ウェイクアップ・クロノス Part2 #刻命クロノ
刻命部隊クロノソルジャー
第1話「ウェイクアップ・クロノス」
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前回のあらすじ
ここは常夜の呪いがかけられた日本。クロノレッドこと鳥居夏彦は戦いの最中、ひとりの少年を救うべく我が身を盾にした。
彼はその少年に自らの変身装置<クロノスバンド>を投げよこし、すべてを託して死亡した。それからしばし時が経ち──
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視界が燃えている。炎と瓦礫に囲まれて、僕は妹を強く抱きしめる。崩れゆくビルの中、遠くから聞こえるのは爆発音、崩落音、そして──力強い、けど今にも消えそうな、声。
──今日から、お前がレッドだ。
「っ──おじさん!!!」
僕は声を上げ、手を伸ばした。
涙で滲む視界に映るは、淡白な天井。点滴の袋。包帯の巻かれた僕の手──
「…………あ、れ?」
そこは、火の海ではなかった。崩落するビルの中でも、なかった。
鼻をつく病院の匂い。身体を包む布団の温もり。遠くから、妹の優里(ユーリ)と誰かが遊んでいる声がする。ここは──
「……病院?」
──そこに至ってようやく、僕は夢を見ていたことに気付いた。
***
'-- 夏彦死亡から3日後
-- 東京都渋谷区 総合病院 10:34 AM'
「えっと……」
伸ばした手をおろしつつ、僕は自分の身体を見下ろした。着ているのは病院のアレ。身体のあちこちに包帯が巻かれていて、ちょっと痒い。
そうして様子を確認しているうちに、ふと左手首に違和感があって僕は視線を移した。
「あ……これ」
そこに嵌められていたのは、真っ赤な腕時計。
赤くてゴツい腕時計だ。流線型をした金属製の本体が、革のような素材のベルトで腕に巻かれていた。本体の横──本来なら竜頭がある辺りには、なにやら大きなダイヤルのようなものがついている。
「……おじさんの」
──それ持って、妹と逃げろ。
去来するは、さっき見た夢の──否、実際に体験した、過去の光景。赤い革ジャンのおじさんの、最期の言葉。確か名前は──
「…………とりいなつひこ、さん」
僕はその時計に無意識に触れて──その時、外から足音がした。
パタパタパタパタ。子供が走るような忙しない足音。手を取めた僕が戸口に視線を遣るのと、足音の主がひょっこりと顔を出したのはほぼ同時だった。
「にいに! 起きた!」
満面の笑みでそう言ったのは、栗色の髪をツインテールにした小学生の女の子──僕の妹、暁 優里(ユーリ)だった。
「あ。ユーリ──」
「おはよう! にいに!」
ユーリは僕に駆け寄り、その勢いのままに地を蹴る。ぼふっと軽い音と共に、彼女は僕の寝るベッドに飛び込んで──
同時に、僕の全身に激痛が走った。
「ヅァっ!?!?」
「!?」
僕が奇妙な悲鳴を上げたのを見て、ユーリは慌てて飛びのいた。痛い、めちゃくちゃ痛い! なんだこれ!?
「あーあーあーあー! ユーリちゃんダメだよ! お兄さん重傷なんだから!」
そうして悶える僕の耳に届いたのは、知らない女の人の声。
「のっ……ノゾミー! にいにが死んじゃうー!」
「しーっ、静かに! 落ち着いて!」
パタパタという音は、ユーリが声の主(ノゾミさん?)に駆け寄る音だろう。痛みに悶えながらも向けた視線の先、涙で滲む視界では、黄色いジャケットを着たショートカットのお姉さんが心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「大丈夫? ドクター呼ぶ?」
「だいじょぶ……です……」
心配そうなその声に答え、僕は呻きながらも身を起こす。大きく深呼吸し、涙を拭う僕を見ながら、お姉さんは口を開いた。
「無理しないでね、えーと……カズキくん?」
ベッドの横に名札でもあるのだろう。僕はなんとか楽な姿勢を探し当てると、お姉さんに言い返した。
「いえ……イッキです。暁 一希(あかつき・いっき)」
「あ、イッキくんなのか! ごめんごめん!」
拝むように手を合わせるお姉さん。クリアになった視界で改めて見ると、目鼻の通った美人だということがわかる。鼻が高くて、海外のモデルさんみたいだ。
彼女はにっこりと笑い、言葉を続ける。
「私はノゾミ。柚木のぞみ(ゆずき・のぞみ)。よろしく」
「あ、よ、よろしくお願い……します?」
「ノゾミはねー! おりがみがじょーずなんだよー!」
声をあげたユーリが差し出したのは、折り紙で作られた──
「……恐竜?」
「ティラノサウルス!」
「ティラノサウルス」
オウム返しと共にノゾミさんに視線を遣ると、彼女は得意げな笑みを浮かべて口を開いた。
「トリケラトプスも作れるよ。作る?」
「あ、いえ……それより、ここは?」
「ああ、ごめんごめん。えっと……まずここは、渋谷区の総合病院。君は新渋谷駅のビル崩落に巻き込まれて、ユーリちゃんと一緒にここに運び込まれた」
「新渋谷の……そっか、僕はユーリと買い物に行って……」
ノゾミさんの説明は、そこからしばし続いた。
崩落現場のそばで僕らが気を失っていたこと。僕は3日も眠っていたこと。かなりの死傷者が出たこと。僕の全身の筋肉は今ズタボロであること──
「……そういうわけで、私たちで持ち回りで様子を見てたんだ。目覚めなかったから心配したよ」
「そうだったんですね……すみません、ご迷惑を」
「いえいえ。これが仕事だからね。それに、ユーリちゃんとも仲良くなれたし」
「えっと……仕事って?」
「ああ、それは──」
ノゾミさんが答えようとした、その時だった。
「おいノゾミ、交代の時間……ってあれ?」
戸口から声。知らない男の人の声だ。病室内の僕らはほぼ同時にそちらを振り返り、声の主を見た。
緑のスタジャンを着た、若い男だ。切れ長の瞳でノゾミさんを、ユーリを、そしてベッドの上にいる僕を順に見て──
「……なんだ、起きたのか、そいつ」
彼は冷たい声で言い放った。
(つづく)
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