神器戦士ミツマナコ
「ハル。ハルよ」
「あっ……」
しまった、ぼーっとしていた。霞みがかった視界の中、神主様が微笑んでいる。
「すみません、神主様。ええと……」
──ヤバい、なんだっけ?
「疲れているかな? ほら、深呼吸」
言われた通り深呼吸すると、意識が晴れてきた。僕はハル。ここは村の聖域。神主様に呼ばれて、ここにきた。
「ハルよ。ここに来てもらったのは他でもない。これを託そうと思うてな」
思案する僕に、神主様はそれを──立派な鏡を差し出した。
「これこそ神器、<龍咫ノ鏡>」
受け取ったそれはずっしりと重い。複雑な彫刻に囲まれた鏡面は見事に磨き上げられており、天頂部では龍が咢を開いている。
「この鏡なら、青龍様のお力を借りられる」
「青龍様?」
「守り神さ。この清流に連なるモノ……美しの水、繁茂する木々、生き物たちや、この村だって青龍様に支えられている。そうだろう?」
「あ……はい、そうでした」
おかしいな。こんな大事なことを、忘れてたなんて。
「お前は選ばれたんだ。この地の守人にね」
「僕が、守人」
「そして、この地の柱となるのだ。なにせ……」
その時の神主様の視線は──冷たく濁っているように見えた。
「そのために、お前を残しておいたのだから」
その瞬間。
鏡面から生え出た“なにか”が、僕の視界を覆い尽くした。
***
二日後。
ヒョロい黒づくめの男と、白装束のゴツい男。そんな二人組が川を覗いていた。
先に口を開いたのは、黒い方。
「ひっでーなこの川。便所の方がマシな匂いするぜ?」
「奴の目撃証言があったのはこの上流だ。川全体が影響を受けていると思った方が良いな」
「んじゃ暫くこの匂いの中か……ウエー」
「人助けだ。我慢しろ」
「お前はいいよなぁ」
二人は会話をしながら、上流──聖域へと歩いてくる。
──わかった。こいつらが、敵だな。
僕は拳を握り、二人組を睨みつける。そして水中から飛び出そうとした──その時。
黒い男の額で、第三の目がぎょろりとこちらを見た。
(つづく/800文字)