言語化能力の優れている、俺。
「橘さんは、言語化能力が優れています。自分の感情をうまく言葉にすることができるから、ストレスがないのだと思います。」
2年ほど前に、俺の友人に言われた言葉。
そいつは大学では明らかに浮いているような奴で、
「大学には変な奴がいる。」
という定説を擬人化したような人物だ。
今までにないワードで褒められ、咄嗟に返す言葉が思いつかなかったことを今でも鮮明に覚えている。
そいつは大学生が読まないであろう、よくわからなくて一般受けしない本ばかり読みあさり、哲学や宗教などに精通していた。
そんな奴が言うのだからきっと俺は、言語化能力に長けているのかもしれないと、サンプル数n=1でその言葉を鵜呑みにした。
時の流れは過ぎ、昨日の夜。
俺は3日前に買ったシロクマの300円程する良いやつを半分残していることを思い出し、冷蔵庫に向かった。
風呂上りで部屋の気温も高くなってきたこともあり、俺は、
「この微妙に蒸し暑い中食べるアイスは間違いなく美味い。」
といつになく、胸を躍らせた。
冷凍庫に手をかけ、開ける寸前に違和感に気づく。
「あれ、開いてる?!?!?」
冷凍庫が空きっぱなしで、シロクマのアイスは相変化していた。
「あぁ、こりゃ、熱力学だな。」
悲しくなった。この上なく悲しくなった。もう1度相変化させても元の味には戻らないだろう。
「あぁ、こりゃ、圧倒的不可逆反応だな。」
その時、俺は冒頭の友人の言葉を不意に思い出す。そして、この時の気持ちを表現しようと試みる。
楽しみにしていたアイスがちゃらになり、それを悲しみつつも、頭によぎるのは理系の知識。勉強していないと言いつつとっさに出てくるのは理系のワード。この時の俺の気持ち。何に例えたら良いのか考える。しかし、
俺は上手く言葉にできなかった。
俺は全く言語化能力など長けていなかったのである。2年間の自画自賛。2年越しの伏線回収、ありがとう。まだまだだな、俺は。
今はこの友人にこの時の気持ちを伝えたい。上手く言葉に乗せて、伝えれるかわからないが。
Fig. 1 圧倒的不可逆反応相変化白熊
貧乏学生の食費に費やします。