを、インフラの観点から比較したのが次のチャートです。

上場商品 vs 非上場商品 vs トークン

まず上場商品は、
”超中央集権データベース”である「ほふり(証券保管振替機構)」を設置し維持運用する(コストを市場参加者全員で負担する)ことで、小口化により投資家数が増えても大量処理が可能になっています。

但し、対象となりえる条件である「上場」にはイニシャル/ランニング双方でコスト/負荷が発生し、コストを賄えるだけの規模が無ければ対象になりえません

例えば、「不動産1棟のみ」で上場することは現実的ではないため、まるっとまとめて大規模にした「不動産投資信託(REIT)」の単位で上場しています。

次に非上場商品は、
”超中央集権データベース”が存在しないため、各中間業者内のExcelファイル管理の世界です。
当然、各社Excelは同期されないため、業者間で随時連携や照合が必須です。

したがって、小口化をして投資家数が増えようものなら、コスト/負荷が比例して高まってしまいますが、手数料は比例しないため、割に合いません。

当然の帰結として、
非上場商品をわざわざ小口化して個人投資家向けにするインセンティブがなく、特定の大口機関投資家や富裕層にまるっと購入してもらうのが最適解となっています。

STがもたらす効果の1つが、
「上場商品でなくても使える、限界費用(投資家数等に比例する追加的費用)がほぼゼロのインフラ」の登場により、必ずしも上場対象にはならない種類や規模のアセットでも、個人向けに小口化することが容易になることです。

語弊を恐れずにいえば、これはわざわざブロックチェーンを使ったトークンでなくても”技術的には”可能です。

例えば、MUFGがほふりのような”中央集権データベース”を構築し、当該MUFGのDBを正解データとして、他の金融機関が外部からAPI接続/更新/参照するような世界観です。

但し、少し金融業界に身を置いた方であれば想像がつくと思いますが、これはビジネス力学的にはあまり現実的ではありません。

そこで、便利な方策の1つが「参加ノード間が上下なく平等につながり、同期/検証が可能なネットワーク」としてのブロックチェーンというわけです。(なお、この目的においては、必ずしもパブリックブロックチェーンでなくても用は足ります。この解説は別途ST解説記事にて詳述します)

トークン化 ≒ P2Pでも"決済リスクゼロ"

もう1つの観点が、投資家間取引のリスクと機会です。

個人間取引 vs 業者間取引 vs トークン取引

端的には、お互いに信用できない個人同士でも、間に業者に置かなくても「取りはぐれリスク」を負わずに取引ができるため、新たな取引機会がうまれる(流動性が向上する)ということです。

流動性が向上する=必要な時の換金性が高まるということで、これも個人投資家を対象とする商品組成においてポジティブに働きます。(いざというとき換金できない商品は、投資家保護上問題があります)

この特徴の前提となるのが、アセット側がトークン(ST)になっているだけでなく、決済マネー側もブロックチェーン上のトークンになっていて、同時決済(DvP)が可能になっているという世界観です。

はい、ステーブルコイン(SC)の登場です。

Why SC(なぜSCが必要なの)?

あらためて、SCとは何でしょうか?
(本記事ではあえて概念的な比較に留め、詳細は別記事に譲ります)

●●Pay vs SC

●●Payとの共通点でいえば、法定通貨に価値が固定されているという点です。●●Payではできず、SCではできることはざっくり次の3点です。

  1. 払戻し可能(いつでも法定通貨に戻せる)

  2. 相互互換性あり

  3. 誰でもどこからでもアクセスできる

1の特徴は法律上の定義によるところですが、2と3の特徴はインフラの違いに起因しています。つまり、●●Payは各発行体内の独自システムで分断している一方、SCはブロックチェーン(特にパブリック/パーミッションレスブロックチェーン)上でトークン化されていることで担保されています。

既に決済市場が高度化されている日本において、SCが活躍する余地は残されているのでしょうか?
SCのもつ「誰でもどこからでもアクセスできる」特徴から紐解きます。

トークン化 ≒ クロスボーダー決済最適化

「誰でもどこからでもアクセスできる」が意味するところの1つが、「アドレス情報さえあれば、国や属性関係なくパッと価値を移転できる」という点です。

SCとクロスボーダー決済

詳しい方であれば「本当?トラベルルールとか忘れてない?」という声も聞こえてきそうですが、鍵は「セルフカストディウォレット(業者カストディのウォレットではない)」です。これも法律制定経緯と合わせて長くなりますので、詳細はSC解説の別記事に譲ることとさせてください。

トークン化 ≒ プログラマブル決済の易化

「誰でもどこからでもアクセスできる」が意味するところのもう1つが、「外部システムから柔軟に更新できる」という点です。

SCとプログラマブル決済

この観点での比較議論をするためには、暗黙の前提をはじめに共有する必要があります。具体的には、

  1. 一部のネット銀行を除き、多くの銀行は更新系APIを提供できていない

  2. SCの類型の中でも、「信託型SC」については、銀行レガシーシステム(いわゆる勘定系システム)に手を加える必要がない

まず前提1ですが、
理由は単純に「勘定系システムを外から更新する場合、影響範囲が広すぎて時間もコストもかかりすぎるため、費用対効果が合わない」という極めて現実的かつ根深い問題です。

外野から眺めていると、「ネット銀やFinTech企業はこんなに動きが早いのに、なぜ銀行はそんなに動きが遅いのか」という疑問が湧いても当然です。

しかしこれはシンプルに、「レガシーがなく、対応が簡単だから」です。レガシーを抱えて真正面から対応するには、ハードルが高すぎるのです。

前提2に関しては別記事で詳述しますが、
銀行預金(=勘定系システム)とブロックチェーンを直結させず、「信託」というワンパスを挟むことで、「レガシーの呪縛」を受けることのない新システムとして構築することが可能になっています。

こうした前提により、特に信託型SCについては、外部システムからの更新にも柔軟に対応可能な仕組みを、比較的容易に提供することができます。

それで結局、SCはどこで使われるの?

SCの活用シーン俯瞰

一般論として、新しい仕組みが浸透する領域は「意義があり」かつ「スイッチングコストが低い」ところから始まるといえます。

この両条件を満たすのが、「Why ST化?」で登場した「トークン間決済」です。そもそも当該市場自体がホワイトスペースであり、オンチェーン上のDvP決済により個人間取引の機会が広がる意義もあります。

次に条件合致度が高いのが、「国内外広域で柔軟に移転可能」という意義がありつつ、とはいえ既存決済インフラとの競合が発生する「クロスボーダー決済」領域です。
置換コストを上回るメリットが必要となるため、例えば既存の銀行取引網を活用した大手企業群とのコラボレーション等、面を拡大する取り組みが不可欠となります。

その次が「既存デジタルマネーでも対応は可能」な「プログラマブル決済」領域だと考えています。
単純に、「安くて速い方が選ばれる」でしょう。

逆にいえば、
利用可能範囲が限定的で、プログラマビリティも必要ない決済シーン(小売店店頭や自販機での購買等)においては、SCを使う意義が薄く、置換コストを上回るメリットがないため、SCは浸透しないだろうと考えています。

最後に…

トークン化の文脈で日本がどんな立ち位置にあり、
どこまでビジネスに必要な準備が整っていて、
ST化する意義はどこにあり、
SCを利用する意義はどこにあるのか、
まずはバックリと概観と勘所を掴んでいただけましたでしょうか…?

古くは「ワイブロ(Why Block Chain)」と呼ばれた、
「なんでブロックチェーン使うんだっけ?(なんでトークン化するんだっけ)」問題について、
6年以上向き合ってきた齊藤なりの現時点の考えを解説してみました。
(きわめて現実主義的な人間なので、使えるものは使うし、使えないものをあえて無理に使うことはしません)

途中には、「パブリック(パーミッションレス)チェーン vs プライベート(パーミッションド)チェーン」といった、可燃性の大きい?論点についてもあえて一部触れています。

かなり端折ってまとめたつもりでしたが、
気づいたら7,000字を超えているため笑、
各詳細解説は今後の記事をご覧いただけますと幸いです。

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