ウェイクアップ・クロノス Part6 #刻命クロノ
刻命部隊クロノソルジャー
第1話「ウェイクアップ・クロノス」
前回のあらすじ
ここは常夜の呪いがかけられた日本。クロノレッドこと鳥居夏彦が命を賭して守った少年は、名を暁 一希(イッキ)という。
病院が爆撃され、イッキとクロノソルジャーの面々は駐車場へと飛び出す。そこで爆撃を行なっていたのは、他ならぬ夏彦の仇、怪人リューズの軍勢であった。クロノソルジャーの面々は軍勢を蹴散らし、リューズの前に立ちはだかる。
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「「ウェイクアップ・クロノス!」」
瞬間、4人の姿が光に包まれた。
「うわっ……!?」「まぶしっ!」
常夜を切り裂く、陽光の如き光が渦を巻く。目を灼かんばかりの力強い光に、僕とユーリは思わず声をあげた。
そんな僕らを一瞥し、モヨコちゃんはにやりと笑う。
「んふふふ。聞いて驚けそして見ても驚け! クロノスバンドの出力を最大にし、常夜に揺蕩う魔力を物質化し身に纏う超常の鎧! 通常の身体能力向上よりも圧倒的高効率かつ爆発的強化率を誇るスーパー・アーマー!」
迸る光は4人の四肢へと集結。銃や剣が実体化したときと同じように、グローブが、ブーツが、そしてフルフェイス・マスクが姿を現し、輝きの布が4人の全身を覆う。
「あれぞモヨコ様の発明の集大成! 対ヤミヨ特化型身体強化アーマースーツスペシャルカスタムアルティメットエディションマークツー、通称クロノアーマー! そしてそれをその身に纏う彼らこそ──」
光が晴れたとき、そこには4人の戦士が立っていた。
全身を包む、色違いのレザースーツ。得物を握る手には白いグローブ。大地を力強く踏みしめる、白いブーツ。子供のころにテレビで見た、戦隊ヒーローの姿がそこにいた。
「──彼らこそ! 常夜を終わらせ日の光を取り戻す、選ばれし戦士たちである! 今一度ここに、その名を宣言しよう! 傾聴せよ、彼らの名は!」
満月の光を受け、フルフェイス・マスクがギラリと輝いた。砂時計を模したそのバイザーがリューズを睨みつける中、モヨコちゃんは天を指差し、高らかに宣言した。
「刻命戦隊、クロノソルジャーだ!」
彼女が言い放つと同時に、余剰エネルギーが爆発!
「うわっ!?」「ひゃっ!?」
「よぉし完璧なタイミングだ! 決まった!」などとガッツポーズするモヨコちゃんの声に続いて僕の耳に届いたのは、ハルさんの声だった。
「行くぜ、リューズ!」
緑色の戦士へと変身したハルさん、いやクロノグリーンはそう言い放つと、問答無用でリューズに殴りかかる!
「うそんっ!?」
驚きの声をあげたのはリューズだ。繰り出された右ストレートを身をよじって回避しつつ、怪人は声を上げる。
「ちょっとちょっとクロノグリーン!? いつものお決まりの台詞とかないの!? 光を取り戻すとかさァ!?」
「るせぇ! 死ね!」
グリーンは怒鳴りながら、リューズに乱打を叩き込む。生身のときの倍、いや3倍のスピードで繰り出される、拳や蹴りの嵐! 流石のリューズも先ほどのようにひらひらと避けるだけとはいかず、その長い腕や脚で応戦する。と──
「おい葉山、突っ走るなと言ってるだろうが」
僕は目を疑った。文字通り「瞬きする間に」、リューズの背後に人が立っていたのだ。声の主はメガネさん……いや、二本の短剣を構える青色の戦士、クロノブルー!
「ひぇ、あぶねーっ!」
リューズは言いながら、シルクハットを抑えて屈み込んだ。その真上を双刃がギラリと通過し風切り音が響く。ブルーの返す刃が、グリーンのローキックが、リューズを狙う!
しかしリューズは、屈んだまま横回転。その長い腕をプロペラの如く打ち振う!
「っとぉ!」「チッ!」
足を刈る一撃を、グリーンとブルーはほぼ同時に跳躍回避した。その隙に、リューズはフィギュアスケートのように横回転しながら立ち上がる。
「ひぃー、びっくりした──」
そこに飛びかかる影ひとつ。
「ハァッ!」
「──って、うおっ!?」
飛びかかったのはノゾミさん=クロノイエローだ。気合一閃、手にした重い両手剣を大上段から振り下ろす! リューズは慌ててステッキでそれを受け止めるが、クロノイエローは構わず大剣を──
「おッ……っりゃぁっ!」
──振り、抜く!
「ッどわぁっ!?」
リューズの身体が吹き飛んだ! クロノイエローは即座に身を屈め、声をあげる。
「カオルちゃん!」
「ほいよー!」
それに答えたのはカオルさん=クロノピンクの声! 全速力のままクロノイエローの背を蹴って、彼女は一直線にリューズに迫る!
「げっ」
「っしゃオラッ!」
避けられる間合いではない。クロノピンクは気合の声と共に、手にしたレイピアを振り抜いた。月夜に煌めくその一閃は、リューズの身体を捉えて真っ二つに──した、かに思われた。
「ィよいしょー!」
リューズの気楽な声に続き、ドンッッと凄まじい音が響く。少し離れた僕の足元まで揺るがすほどの衝撃と共に、リューズの姿がかき消えた。
「ふぇっ……どわーっ!?」
その音の正体が、リューズが地面を蹴った音だと気付いた時、クロノピンクが地割れに足を取られて、勢いのままにすっ飛んだ。この地割れも、リューズの蹴りで生じたものだ。
「いやぁキミタチ、気合入ってるねー? 怖い怖い」
その声は、上空から。
燕尾服をはためかせ、リューズは腕組みしたまま空中に居た。重力に引かれて落下してきた怪人は、蜘蛛の巣状の地割れの中心に音もなく着地する。
水晶頭の怪人はシルクハットを直すと、ステッキをくるくると弄びながらクロノソルジャーたちを見回し、口を開いた。
「でもね、ちょーっと落ち着いて考えてみなって。クロノレッドよりも弱いキミタチが、クロノレッドを殺したボクを倒せるわけないじゃん? それにさぁ、」
「この野郎ッ!」
挑発的なリューズの言葉に真っ先に反応したのは、クロノグリーンだった。彼は地を蹴ると同時に、手にした銃を連射しながら、リューズへと間合いを詰める。
「あーあーだめだめ。ヒトの話は最後まで聞きましょうって、小学校で習わなかった?」
リューズは、飛来してくる光線を雑にステッキで弾く。そして殴りかかってきたクロノグリーンの一撃をあっさりと回避し、次の瞬間には流麗な回し蹴りがクロノグリーンの腹に突き刺さっていた。
「がッ……!?」
悲鳴を置き去りに、クロノグリーンの身体が吹き飛ぶ。そのまま2回、3回とバウンドした後、その身体は燃え盛る病院の壁に激突した。
「ハル!?」
「葉山!」
「ハルちゃん!」
「さて、話の続きだけど……ねぇ、おかしいと思わない?」
口々にグリーンの名を呼ぶ戦隊メンバーのことなど気にも止めず、リューズはステッキを地面に突くと、小首を傾げて言葉を続けた。
「キミタチを全滅させよう、なーんて楽しそうなイベントをさ。ボクひとりだけで、やると思う?」
リューズがそう言った、その時だった。
──ずるり、と。
その背後の宵闇から、ヒトが生えてきた。
(つづく)
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