ファレリ・アウレリアさん(56回優勝) インタビュー Vol.2-2
前回に引き続き、ミュージカルオーディションショー・第56回スマッシュキャバレーで優勝したインドネシア出身のファレリ・アウレリアさんのインタビューをお届けする。
★前編はこちら(スマッシュキャバレー編Vol.2−1)
7 「男性が歌う歌ですけど、女性にも意外にぴったり」
ファレリさんが決勝で選んだのは、『美女と野獣』の「If I can’t love her」。野獣役を意識した表現というよりは、彼女自身の情感が溢れ出たような歌唱であったように思う。
ー 決勝の曲はどんなイメージを持って歌われたのでしょうか?
「歌の先生に、『(「If I can’t love her」の”her”を)”him”に変えてみたら?』って言われて。今、彼氏が地方にいて、遠距離なので、『彼氏をイメージすればどうだろう』と思いました(笑)」
ー とても自然に感情移入されているように見えたのは、そのせいだったのですね。違和感のなさに、却って新しさを感じました。
「メロディー的にもすごい美しいじゃないですか。だから、男性が歌う歌ですけど、女性にも意外にぴったりじゃないかと思います。」
野獣に変えられた王子が歌う曲を、自らとかけ離れた存在としてではなく、ありのままの感情で歌う姿は、非常に新鮮に映った。このナチュラルながら情感豊かな表現こそが、観る者の心にフィットし、最後に魂を揺さぶるような感動をもたらしたのかもしれない。
8 「本当の自分」を表現できる場
ここからは、ミュージカルやスマッシュキャバレーへの思いについて伺った。
デザインやイラストを学ぶために来日し、4年目を迎えたというファレリさん。
ー インドネシアでもミュージカルをご覧になっていたのでしょうか?
「すごい好きだったんですけど、動画だけで、(生で観る機会は)なかなかなかったなと。インドネシアにいた時は日本語がわからなかったので、日本にはミュージカルが一杯あるということもあまり知らなくて。日本に来て、日本でもミュージカルの世界で活躍していけるんだと知って。」
ー 日本で実際にスマッシュキャバレーのステージに立たれてみて、如何でしたか?
「私、ミュージカルをもっと勉強したいんですけど、国費留学生で、勝手に専攻を変えることができないので、日常的には、そんなにミュージカルの話はしてないと思うんです。ミュージカルが好きなことは、周りの人にはあまり知られてないんじゃないかな。でも、(ステージを)観に来てくれた友達にも、『これが本当の自分だよ』って見せることができて、それが楽しかったです。」
また、ファレリさんが歌う映像を観て、インドネシアにいるご友人からも嬉しい反響があったという。
「高校生の時に合唱団に入ったんですけど、あまりソロはやっていなくて、ずっと後ろにいる感じだったんです。その合唱団の友達から『すごいね!』とメッセージをもらいました。」
ー メッセージが届いた時はどんなお気持ちでしたか?
「『高校生の時には想像しなかったことだなあ』と思いました。もちろん嬉しいのもあるし、『自分にもできたよ』という気持ちでした。」
「本当の自分」を表現できる場と出会いによって、人生の新たな扉を開けたファレリさん。スマッシュキャバレーの舞台で、情熱的に、時にユーモラスに歌う彼女の姿は、自らのポテンシャルを最大限に発揮し、いきいきと呼吸しているように見えた。
9 二つの居場所
最後に、ミュージカルに取り組みながら、大学ではデザインを勉強中のファレリさんに今後の展望を伺ってみた。
ー ミュージカル分野での更なるご活躍が楽しみなのは勿論ですが、お話を伺って、”ミュージカル”と ”デザイン(イラスト)”という二つの居場所があることも、とても素敵だと感じました。
ご自身では今後について、どのように考えていらっしゃいますか?
「そうですね。私も一つだけ選ぶのが、やっぱりちょっと怖いので。留学生だとビザとかの関係もあるので、頑張ってみて、どっちで行けるか、というか。まあ、もしかしたら就職しても、まだ(ミュージカルを)やれるんじゃないかって。」
ー 今は、複数の肩書きを持つことが決して珍しくない時代ですものね!
「そう。だから、できればどっちもやりたいです。」
ー 是非、両方の道で頑張っていただきたいです!今日はお疲れのところ、どうもありがとうございました。
「こちらこそ、ありがとうございました!」
シンプルゆえに、演者の本質が見えるスマッシュキャバレーのステージ。今回のパフォーマンスには、感情豊かで飾ることのない、正にファレリさんの本来の在り方がそのまま表れていたように思う。そして、それと同時に、彼女を優勝に導いたものは、過去二回の経験を通して醸成された、歌やステージにかけるモチベーションの高まりだったのではないだろうか。
10 ミュージカルパフォーマーの多様化への期待
今回のインタビューを通し、他分野と両立しながら研鑽を積み、劇場公演ではなく、キャバレーショーで舞台経験を積むことで花開いたファレリさんのようなスターを発掘・育成していることもまた、スマッシュキャバレーの大きな功績ではないかと感じた。
複数のキャリアを持つパラレルワーカーの存在も注目を集める現代では、ミュージカル界でも、表現の場や、演者のバックグラウンドが多様化していく可能性がある。そんな時代においては、ファレリさんのような存在こそ、新たな時代のミュージカルパフォーマーの先駆けとなっていくのかもしれない。
(Tateko)
■プロフィール: ファレリ・アウレリア Valerie Aurelia
インドネシアのジャカルタ出身。小さい頃からディズニー作品が大好きで、高校生の時にミュージカルに出会った。2019年に国費留学生制度で来日し、日本語学校を卒業後、専門学校でイラストを学ぶ。現在は桜美林大学でデザインを専攻しながら、音楽の勉強もしている。母国にはミュージカルの舞台があまりなかったため、日本に来て初めてミュージカルを生で観劇し、さらに本格的な音楽学習を始めた。
文章・企画構成:Tateko
写真:中山駿
協力:SMASH CABARET https://smashcabaret.com/
中目黒TRY
※記事、写真の無断転載はご遠慮ください。