ウェイクアップ・クロノス Part10 #刻命クロノ
刻命部隊クロノソルジャー
第1話「ウェイクアップ・クロノス」
前回のあらすじ
ここは常夜の呪いがかけられた日本。クロノレッドこと鳥居夏彦が命を賭して守った少年・暁 一希(イッキ)の目の前で、刻命戦隊クロノソルジャーと怪人ヤミヨの総力戦がはじまった。
怪人幹部の圧倒的な力を前に追い込まれたクロノソルジャーを助けたのは、モヨコの助手ミカの運転する巨大なスーパーカー・クロノモービルだった。無事に撤退できたのも束の間、クロノモービルを追いかける巨大な影があり──?
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ディスプレイに大きく[caution]の文字が浮かぶ。そして三面モニタの一部が、車両後方のカメラ映像に切り替わった。
「「げっ……」」
ミカさんとモヨコちゃんの声がハモる。そこに映っていたのは、ギリシャ彫刻の如き怪人・テーカクの姿。
そいつは10階建てのビルに比肩するほど巨大化し、僕らを追いかけてきていた。
『待てぇい! 逃げるとは情けなし!』
巨大テーカクは叫びながら、のっしのしと駆けてくる。それだけでアスファルトは捲れ、あたりの車が踏み潰されて爆発していく。
「わわわ、街が……!?」
「とりあえず周辺住民は避難済みッス! 車とかは申し訳ないけど──」
『逃さんぞォ!』
僕の言葉に答えるミカさんの声は、スピーカー越しの巨大テーカクの叫び声で遮られた。
コクピットのモニタに映る、巨大テーカクの姿。そいつが夜空に向けた掌から、ばぢりばぢりと稲妻が迸る。
それは瞬く間に、巨大テーカクの身の丈よりも長い大槍を形成した。それも、1本や2本ではない。大量の雷槍が、巨大テーカクの上空に浮かんでいる!
巨大テーカクはダッシュの勢いのまま跳躍して。
『ぬゥん!』
槍投げのように、それらを放った。
「うわわわわわわ!?!?」
ミカさんが慌てて急ハンドルを切る。夜の街を蛇行しながら突き進むクロノモービルの周囲を青い稲妻が穿ち、爆ぜる!
僕らが衝撃と慣性であちらこちらに頭をぶつける中、座席にしがみついていたモヨコちゃんが声をあげた。
「ミカ! 迎撃だ! あのムキムキマンに一発カマせ!!」
「無理ッスよ! ガトリング以外はメンテ中で取り外してたんスから!」
「なんだとォ!? じゃ変形とか合体とかは!?」
「無理ッス! メンテ中でもそこの認証は外せないの、博士も知ってますよね!?」
「そうだったァーッ! くそぅ、夏彦が居ないとどうしようもないのか!?」
ギャンギャンと言い合う二人をよそに、クロノモービルは雷槍の雨を駆け抜ける。時折被弾して大きく揺れる車内で揉みくちゃになりながら、僕らは必死で座席にしがみついて。
「こんなとき、夏彦くんが居たら」
──そんな言葉が、不意にコクピットを漂った。
「……ノゾミさん?」
「あ、ご、ごめん! なんでもない! ごめん!」
慌てた様子で取り繕うノゾミさんに、カオルさんが声をかける。
「まぁ、わかるよ……なっつんならなんとかしてくれる感、あったもんね」
「……ビジョウの怪力と互角に渡り合えたのも、夏彦さんだけだったもんな」
同意を示したのはハルさんだ。引っ張られるように、メガネさんが、ミカさんが、モヨコちゃんですらも、夏彦さんのことを思い返す。
曰く、クロノスバンドとの適合率がピカイチだった。曰く、彼がいるだけで二段階くらい戦隊が強化された。曰く、状況をひっくり返す天才だった。
いつしか雷槍の雨もなくなり、背後に迫っていた巨大テーカクの姿も見えなくなった。夏彦さんの話題で沈黙が落ちた車内で、僕らは無言で敗走を続ける。
──そんな、時だった。
「おい、あれ……なんだ?」
声をあげたのは、ハルさんだった。揺れる車内で彼が指さすモニタに、ひとつの人影が映っていた。進行方向、1キロほど先。腕組みして仁王立ちするそいつは──
「ビジョウ……!?」
和服の鬼との距離はぐんぐん縮んでいく。
眉を顰める僕らの視線に、気付いているのかいないのか。ビジョウは不敵に笑ってみせると、ツルハシを放り投げて相撲の見合いのような格好を取った。
「あ、あいつまさか……クロノモービルと相撲する気ッスか!?」
「「はぁ!?」」
驚くミカさんの言葉を聞き、一同が声をあげる。そうこうする内にもビジョウの姿が近づいてくる。
「じょっ……上等だ! 轢き潰してやる!」
声をあげたのは、ハルさんだった。正気を疑うような状況に呑まれかけたのを吹き飛ばし、ハルさんが手を伸ばす。見間違いでなければ、その先には「TURBO」の文字が書かれたボタンがあった。
「夏彦さんナシでもなんとかなるって、証明してやらァッ! 全員捕まれ!」
ハルさんのそんな声がして。
次の瞬間、クロノモービルが超加速した。頭が真っ白になり、食いしばった歯がギジリと音を立てた。咄嗟に掴んだ椅子が軋んでいるのを感じる。いや、軋んでいるのは僕の腕かもしれない。
……なんてことを走馬灯めいて感じてた、その時だった。
『はっけよィ!』
スピーカーから、怒声がした。
僕は無意識にモニタを見る。
声の主は、大幹部ビジョウ。クロノモービルと比べればあまりにも小さなその姿が、高速で近づく。
ビジョウは獰猛な笑顔と共に、大地を拳で叩いて。
『のこったァッ!』
刹那、クロノモービルが宙を舞った。
***
'-- 11:31 AM(クラッシュから2分後)
-- 東京都渋谷区某所 崩落したビル前'
「いやっはー! すごいねビジョウ! 本当に受け止めちゃうなんて!」
「一度やってみたかったんだよなー! 流石に痛てぇが、なんとかなったぜ!」
「ていうか、その腕どうすんの?」
「しばらくすりゃ生えてくる。それまではまぁ、根性で我慢だ」
「わーお。体育会系だねぇ」
はじめに聞こえたのは、リューズとビジョウのそんな会話だった。次いでパチパチと火が爆ぜる音がして、焦げ臭い匂いが鼻をつく。
「う……」
「ったた……イッキくん、無事?」
ノゾミさんの声がして、僕は目を開けた。
──その視界いっぱいに、ノゾミさんの顔があった。
「ひ、ひぁぃっ!?」
顔が近い!
慌てて起き上がった僕は、そこへきてようやく事態を把握した。
崩落したビルに、横転したクロノモービルが埋まっている。辺りは炎と瓦礫に包まれていて、クロノソルジャーの面々が倒れている。モヨコちゃんとミカさんの姿は、見える範囲にはなかった。
「まじかよ……何トンあると思ってんだ、あの車……」
苦しげな声をあげたのは、ハルさんだ。そして少し離れたところにメガネさんと、カオルさん。カオルさんに抱きかかえられて、ユーリは気を失っている。
「おやおや少年。君は元気そうだねぇ?」
その愉快そうな声はリューズのもの。顔を向けたそこにはリューズ、ビジョウ、ユーカク、そしてベゼルとダイヤルの姿。視線をあげた先には巨大テーカクもいて、ヤミヨの幹部が勢揃いだ。
「さて皆の衆、鬼ごっこはおしまいだよー?」
ケラケラ笑うリューズは僕のことなど目もくれず、メガネさんの側に歩み寄る。起き上がろうとするメガネさんだったが、どうやら力が入らないようだ。すぐに地に這いつくばってしまった。
「これでわかったでしょ? クロノレッドなしじゃ、君らには勝ち目がないんだ……よっ!」
「がッ……!?」
ドゥッと重い音がした。リューズがメガネさんの腹を蹴り飛ばした音だと気付く頃には、メガネさんは壁に叩きつけられていた。
ずるり、とその身が崩れ落ちる。パラパラと壁が崩れる様が、その蹴りの異常な威力を物語っていた。
そんな様子を見て、ぽつりと。
「はは。こりゃもう、勝てねーわ」
ハルさんが、呟いた。
──同時に、その全身から黒い靄が立ち上りはじめた。
(つづく)
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