見出し画像

「よろず屋サカズキ」営業中

 ──この酒、味がしない。

 それに気付いたのは、皿に零した酒を啜った時だった。

 半年に渡る週7バイトと夕飯モヤシ生活を経てようやく購入した幻の酒、<龍の声>。芳醇な香りと裏腹に飲み口は軽やかで、後から健やかな甘みと爽やかな酸味、そして暴力的な旨味が押し寄せる、龍をも唸らす銘酒……の、はずなのだが。

「……?」

 俺は手元の皿──酒浸しになったエイヒレの皿から、銘酒をもうひと啜り。

 ……やはり味がない。水のほうがマシだ。

「いや、え、エイヒレのせいかも……」

 呟き、俺は卓袱台の酒器を手に取った。

 梅柄の、白い盃。馴染みの骨董品屋のクジ引きで当てたものだ。

 先ほど倒してしまったが、底にはまだ酒が残っている。俺は祈るような気持ちで、杯を傾けて。

「~~! うめェ!」

 津波の如く押し寄せる極上の味! よくわからんが、こいつなら美味しく呑めるっぽいぞ!

 喜びと共に、俺は再び盃を口元に近づけ──その時。


『はい、そこまでー!』


「!?」

 盃が、喋って、飛んだ。

『ここからは別料金やで!』

 そいつは声をあげながら俺の周囲を舞い、目の高さで静止する。

「さ、ささ盃が飛……喋っ……!?」

 狼狽える俺などお構いなしに、そいつは少女のような声で言葉を続けた。

『なぁなぁなぁアンタさん? ウチでもっとお酒飲みたいよなぁ?』

「あ、はい、まぁ……」

『んふふーせやろせやろ? でもなー、タダってワケにゃいかんのよ』

「……というと?」

 身構える俺。盃は愉快そうに声をあげる。

『そんな怖い顔せんでや。ちと、仕事を手伝ってもらうだけや』

「仕事……?」

『そ。実はウチな、あの店で探し物をしててん。でもウチだけじゃ、ちょーっとしんどくてな?』

「お、おう……?」

 なおも訝しむ俺に、盃は「ちなみに、」と言葉を続けた。

『探し物は箸置きや。刀の形の奴な』

 箸置き。

 その言葉を聞いて俺の脳裏を過ったのは、骨董品屋のチラシだった。

見切り品処分ガチャ
 A賞
 B賞
 ・
 ・
 ・
 F賞 ランダム箸置き 全120種

(つづく/800文字)

🍑いただいたドネートはたぶん日本酒に化けます 🍑感想等はお気軽に質問箱にどうぞ!   https://peing.net/ja/tate_ala_arc 🍑なお現物支給も受け付けています。   http://amzn.asia/f1QZoXz