阿吽昇天 Part7 #グラライザー
第1話
「阿吽昇天:装震拳士グラライザー(68)」
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前回のあらすじ
千寿菊之助は68歳のヒーローである。彼はかつての宿敵・人造人間リュウと協力し、襲いきたハイドロ帝国の怪人たちと戦いを繰り広げていた。
一度は追い詰められた二人であったが、リュウの機転によって反撃を開始。上空からの奇襲で盛大なクレーターを作りつつ、怪人たちを分断する。クレーターの内側で、菊之助はウィッチアコヤに戦いを挑み、これを撃破した!
一方そのころ、装震覇王コクリュウは──
「ち、チクショー! なんだお前! なんだお前ーッ!」
「うるせぇ。避けるな。死ね」
コクリュウは、イカオーガの4本目の足を切り飛ばしていた。
彼らが居るのはクレーターの外、無事なアスファルトの上だ。イカオーガは残る6本の足を振り回しつつ、触腕の先端から毒弾を放つ。
「今度はこれだ! 溶けてしまえー!」
「だから無駄だっつの」
触れるものすべてを溶かすはずの緑の毒弾はしかし、コクリュウの眼前でパンッと鋭い音を立てて消滅した。彼の手にした剣の風圧である。
「なんでだ! なんで効かんのだァーッ!?」
「さっきジジイが貝女に言ってたろ。相性が悪い」
そう、相性だ。コクリュウの剣で倒せなかったウィッチアコヤを俺が倒せたように、毒のせいで俺がヤラれたイカオーガは今、リュウに追い詰められている。
──なにせ人造人間リュウの体は、いかなる毒をも分解する。
「観念しろイカ野郎。そんで死ね。天国で徳さんが待ってんだ」
「うるさいうるさい! 貴様が死ねーっ!」
言い合いと共に跳びまわり戦う両者。一方、液状化した地面に捉われた残りの二体は……と、俺は視線を落とし──
そこで、気付いた。
……シャチデビルの鼻先から、触手が生えている。
「…………あン?」
液状化した地面でじたばたしすぎたせいで、シャチデビルは鼻先まで沈んでいる。そこに触手が生えて……いや、違うな。
「……イカオーガの、触手か?」
リュウに斬り飛ばされた触手が落ちている。よくよく見ると、カジキヤイバの傍にも──と、気付いたその時だった。
その触手が、風船のように膨らんだ。
「っ……!?」
俺は咄嗟に腕をクロスさせ、防御姿勢を取る。そして──触手風船が、炸裂した!
「ウオーッ!?」「ヌゥッ!」
ドバンッと派手な音を立て、周囲の土ごと怪人たちが吹き上がる! 爆風に耐えながら、俺は思わずうなり声をあげた。
「あのイカ野郎……!」
「ゲッソゲソゲソ! まだだ! 我々は負けん!」
吹き飛んだ怪人たちはクレーターから弾き出され、アスファルトの上に着地する。
ヨモツの装甲を活かした無理矢理な脱出術。歯噛みする俺を嘲笑うように、イカオーガが声を上げた。
「カジキ! シャチ! 行けェッ! アコヤちゃんの仇を取るべし!」
「ヌオオ! ぶっ殺ーす!」
イカオーガの言葉を合図に、クレーター内に残された俺に向け、シャチデビルがその口からビームを放つ!
「チィッ……!」
俺が慌てて跳躍し、ビームを回避する。そんな中、リュウはその左手をシャチデビルに向けた。
「てめーの相手は、俺だ」
その手から立ち上るは黒い霧。蝙蝠状の塊となったその霧は、一直線にシャチデビルへと襲いかかる。
「ぬごっ!?」
「ゲソゲソ! よそ見をしていて良いのかなァ!?」
「ムッ……」
イカオーガが触手を振り下ろす。若干の驚きとともに、コクリュウはそれを剣で防いだ。……いつのまにか本数が元に戻っている!
「ゲソゲソゲソ! 俺のゲソは不滅だァーッ!」
「ぶっ殺ーす!」
怪人たちは口々に声をあげ、コクリュウに襲いかかる。両者の息のあった連携攻撃が、黒き鎧を打ち据え、削り取ってゆく。
「どうしたどうした! 手も足も出ないだろう!」
「ぶっ殺ーす!」
「ゲソゲソー!」
「ぶっ殺ーす!」
「………………」
威勢良く騒ぐ怪人たちの波状攻撃を、コクリュウは淡々と捌いていく。時折捌ききれなかった剣が装甲を掠り、ギンッガンッと金属音が響く中──
「……よし」
>>FINISH IMPACT
>>QUAKE UP,Ready.
不意にイカとシャチの耳に届いたのは、フィニッシュインパクトのチャージ完了音声だった。
「ゲソぉっ!? いきなりっ!?」
起動音なし、チャージ音なし。ノーモーションで完了したチャージに続き、コクリュウの剣が咆哮をあげる!
「ヌオーッ!? ま、負けんぞォーッ!」
シャチデビルが両手の銛をクロスさせ、眼前に掲げた。真紅の銛が稲妻を放ち、即座にその硬度を増す──決着の時だ。
コクリュウはシャチデビルへと、剣を上段に構えて一歩踏み込んだ。装震剣が黒き稲妻を纏い、打ち震える。
それを見たシャチデビルは来るべき斬撃に備え、両手に力を込めた。銛で防ぎきるという覚悟と共に、その腕がバンプアップする。そんなシャチデビルに向かい、コクリュウは踏み込みのスピードを乗せて──
その腹に、前蹴りを叩き込んだ。
「ヌごがッ!? 蹴りっ!?」
めりぃっ。
完全に想定外だったのだろう。コクリュウの踵がシャチデビルの鳩尾にまともにめり込み、堅牢に構えた銛が弛む。
「そ、それはズル──」
「生憎こちとら、悪人なもんでな」
言い返し、蹴り足で今一度力強く踏み込んで──コクリュウはエネルギーを解放した。
>>QUAKE SLASH
「装震剣──」
縦一閃。
「ぶがっ……」
素振りでもするかのようにあっさりと、装震剣が敵を斬る。さらにコクリュウは剣を振り上げ──もう一太刀。
「──覇王震龍斬」
ヨモツの鎧ごと三枚におろされたシャチデビルの身体で、装震エネルギーが暴れ回る。黒色の稲妻を迸らせながら。
悲鳴すらなく倒れたシャチデビルは、死亡と同時に爆散する。
血ぶりめいて剣を振るい、コクリュウは冷たく言い放った。
「……地獄で寝てろ」
──その頃。
俺とカジキヤイバは壮絶な打ち合いを続けていた。
(つづく)
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