人間現役(仮) 五
多分まる1日はこうしてた。
天井をみつめてみたり、思い出の品を見返してこれ以上にないくらい絶望してみた。
けれどただ涙を流して病んでいたわけではない。
私の心の声はハッキリ問いかけて来る。
『そろそろ行動する?』
この言葉に相当悩んだ。
"行動する"とは基本私やその周りはただ動くという意味では使わない。
私達の言う"行動する"とは大どんでん返しを目論んだとき発する言葉だ。
報復が過ぎる頭にその心の声に私は言い訳がましくNOを出し続けた
理由は仕返しなんてダサいとおもうから。
そう自分に言い聞かせていた。
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何日経ったんだろう…
多分2、3日はこうしてたと思う。
この時の記憶や時間の流れ方、色や匂いの全てがまるで子供の頃アニメを観ている時、さほど怖くもない描写に何故かトラウマを植え付けられたあの感覚に似ている。
ゆっくり流れてる時間に身体が半分溶けている様な不穏な感覚…ここはカラーなのにセピアな様なそんな色が広がっていた。
もういいや。
考えるだけ時間の無駄なのは初めから十二分に理解してはいたのにこんなに長い時間ぐだぐだやってしまった。
残っていた大麻ももう後一本巻いてしまったら終わってしまうし私には何も残っていない。
"切れ目"と"効き目"の合間、黄昏時。
覚醒剤のパケと空のパケが家に沢山散らばってる事以外以前と何も変わってない。
汚れたガラスパイプとカスカスになった私が床に無骨に転がってる。
こんなに辛い訳は何なのだろう、昔の経験に比べればこんな事は序の口なのだ。ただ男に逃げられただけのそれだけの事だ。
初めは中二の秋だった
親友の唯の家にいつも通り遊びに行ったら部屋が暗い。
艶かしい声であんあん喘ぐ唯の声が聞こえた。
おかしい、今ここにはユキノリと唯しか居ないはず…
ユキノリとは当時の彼氏である。
初めて会ったのは先輩の家だったと思うけどあんまり覚えてない。別にタイプの顔でもないし趣味も何もかも違うユキノリになぜか猛烈に依存していた。
襖を力一杯開く
すると男を被っている唯と目が合った。
このクソヤリマン…と殴りそうになる前に涙が溢れて来て視界が歪んでいく。
私は駆け足で暗い部屋から素足で逃げ出した。
また別のあの日
確か22歳の頃、また別の女友達に同性相手を取られた。
会社で仕事してる時しつこいスカイプの着信に出てしまって、二人の喘ぎ声を聞いた。
「ユーカ…あかん、気持ちいい…イク、イクー!!!」
私は次会ったら殺すとチャットに打ってあのヤリマンをブロックした。
この話らはまた別で書こうと思う。
なんにせよそれよりはマシだった。
愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶと昔々の偉い人が言った言葉が私をもっと愚かにする。
ただ愚かではあるが脆くはない
だからこそ私は全てを振り切ろうと思い、部屋の整理を始めた。
全ておしまい。そう言いながら一つずつヨウダイの荷物を片付けてた時、
けたたましい音で部屋のチャイムが鳴った。
私はヨウダイが帰って来たと思った
時が止まるくらい激しく鼓動を打ち始めた胸を鎮められない。
暫く固まっていると大きな音でノックが何度も聞こえて来た。
私は急いで玄関ドアの覗き穴に顔をピッタリと貼り付けた。