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有限会社うまのほね 第1話「学校の七不思議」 Part20(エピローグ)
(エピローグ)
市立秋茜小学校殿
悪性警備ドローンによる障害事件に関する調査報告書
有限会社うまのほね
代表 飯島ハルキ
本文書は、貴校に現れた悪性警備ドローン<アカネ>(以下、<アカネ>と表記)によって発生した傷害事件の顛末、およびそれに関連する事項の調査結果をまとめたものである。
1.事象
◯◯月××日、貴校の児童2名(T.K氏、N.T氏)が<アカネ>と遭遇し、追い回される被害が発生。T.K氏の依頼を受け、弊社飯島が調査を実施し、<アカネ>の攻撃を受ける。最終的に無力化に成功したものの、以下の被害が発生した。
なお、本事象の結果として、ドローン<アカネ>はその機能を停止した。その後の処理については5節に記載する。
被害状況
・児童2名:かすり傷
・弊社飯島:右腕を骨折
・警備ロボ<キ33>:塗装剥げ、カメラ故障
2.原因
2.1 上記被害の原因
<アカネ>の敵性判別プログラムが、「成人全てを敵とみなす」ようになっていたことにある。根拠としては、①児童2名は追いかけられたものの直接攻撃されていないこと、②弊社飯島が姿を現した時のみ攻撃的になったことの2点が挙げられる。
補遺:T.K氏は<アカネ>の体当たりを受けているが、これは見通しの悪い廊下での衝突であったため、弊社飯島を狙ったものが誤ってT.K氏に及んだものとみられる。
2.2 根本原因
被害の原因としては上述の通りであるが、本件の根本原因は<アカネ>の管理体制にある点を強く主張する。
敵性判別プログラムはドローンOSのAIの標準機能であり、自己学習によって更新されていく。適切な管理が行われていれば「成人すべてを敵とみなす」ような更新は発生し得ない(例:貴校標準の警備ドローン)。
2.2.1 具体的な環境
<アカネ>の電源ドッグは貴校3号棟1階西側男子トイレ内、個室を改修して作られた物置に設置されていた。また、<アカネ>のログより、10年前の初期化はネットワーク越しで行われた可能性が高いことがわかった。
以上より<アカネ>は、当該の物置に設置されたまま、遠隔で初期化され、そして電源の入ったまま残置されていた可能性が高い。
電源が入ったままであることによりドローンOSの学習機能が稼働し続け、トイレという人通りの多い場所であったことから言語を習得したと推測される。また、なにかの拍子に(詳細な原因は不明)自律飛行をはじめ、発見された大人(教師や警備員)に攻撃されたことを学習、その結果として上述の敵性判別プログラムが成立したと考えている。
弊社では、本環境が成立するに至る背景を調査した。結果を4節に取りまとめる。
4.<アカネ>残置の背景に関する調査結果
4.1 背景
<アカネ>は10年前に貴校に導入されたと記録がある。既存の警備ドローンをリプレイスするという企画が大企業・ソニックコーポから提言され、実証実験が行われた。
貴校に2基の新型ドローンが新規配備され、3ヶ月の間既存警備ドローンとの共同警備を行う予定であった(なお、2基は貴校の名前にちなみ、それぞれ<アキ><アカネ>と名付けられた)
4.2 事件の発生
実証実験開始から1ヶ月後、ドローン<アキ>が児童を侵入者と誤認。追い回し、怪我を負わせてしまうという事件が発生した。
4.3 当時の対応
・加害ドローン<アキ>の撤去
・同型ドローン<アカネ>の初期化
補記
本件で、貴校の指定業者である弊社(有限会社うまのほね)への連絡は発生していない。
5.本件の対処
・ドローン<アカネ>は弊社にて解析後、適切な方法で処分を行った。
・他の警備ドローンのメンテナンスを行い、同様の事象は発生していないことを確認した。
以上
***
「……よし、送信っと」
報告書を大門先生に送り、俺は左手でパソコンを閉じた。件の騒ぎから2週間が経つが、まだ右腕はギプスのままだ。
あれやこれやと調査に奔走していた本件も、とりあえずこれでひと段落。コーヒーでも飲むかと腰をあげたとき、表から子供の声が聞こえてきた。
「おっちゃーん!」
「来たよー!」
カンタとタロウだ。「もう来たのか。早いな」と呟いて、俺は彼らを出迎える。案内する先は工房だ。
「工房の中、あぶねーから下手に触るなよ? 指が落ちるぞ」
「うえっ!? マジで!?」
そんなやりとりをしながら、俺たちは作業台を取り囲むように立つ。その上には布がかけられたナニカが置かれていた。
「これが?」
「おう。最新式だ。飛ぶだけじゃなく、歩いたりする」
「へー! すげー!」
歓声を上げる子供たちに笑ってみせると、俺は「行くぜ」と前置きして布を取り払った。
姿を現したのは、バレーボールくらいの大きさの球体ドローンだった。
その機体はルビーのように赤く輝いている。この塗装はカンタたちがやってくれた。まぁ、一部は俺がアレンジしたけど。
「さて、行くぜ」
はしゃぐ子供たちに微笑みかけ、俺は電源投入ボタンを押した。
ィィィィイイイイイン…………
静かなモーター音があたりに響く。ほどなくしてそれは浮遊をはじめて、底部からカメラが生えてきた。そいつは辺りを見回し、最終的に俺のほうを見て──
《イイジマ?》
内蔵したスピーカーから、少女のような声で俺を呼んだ。
「おう。動作は問題なさそうだな──アカネ」
そう。この球体ドローンこそが、今の<アカネ>だ。
10年間もメンテなしで飛び回り、時には大人に体当たりをかましていたしの機体はボロボロだった──それこそ、普通に飛んでいるのが不思議なくらいに。そこで俺は、新型ドローンにアカネを移植する計画を立案したのだった。
さらに、これにより「赤いドローンの破棄」という事実も作ることができる。報告書では管理体制の不備が原因と指摘したが、それでも赤い機体の破棄はポーズ上必要だろうし、いろいろと都合がよかったのだ。
──まぁ、限りなく黒に近いグレーだけど……仕方ないじゃないか。情が移っちゃったんだもん。
生まれ変わったアカネの姿を見て、カンタとタロウが歓声をあげる。
「すっげぇ! 喋った!」
「アカネ! 元気!?」
《Hi,カンタ、タロウ。げんき?》
OSのテンプレ回答も、音声になるとなんだか親しみ深い。アカネはキョロキョロとあたりを見回して、再び俺にカメラを向けた。
《なんか せかいが きれい》
「あー、カメラ性能上がったもんな。それ以外にも歩行機能だのなんだの、色々と機能も増えて──」
《へんなのついてる》
俺の説明を聞き流して、アカネは球体ボディに格納された蜘蛛状の脚を展開した。カシャカシャと動かし、再び格納した。
《なにこれ》
「お、おう……」
……恐るべし、ソニックコーポの技術力。
新型機に載せ替えただけで、その機能をシームレスに使いこなすAI。こいつなら二息歩行ロボットに積んでも普通に使いこなしそうだ。
《イイジマ?》
驚いて言葉を失っていたら、アカネが再び声をあげた。
「あ、悪い。えーと、それは歩行用の脚だな。ほら、警備ロボみたいに歩き回れる」
《あるける? カンタたちといっしょ?》
「一緒だよ!」
カンタが喜びの声をあげて、試しにやってみようと主張する。アカネはおっかなびっくり作業台の上に着地して、よたよたと歩行を始めた。
そんな様子を眺めながら、俺は思案する。
──ソニックコーポ。元は日本の上場企業であったが、ここ10年で世界有数のテック企業へと成長した大企業だ。
10年前、<アキ>が事件を起こしたときにうちに報告がなかったのは、恐らく過失ではないだろう。文句のひとつも言ってやりたい気持ちはあるが……アカネのAIを見るに、とてつもない会社だ。触らぬ神に祟りなしかもしれない。
《ここどこ? おうちじゃない》
思案する俺を遮ったのは、新しい身体の具合を確かめるように飛んだり歩いたりしていたアカネだった。
「ああ、そうだ。今日からここがお前んちになる」
《おひっこし?》
言いながら、アカネは飛び上がって俺の眼前を浮遊する。
「そ。お引越し。俺の仕事を手伝ってもらう」
「オレたちと一緒だよー!」
カンタたちが口をはさみ、アカネは交互に俺たちを見つめて。
《わかった》
作業台の上に着地して、そう答える。俺はカンタたちに目配せし、最後にアカネを見つめて、微笑んだ。
「──ようこそアカネ。"有限会社うまのほね"へ」
(第1話『学校の七不思議』 完)
第2話以降は不定期にポップします。
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