ウェイクアップ・クロノス Part4 #刻命クロノ
刻命部隊クロノソルジャー
第1話「ウェイクアップ・クロノス」
前回のあらすじ
ここは常夜の呪いがかけられた日本。クロノレッドこと鳥居夏彦が命を賭して守った少年は、名を暁 一希(イッキ)という。
病室で目を覚ましたイッキの目の前に5人の男女。戸惑うイッキに対し、5人組の中心人物・明野モヨコは高らかに「刻命戦隊クロノソルジャー」の名乗りをあげる。
一方、その頃──
- 4 -
'--同時刻
--都内某所 雑木林の中'
「ねえねえベゼル」
「なあに、ダイヤル?」
漆黒の闇が蟠る雑木林。常夜の森には鳥の声も獣の息遣いもなく、響くはただ風の音と、人ならざる者の囁き声のみ。
「ボクは準備ができたよ。ベゼルはどう?」
「ワタシも完璧よ、ダイヤル」
囁き合うのは、よく似た背格好の二人の子供だ。
同じ顔立ち、同じ髪型、同じ声。着ているのはこれまた二人お揃いのポンチョ。違うところといえば、髪と目の色、そしておかっぱ頭に乗せた円盤状の飾りくらいだ。
「なんとか間に合ったね、ベゼル」
片や、青髪青目の少年。名はダイヤル。
「ええ、なんとか間に合ったわ、ダイヤル」
片や、赤髪赤目の少女。名はベゼル。
彼らはヤミヨ──常夜の元凶たる怪人、その幹部の一角である。
「みんなおとなしくしてるね、ベゼル」
「そうね、本当に従順な子たちよ、ダイヤル」
囁き合いながら、双子は振り返る。
そこには、人型の”影”が隊列を組んでいた。
50体ほどはいるだろうか。ランタンのような兜が特徴的な、夜よりもなお黒い"影"。それらは2メートルほどある身体を西洋式の甲冑で覆い、ぬらりと佇んでいる。
「ああ、楽しみだなあ。まだかなぁ、ベゼル」
「ええ、ええ、楽しみね。もうすぐよ、ダイヤル」
ベゼルとダイヤルはくすくすと笑う。と──
「ハローハロー、ちびっ子たち。準備はできたかい?」
そんな呑気な声と共に、虚空から手が生えてきた。
歪んだ空間を掻き分けるように生えてきたその長い腕は、辺りを探るように二つある肘を様々に動かし──やがて行き当たった手近な木を、がっしりと掴んだ。
「よっこい……しょ、っと」
そうしてずるりと現れたのは、水晶頭にシルクハットの細長い怪人である。
「リューズがきたよ、ベゼル」
「リューズがきたわね、ダイヤル」
「おーオッケーオッケー、準備万端じゃん!」
囁き合う二人には構わず、水晶頭の怪人──リューズは佇む"影"の部隊を眺めて満足げに頷いた。
「いやーよかったー。これで全員準備完了っと! あとは王様の合図を待つだけだねー」
「ボクたちが最後みたいだよ、ベゼル」
「そうみたいね、ダイヤル」
「そりゃそうだよ、お前ら二人はいつもギリギリなんだから」
「ボクらだって頑張ってるのにね、ベゼル」
「そうね、心外よね、ダイヤル」
ベゼルとダイヤルは互いに顔を寄せ囁き合い、リューズのことを見ることはない。当のリューズもそれを特に気にする様子はなく、手にしたステッキをクルクルと弄びながら双子に向かって口を開く。
「ま、今回遅刻してたらマジでぶっ殺すつもりだったけどね」
「"殺す"だって、ベゼル」
「面白いわね、ダイヤル」
「言葉の綾だよ。まったく、可愛げがない」
くすくすと笑い合う双子を見て、リューズは肩を竦めた。まぁ確かに、純粋な戦闘力ではこの双子には敵わない。
「遅刻なんてするわけないよね、ベゼル」
「そうよね、今日は思い切り暴れられるものね、ダイヤル」
「そうだよ、お邪魔虫も死んだからね、ベゼル」
「そうよね、ダイヤル──」
魔性の双子はクスクスと笑い合い、言葉を続けた。
「──クロノレッドがいなければ、他の奴らはゴミだものね」
***
'-- 同時刻
-- 東京都渋谷区 総合病院 11:06 AM'
「──3年前、この国は常夜に囚われた。各国の研究機関は原因が不明だのなんだのと言っているが……この天才モヨコ様にかかれば、この程度の事態は謎ですらない」
病室に響くは、モヨコちゃんの声とヒールの音。人さし指を上向けて、彼女は楽しそうに説明を続ける。
「これは学会で発表したのがつい最近なので、まだあまり浸透はしていないんだが──」
……ん?
「学会?」
「モヨコちゃんは13歳でアメリカの大学院を飛び級卒業した天才児なの」
首を傾げた僕に、ノゾミさんが補足してくれる。……いや、なに、飛び級?
「……漫画のキャラクターみたいですね……」
「ふふふ。まぁ悔しがることはないぞ、少年。なんせモヨコ様は天才だからな!」
そうして豪快に笑い、モヨコちゃんは説明を再開する。
「私の研究では、この常夜を作り出しているのは特殊なエネルギー粒子──有り体に言えば魔力のようなものだ」
「ま、魔力?」
「そう。そしてその魔力を喰らう存在がいる。それが我々戦隊の敵。常夜の元凶──ヤミヨだ」
常夜の、元凶。
──あいつの名前はリューズ。俺たち人類の敵、3年前から続く常夜の元凶、その内の一体だ。
脳裏を過ぎるは夏彦さんの遺した言葉。
「ちなみにヤミヨというのは私の助手のネーミングだ。私はダークネススカベンジャーと名付けたのだが──」
「あ、あの」
気付けば僕は、モヨコちゃんの説明に口を挟んでいた。
「……リューズって奴も、ヤミヨなの?」
彼女は一瞬意外そうな顔をしたが、すぐに楽しそうな笑顔を浮かべて大仰に頷いてみせる。
「その通りだ少年! それはヤミヨの幹部! 奴らは狡猾で知能が高いが、リューズはとりわけ──」
「おい、待てよ」
今度モヨコちゃんの言葉を遮ったのは、地面に胡座をかいたままのハルさんだった。
「つまりなにか? 夏彦さんを殺したのは、リューズの野郎ってことか?」
「ぅん?」
立てたままの人さし指に視線をやり、少しだけなにやら考えた後──モヨコちゃんは、頷いた。
「そうなるな!」
「そうか」
それだけ言うと、ハルさんはゆらりと立ち上がる。その目に憤怒と殺意を浮かべ、彼は戸口へと踏み出し──
「どこに行く気だ、葉山」
そんなハルさんを呼び止めたのは、青いジャケットを着た男の人だった。ハルさんは即座に足を止め、そちらを睨みつける。
「リューズぶっ殺しに行くに決まってんだろ」
「は。鳥居が倒せなかった怪人をお前が倒せるわけがないだろう」
「ンだとメガネ! てめーは悔しかねーのかよ。夏彦さんが殺されたんだぞ!」
「それは鳥居が弱いくせにでしゃばるからだ」
「テメェ……!」
「はいはい、そこまーでー」
一触即発の2人の間に割って入ったのは、桃色のセーターを着た女の人だった。切れ長のつり目で長い睫毛が揺れる。ノゾミさんとは対局の、派手な印象を受ける美人。
「ッ……ンだよカオル? 邪魔を──」
彼女は、なおも喚くハルさんの口に人さし指を向けて黙らせ、口を開く。
「やめな? 少年がドン引きしてっから。それに──」
彼女──カオルさんはそこで言葉を切ると、持っていたスマホの画面を僕らに向けた。
「アラートだよ」
──同時に。
病院が、揺れた。
(つづく)
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