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碧空戦士アマガサ 第1話「邂逅」 part5
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【これまでのあらすじ】
重要参考人"アマガサ"と再開した晴香とタキであったが、あと一歩というところで惜しくも逃げられてしまう。
あとを追った晴香たちは、そこで超常現象"殴り合いの町"の発生に出くわし、暴徒化した人々と戦うことになる。子供を庇って大怪我をし、自らも暴徒化しかけた晴香──それを助けたのは、"アマガサ"であった。
晴香にとって最も許せないのは、子供を泣かせる者だ。超常事件の担当となり、その被害状況を──多数の子供が犠牲となったことを知った晴香は、なんとしても犯人を捕らえることを決意した。
だから、重要参考人である"アマガサ"の尻尾を掴んだ時、晴香は慎重な意見を述べる隊員たちを置いて単身飛び出した。
アマガサを追った結果、現場で大怪我を負い、現場の記憶を失った──故に、晴香はアマガサこそが犯人で、子供たちを苦しめた者だと信じていた。
なのに。
「遅れてごめんなさい。でも、もう大丈夫」
晴香を助けたのは、紛れもなくそのアマガサで。
「俺は傘。この雨を止める、番傘だ」
今、彼は異形の怪人の群れを相手に、ひとりで戦っていた。
***
10分ほど前。
バリアの中で起き上がった晴香は、辺りを見回した。
オフィスビルに囲まれた中央広場に居るのは、アマガサと晴香、そして人型の怪人──雨狐(アマギツネ)の群れ。量産型のような怪人が30体ほどと、中央に別格の3体。一体は鎧武者のような、もう一体は神社の神主のような、そして最後は花魁のような者。
「やっと会えた──"原初の雨狐"」
"アマガサ"は、手にした傘銃の先端を鎧武者に向けた。お付きの雨狐たちが武器を手に身構える。当の鎧武者は腕組みしたまま首を傾げてみせた。
「どこかで見た顔だなァ?」
「忘れたとは言わせない。俺は──」
『問われて名乗るもおこがましいが!』
アマガサがなにか言いかけたのを遮って、少年のような声が広場に響き渡る。それは先程、アマガサを確保する際にタキを相手に暴れ回った、動く番傘──からかさおばけの声だった。
「わっ! ちょっと!」と狼狽えるアマガサの手元、雨狐に向けられていた傘銃が身をよじるように動き出し、持ち主の手を離れた。落下した傘はカランと音を立てて、地面に屹立する。
傘の表面にぎょろりと瞳が開き、口が開き、舌が伸びる。軸は子供の足のように変化して、持ち手は下駄を履いた足に。
『生まれは加賀の番傘屋、幾千の雨を乗り越えて、心を得てから百幾年。雨狐どもを相手取り、湊斗と戦う二人旅!』
カランッ!
そいつはひと跳ねすると、傘とは思えない柔軟性で歌舞伎役者のように見栄を切った。
『付喪神カラカサ様たァ、オイラのことよォ!』
「………………」
しばしの間。
「……カッコつかないなぁもう」
雨音だけが響く気まずい沈黙を破ったのは、アマガサのため息だった。
『ええっ!? 今カッコよく決まったじゃん!?』
「そういうことじゃなくてさ……」
ぽりぽりと頭を掻きながら、彼はカラカサに手を差し出す。再び番傘の姿に戻ったそいつは浮遊して、その手に収まった。
「付喪神……? 低級とはいえ、神がヒトの側につくか」
「付喪神を従える男……面白れぇな」
思案するように呟いた神主風の雨狐の隣、相変わらず腕組みしたまま、鎧武者風の雨狐が尊大な態度で口を開いた。
「お前、名は?」
「天野……湊斗」
その男──湊斗はそう答えると、カラカサの先端を空に掲げ、言葉を続けた。
「お前らの、天敵だ!」
そして天気雨を浴びながら、彼らは高らかに叫んだ。
「変身!」
その身体が白い光に包まれる。天気雨に乱反射したそれは虹となり、彼の身体に収束し──湊斗は、白銀の戦士アマガサへと変身した。
「"原初の雨狐"……お前らを倒して、全ての"雨"にケリをつける!」
アマガサは吼え、傘銃から光弾を放つ。自動車くらいは軽く吹き飛ばせる威力を持った光弾が鎧武者へと向かい──
それは炸裂することなく、消滅した。
「なっ……!?」
「上等だ、アマノミナト」
狼狽えるアマガサを、鎧武者が嘲笑う。そいつはいつの間にか刀を抜いていた。
「斬り裂いたというのか……?」晴香の呟きに、アマガサは再度身構えた。
「俺ァ雨狐の王、イナリ。てめェの戦、受けて立とう。ただし──」
対するイナリは余裕の様子で刀を鞘に収め、自らの背後に控える30余の怪人たちへと視線を投げた。
「──ゲームといこうぜ、アマノミナト。こいつらを全滅させりゃァ戦ってやる。その前に死んだらそれまで。どうだ?」
「ふざけんな!」
叫び、アマガサは地を蹴る。一瞬でイナリへと間合いを詰め、必殺の蹴りを放つ──しかし。
──シャン。
錫杖の音と共に、その蹴りはいとも容易く受け止められた。
止めたのはイナリではなく、隣に佇んでいた神主風の雨狐。
「お? なんだ"紫陽花"、珍しくやる気じゃねぇか」
「このっ……!」
「……天野という名に覚えがありまして」
アマガサの連撃。しかし、神主風の雨狐──紫陽花はそれを易々といなしつつ、王との会話を続ける。
「彼奴はここで殺すべきかと──」
「だめだよぉ紫陽花」
紫陽花の言葉を遮ったのは、"原初の雨狐"の最後のひとり、花魁風の雨狐だった。そいつはそう言いながら、戦う二人の間に流れるように割って入り、その細腕をゆっくりと伸ばすと、アマガサの胸板をトンと叩いた。
ドンッ!
「がっ……!?」
たったそれだけで、自動車に跳ねられたような衝撃がアマガサを襲い、彼は大きく吹き飛んだ。
「……羽音(ハノン)」
「王様がゲームするって言ってるんだから」
羽音と呼ばれた花魁はくすくすと笑い、吹き飛ぶアマガサへと視線を投げる。
「ね、お兄さんも。ちゃんとやんないと、すぐ死んじゃうよ?」
数メートル吹き飛ばされ、アマガサは広場の元いた場所──晴香の傍に叩きつけられた。
「お、おい、大丈夫か!?」
「くそっ……」
晴香が叫ぶ。アマガサはかろうじて地面を転がり、起き上がった。
「羽音の言う通りだぜ、アマノミナト」
イナリは嘲笑い、言葉を続けた。
「まずは第一関門……出てこい、アマヤドリども!」
イナリが叫ぶと、その声に応えるように広場中の雨が虹色に輝きだした。そして、アマガサと晴香を囲むように無数の黒い水柱が立ち上がる。
アマガサは咄嗟に晴香を抱え、飛び上がって距離をとった。
黒い水柱は徐々に変化し、のっぺりとした人の形をとる。"アマヤドリ"と呼ばれたその人形は100体ほどの群れとなった。それだけではない。湊斗が駆けつけた際に鎮圧した暴徒たちが一斉に起き上がった。人形の群れと暴徒の群れが、一斉にアマガサと晴香へと顔を向ける。
そんな群れの外にアマガサは着地した。
そして、バリアを張ったまま晴香を下ろし、顔を上げ──
「ま、そういうわけだ、せいぜい気張れや」
眼前に、イナリが立っていた。
「なっ!?」
声を上げた湊斗の眼前でイナリは抜刀し、一閃。
白銀の鎧が切り裂かれ、血が吹き出した。
「あ……アマガサ!?」
「そういえば女。お前、俺の雨に耐えていたな」
崩れ落ちるアマガサには目もくれず、イナリは晴香へと顔を向ける。「妖力で作った結界か」とイナリは呟き、雨を防いでいるバリアに手を当てがう。
「だったらどうした……!」
「もう一度耐えられるか、ゲームといこうぜ」
睨む晴香を嘲笑い、イナリは彼女を守るバリアを引き裂いた。
──ズグン。
「っ……!?」
晴香を天気雨が濡らし、その視界が赤く染まっていく。
アマガサの変身が解け、天野湊斗は胸から血を流して膝をついた。
アマヤドリと暴徒たちが、二人を取り囲みはじめる。
包囲の輪が小さくなっていく──
「じゃあな挑戦者ども! 生きてりゃまた会おうぜ!」
呻く晴香と、血を流す湊斗を嘲笑うように、雨狐の群れは出現時と同じように滲み──姿を消した。
後編に続く
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