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21XX年プロポーズの旅(6)
(承前)
- 6 -
──火星で最もセキュリティが厳重な場所はどこか?
その問いはしばしば、地球文明において最も厳重なセキュリティを問うのと同義で用いられる。
地球からの宇宙進出の第一歩として開拓された地、火星。そこでは当時の高度な技術は今なお発展を続けている。ムーンフォースリングの"破壊"の影響を受けて地球が衰退した今、地球文明において最も高度な技術を持つ土地となっており──特に技術が発展した一帯は火星バレーと称されている。
その高度技術惑星・火星において、最もセキュリティが厳重な場所。当時の技術の粋を集め、地球人だけでなく異星の敵対存在すらも想定したセキュリティシステムを積んだ場所──それが、星間バス火星ターミナルだ。
その火星ターミナルは今、火の海に包まれている。
「おいおい……」
俺は小型宇宙船に乗ったまま、その様子を俯瞰していた。船内には、俺以外に兵たちも乗っている。先日の星間バスの件を経て、俺ひとりでは分が悪いという判断によるものだ。
「こ、これも奴らの仕業でしょうか……?」
「流石にそれは……」
参謀の言葉に応えようとしたそのときだった。
「王子、火星政府から通信です!」
ドカドカと入ってきた司令官が通信端末を寄越してきた。
「こちら地球政府"王国"──」
「貴様ら地球の"王国"軍だな!? 武装艦隊を連れてやってくるとはどういう了見だ!」
俺が言い終えるより早く、火星訛りの地球語が耳をつんざいた。ため息をついて言葉を続ける。コミュニケーションが通じる相手だといいのだが。
「指名手配犯が貴国に逃げ込んだため追ってきたところだ。軍事介入の意図はない。それより、ターミナルが大変なことになってるようだが手伝えることはあるか?」
「なーにを白々しく! 貴様らが爆撃したんだろうが!」
「誤解だ。我々は今しがた来たところだ」
この理解力のなさ。どうせ天下り二世だろう。七光りだけでもってるだけの阿呆だと俺は断じた。なおもギャーギャーと喚く阿呆の相手は参謀に任せて、俺は状況の確認に戻った。と──
『そこの船! どいてーーーー!』
外部集音マイクに大音量で響いたのは、紛れもなく"オクト"の声だった。同時に高速接近警報が鳴り響く。燃え盛るターミナルの黒煙を破り、星間バスがデタラメな速度で飛来してくる。
──避けられん!
「イシス! 全速で右に回避! 同時に星間バスに向けて主砲発射! なんとかして直撃を避けろ!」
俺は宇宙船のマザーコンピューター"イシス"に音声で指示を出す。船が大きく揺れ、指示通りに回避が行われる。
星間バスは我々の船の側面を掠めてサブキャノンを破損させた後、あっという間に空の星となってしまった。
「あの野郎……! イシス! 今の星間バスを追え!」
宇宙船のエンジンが活動を始め、急激なGとともに対象の追跡を始める。
月面行きの星間バスを破壊し大きな被害を出した上に火星のターミナルを爆破して星間バスをジャックするだと?
そんな非人道的で出鱈目な犯罪が許されてなる──
「王子、少しよろしいですか」
「っ……なんだ」
唇を噛む俺に、参謀が遠慮がちに口を開いた。
「火星政府からの言伝が──"星間バスへの攻撃行為を以て、貴国の侵略行為を認定する"……と」
「……は?」
「その……つまり……」
一瞬理解が遅れた俺を見て、参謀が言葉を続けた。
「……このままでは、火星と"王国"の戦争が始まります」
(つづく)
続き
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