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碧空戦士アマガサ 第4話「英雄と復讐者」 Part3
前回のあらすじ
<時雨>のメンバーが調査に赴いたのは、穴だらけになった廃寺だった。調査を進める晴香たちであったが、その目の前に雨狐<雨垂>が姿を表す。居合刀を携えたその怪人を前に、湊斗と晴香は応戦の構えを取るが──
- 3 -
──直後、上空の結界が割れた。
数多の雨狐の攻撃を悉く防いできた、カラカサの結界が!
『はぁっ!?』
声をあげたのは当のカラカサだ。同時に湊斗と晴香の頭上に、猛烈な勢いで天気雨が降り注ぐ!
「っ……カラカサ!」
『お、おう!』
湊斗はカラカサを天に掲げた。カラカサの表面に、極大の雹のごとき衝撃降り注ぐ!
『あだだだだ!? 湊斗、この雨なんか──』
カラカサが、その身に走る痛みに声をあげた──その時。
「隙だらけだな」
<雨垂>の声がした。
──湊斗の真横から!
「なっ──!?」
それは手を伸ばせば届く程度の距離。驚愕の声をあげる湊斗の側で、<雨垂>が鯉口を切り──抜刀!
バコンッ!
『痛ってぇ!?』
「……大した反応速度だ」
<雨垂>は目を細め、弾き飛ばされた湊斗を目で追いながら呟いた。
──そう、斬られた痛みに悲鳴をあげたのはカラカサだけだった。
湊斗はギリギリのところで開いたままのカラカサを振り下ろし、斬撃を防いだのだ。
「……ッ、今の動き……!」
『イナリの瞬間移動!?』
"敢えて"吹っ飛んだ湊斗はカラカサをたたむ。そして空中でその先端を<雨垂>へと向け──咆哮と共に、引き金を弾く!
「変身!」
傘先から白い光が放たれる! <雨垂>は、襲い来た光の奔流から身を守るように刀を構え、飛び退いた。
白い光は天気雨に乱反射して虹を為し、湊斗の身体に巻きついて──彼が着地する頃には、その姿は白銀の鎧を着た戦士へと変わっていた!
「俺はアマガサ。全ての雨を止める、番傘だ!」
──その光景を見て……──
「は……えっ!?」
ソーマは、顎が外れんばかりに驚いた。
──湊斗さんが!? 変身した!?
「行くぞッ!」
混乱するソーマをよそに、アマガサは光弾を連続射出! 同時に地を蹴り、<雨垂>へと間合いを詰める!
「ふん……目くらましなど──」
<雨垂>は飛び来た光弾を最低限の動きで躱しながら、再び納刀し──居合、一閃!
ギンッ!
振り抜かれた刃はアマガサの脛当てと激突し、激しい火花を散らす!
「──意味を成さぬ」
「だろうね!」
アマガサは不敵に言い返し、連続攻撃に転ずる。下段蹴り、中段蹴り、掌底、肘打ち!
<雨垂>は防戦を強いられるが、あくまで冷静にその一打一打を防いでいく。そして続く連続攻撃の最中──<雨垂>は、アマガサの掌底を刀の柄で受け止めた!
「!?」
湊斗は仮面の下で目を見開く。おかしな手応えだった。防がれたというより、吸収されたような──
「……もう、見切った」
<雨垂>はその隙を見逃さない。冷酷な声と共に、手首のスナップだけでアマガサの面に刀を振り下ろす!
「ぐっ!?」
アマガサはそれを辛うじて籠手で受けたが──次いで、<雨垂>の連撃が迸る!
正眼の構えから、立て続けに正面打ち、正面打ち、袈裟斬り、斬り上げ! 道場剣術の見本のような美しい斬撃の数々! アマガサは番傘や籠手でそれらを防ぎつつも、隙を見出せないまま圧されてゆく!
「このっ……!」
そのまま一歩、二歩と退き──その時!
「ぬおりゃッ」
割って入ったのは、風を纏った晴香の前蹴りである!
「ふん」
しかし<雨垂>は悠々と身を翻しそれを回避。そして回転の勢いを乗せた横薙ぎの一太刀を晴香へと放つ!
「ナメんな!」
晴香は叫び、上から叩き落とすように掌底を打ち下ろした。それは刀の側面に過たずヒット。<雨垂>の体制が、崩れる!
「むっ……」
「おらァッ!」
その隙を逃す晴香ではない。風を纏った拳が<雨垂>に襲いかかる! <雨垂>は身を捩ってそれを回避!
「いくぞオラァッ!」
晴香は方向と共に連打を繰り出す! ワンツーパンチからの蹴り、肘、再びの蹴り。晴香の怒涛の攻撃を、<雨垂>は辛うじて受止めるが──
……その防御回数が十を超えた頃、<雨垂>は既に順応していた。
晴香の攻撃を全て防ぎきり、<雨垂>が晴香の足を踏みつける!
「うおっ……!?」
晴香の体制が、仰向けに崩れた。そして。
「死ね、ハルカサン」
雨垂れは大地を踏みしめ、大きく隙を晒した晴香へと刀を振り降ろし──
ギンッ!
その一撃を、衛星めいて浮遊するリュウモンが防いだ!
『甘いわァッ!』「なっ!?」
想定外の防御に、<雨垂>の動きが一瞬停止する!
「ナイスフォローだ、リュウモン!」
晴香は歯を剥いて笑い、そのまま身体を捻り──渾身のボレーキック!
「ぬゥっ!?」
<雨垂>は咄嗟に足を上げ、その蹴りを脛で受け止める。ミシリと腕が軋む中──<雨垂>の背後で、殺気が膨れ上がる!
その正体はアマガサである。槍のようなサイドキックが<雨垂>の背中へと迫る!
ボッ!
間一髪、<雨垂>は大きく横に跳んでそれを回避! が──アマガサはそれを予期していたかの如く、ノールックで光弾を放つ!
「く……ッ!?」
<雨垂>は着地と同時に、連続射出された光弾の対処を余儀なくされる!
「はあぁっ!」「おらぁッ!」
アマガサが、そして晴香が<雨垂>へと追いすがる! アマガサは前蹴りを、晴香は拳を突き出し──
その時だった。
「……死ねッ!」
<雨垂>が、なにもない空間を引っ掻くように手を振り下ろし──
バギバギバリッ!
刹那、晴香たちの上空、結界が破れた!
「なっ!?」『げぇっ!?』「またか!」
三者三様の悲鳴をあげながら、アマガサたちは即座に跳び退いた。一瞬前まで彼らの居たその場所を、大粒の天気雨が穿ち、抉り、破壊する!
そんな光景を横目に、アマガサと晴香は破れずに残った結界の下に着地した。そして再び<雨垂>と睨み合い──先に口を開いたのは、<雨垂>。
「……ハルカサン。羽音様を殴り飛ばしたというのは、伊達ではないらしいな」
「ハノン……ってーとあの花魁か。顔面殴られてピーコラ泣いてなかったか?」
「……口の減らん奴だ……」
<雨垂>の額に青筋が走る。それを無視して、今度はアマガサが呟いた。
「この雨……こないだの<鉄砲水>みたいな、集めて撃つやつか」
「…………!」
<鉄砲水>。その言葉に、<雨垂>の眉がピクリと跳ねる。そいつは刀を鞘に納めながら、低く口を開いた。
「……。それは、僕の兄の名だ」
「兄? お前ら血縁関係あんのか?」
そんな晴香の言葉に──<雨垂>が奥歯を噛み締める。ギリッというその音は、5メートル離れた晴香の耳にも届いた。
<雨垂>は怒りに震える右手を握りしめ、言葉を絞り出す。
「……当たり前だ。だから僕はお前たちを殺しにきた」
言葉と共に、<雨垂>は居合刀に右手を添え、腰を落とし──言葉を続ける。
「これは復讐。お前たちに殺された我が兄<鉄砲水>と……同門・<水鏡>の、仇討ちだ」
「……<水鏡>?」
聞き覚えのない名前に、晴香は眉を顰める。
……その呟きに答えたのは、アマガサのほうだった。
「中央公園の雨狐だね」
「あ」
──やっべぇ。
瞬間、晴香の背中に冷や汗が滲んだ。
中央公園──それは晴香と湊斗が初めて邂逅した場所である……はずだ。晴香はその事件の記憶はなく、しかし湊斗に対しては「記憶が残っている」という嘘をついている。
それはアマガサとの協力関係を構築するために用いたハッタリであり──アマガサ/湊斗から見て晴香が「異常で特別な存在」として、この協力関係を継続させるための重要な要素なのだ。
「そ、そーかそんな名前だったっけか。忘れてたわ」
晴香は慌てて取り繕う。その言葉に特に疑問は抱かなかったのか、アマガサはなんのリアクションも示さず──<雨垂>に傘銃を向けながら、口を開く。
「同門……なるほどね。だから剣術の感じも一緒なのか」
その言葉に、<雨垂>は刀に手を添えたまま目を細めた。
「……覚えているのか」
「当たり前だ。貴重な情報源だったからな」
「貴様どこまで……!」
怒気をにじませた<雨垂>は、ジリッと体重を前に傾けた──次の攻撃が、くる。
晴香は攻撃を警戒し、拳を構える。<雨垂>までの距離は5メートルほど。刀の間合いからは離れているが、油断は──
「ひとりずつ、殺す」
不意に、<雨垂>の声が聞こえた。
──晴香の真横から!
「っ!?」
晴香はそちらに目を遣るが、もう遅い。<雨垂>は鯉口を切り──居合、一閃!
ギンッ!
響いたのは金属音! 先ほど同様、リュウモンが割って入ったのだが──<雨垂れ>は低く呟いた。
「……甘い……!」
ビシッ……ばぎんっ!
『っぐあぁっ!?』
それは──リュウモンがへし折れる音であった。
<雨垂>はそのまま居合刀を振り抜き、リュウモンごと晴香の肋を強く打ち付ける!
「ごはっ……!?」
晴香はそのまま吹き飛ばされ、受け身すら取れず地に伏した。
「晴香さんっ──」
アマガサが晴香のほうを仰ぎ見て、声をあげた──次の瞬間。
「次はお前だ、アマノミナト」
<雨垂>は、アマガサの真正面にいた。
「──っ!?」
目を見開いたアマガサを、<雨垂>の冷酷な瞳が睨みつけて。
超高速の刺突が、アマガサの肩を貫いた。
「ぐァッ……!?」
衝撃で、アマガサが大きく吹き飛ばされた!
その身体はワンバウンドし、崩れかけた狛犬に激突! 狛犬が破壊され、盛大に土煙が舞い上がる!
「っ……」
「まだだ、まだ殺さんぞ──アマノミナト!」
<雨垂>は動きを止めない! 咆哮と共に横たわるアマガサへと間合いを詰め──穴の開いた右肩を、強く踏みつける!
「っガぁッ!?」
「お前は! すぐには死なせん!」
怒鳴りながら、<雨垂>はアマガサの傷口を執拗に踏みつける。ガッゴッと鈍い音が境内に響き渡る。晴香は痛む肋を抑え、言葉を絞り出した。
「っ……<アマガサ>……!」
「そこで見ていろ、ハルカサン!」
先程までの余裕とは真逆の、吹き上がる活火山のような怒り──否、これは──……悦び?
目を見開いた晴香を嘲笑うように、<雨垂>は哄笑をあげながらアマガサを踏みつける!
「ぐあぁっ!?」
踏みつけ、殴打、蹴り。それはこれまでの丁寧な剣術とは真逆の、荒々しい攻撃であった。
「僕は今からこいつを嬲り、拷問し、処刑する──」
そして<雨垂>は哄笑と共に──言い放った。
「アマノミナト! こいつが<水鏡>にやったようになァッ!」
(つづく)
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