ウェイクアップ・クロノス Part3 #刻命クロノ
刻命部隊クロノソルジャー
第1話「ウェイクアップ・クロノス」
前回のあらすじ
ここは常夜の呪いがかけられた日本。クロノレッドこと鳥居夏彦が命を賭して守った少年は、名を暁 一希(イッキ)という。
病室で目覚めた彼の側には、ノゾミと名乗る女が付き添っていた。事情を聞いていると、あとから別の男が病室にやってきて──?
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「……なんだ、起きたのか、そいつ」
彼は冷たい声で言い放った。
その言葉に込められたあからさまな敵意に、僕は思わず鼻白む。代わりに言い返したのはノゾミさんだつた。
「ちょっとハル。そんな言い方──」
「は? ノゾミのほうこそ、なんでそんな奴にヘラヘラしてんだよ」
ノゾミさんの言葉を遮って、彼──ハルさん(?)は、スタジャンのポケットに手を突っ込んだままズカズカと部屋に入ってくる。そして僕を威圧的に見下ろすと、怒りの滲む声で言い放った。
「……こいつのせいで、夏彦さんが死んだんだぞ」
「……!」
──俺は鳥居夏彦。お前を巻き込んで、お前の運命を捻じ曲げた男だ。
瞠目した僕の脳裏を、あのおじさんの言葉がよぎる。夏彦さん。僕の命を救ってくれた人。赤い革ジャンの、おじさん。
「ちょっと、ハル、やめなよ!」
「だってそうだろ。こいつが居なければ今頃夏彦さんは──」
「やめなって!」
バンッという音は、ノゾミさんがサイドテーブルを叩いた音。ユーリがひっと声をあげ、僕も思わず身を竦め──ハルさんもようやく口を閉ざす。ノゾミさんは俯いたまま、口を開く。
「……やめてよ。夏彦くんは、きっとそんなこと思ってないよ……」
「ッ……とにかく」
ノゾミさんの消え入りそうな声に気勢を削がれたのか、ハルさんは言いながら踵を返して歩き出し──
「とにかく……俺はそいつを許さねぇからな!」
そんな言葉を置いて、部屋を出ていった。
「…………えっと…………」
「あはは……ごめんね、イッキくん」
完全に空気に呑まれてなにも言えない僕を見て、ノゾミさんは薄く微笑み、傍にあった椅子に腰かけると頭を下げた。
「……ほんとに、ごめん。ハルもわかってるはずなんだけど」
「あ、いえ……」
「それで……ええと、私たちの仕事のことなんだけど……そうだな、どう説明したらいいか……」
なんとも気まずい空気の中、顔を上げたノゾミさんは視線を彷徨わせる。そうしてなんとか口を開こうとした──その時だった。
「そこから先は、私が説明しよう!」
ノゾミさんの説明は、またしても来客によって遮られた。
「おいっ! モヨコ! 離せ!」
「やかましい! 全員揃わんと格好がつかんだろう!」
「ちょっと、ここ病院。静かに!」
「ハァ……」
ドヤドヤと騒がしいやりとりと共に、その来客たちは病室に入ってきた。
青いジャケットを着た眼鏡の男。桃色のセーターを着たツインテールの女の人。そして──先ほど飛び出したハルさんと、その首根っこを捕まえているのは……女の子?
僕が首を傾げたのと、ユーリが声をあげたのはほぼ同時だった。
「あ、モヨコちゃん!」
「よーぅユーリ! 3日ぶりだな! 元気だったか?」
「げんきー!」
モヨコと呼ばれたその小柄な女の子は、年齢はユーリ(8歳)の少し上くらいに見える。しかし、なんというか全体的に日本人離れしていた。
まずその髪。ショートカットに切り揃えられた髪は炎のような鮮烈な赤色だ。自信に満ち溢れ爛々と輝く大きな瞳も同じく真っ赤。蝋のように白い地肌と相まって強烈なコントラストを醸し出している。
そしてなにより、暴れるハルさんをその細腕でずるずると引っ張っていて──
「目覚めたと聞いて飛んできたぞ! 少年、調子はどうだ?」
「うぁだっ!?」
八重歯を見せてニカッと笑い、モヨコちゃんは腕組みした。……ちなみに直後の悲鳴は、唐突に手を離されて床に転がったハルさんのものだ。
唐突な事態に目を白黒させながらも、僕は辛うじてモヨコちゃんの問いかけに答える。
「は、はぁ……ええと、全身痛い……かな」
「うむうむ、まぁそうだろうな。初見でクロノスバンドの力を使ったんだ、相当な負荷だったろう」
「クロノスバンド……この時計?」
「そう、その時計だ! あのビル崩落現場から君と、君の妹を守った奇跡のスーパー・ウォッチ! それを開発したのがこの私、明野モヨコ様だ!」
「か、開発?」
「そうだ! そしてそんな天才モヨコ様を司令官とし、ここに居る柚木のぞみ、葉山春伸、空井翔、桜井香! 加えて、死んでしまった鳥居夏彦! この5人こそ、クロノスバンドの力を行使して街を守るために戦う若人たちだ! 目の眩むような眩しき陽を! 抜けるような青空を! 生い茂る緑の木々を! 暖かな木漏れ日を! 芳しきあの春を! 各々が胸に抱く希望を取り戻すため、人知れず戦い続ける、5人の戦士! その名も──」
モヨコちゃんはそこまでひと呼吸で言い切ると、くるりと回って人差し指を天井に向け、決めポーズ。そして不敵な笑みと共に、高らかに宣言した。
「──刻命戦隊、クロノソルジャーだ!」
(つづく)
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