有限会社うまのほね 第1話「学校の七不思議」 Part4
前回までのあらすじ
玩具からAIまで様々な機械修理が専門の技術者・飯島ハルキは、"ドローンのお化け"にさらわれた少年を助けてほしいという依頼を受け、小学校へ乗り込んだ。
調査の中で救出対象のタロウを見つけたハルキたちであったが、タロウは理科室から泣きながら転がり出て、走り去ってしまった──
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「こんにちは」
薄暗い部屋の中、そいつはめちゃめちゃ良い声で話しかけてきた。
そして爽やかな笑顔と共に、両手に握った”それら”を差し出してきた。
「どうぞ。これは膵臓です。こっちは肝臓」
「~~~~~~~~っっっ!?!?」
カンタも俺も声にならない悲鳴をあげながら部屋から転がり出た。
そこは3号棟1階の中庭に面した教室──理科室だ。先ほどタロウが一瞬入って転がり出てきた扉の前に俺たちは居る。再び行方不明になったタロウを探す前に、彼になにが起きたのかを知ろうと思いここにやってきて……こいつと出会ったのだ。
俺たちは開いたままの扉から遠巻きに、中にいるそいつの様子を確認する。身長は170センチほどだろうか。モデルのような体系で、顔の右半分はとても端正な顔立ちをしている。
が、問題はそれ以外だ。まず顔の左半分は眼球や筋肉が露出している。そして全裸で、胴の正面は皮も骨もなく、むき出しの内臓が形よく収まっているのが確認できる……あれ、こいつもしかして……?
「……じ、人体模型……なのか?」
俺を盾にしてガタガタ震えるカンタの背中をさすりつつ、俺は呟いた。その言葉を認識したのか、そいつは差し出した臓器を身体に仕舞いながら口を開く。
「はい。私はコミュニケーション・ヒューマン・アナトミック・モデル。名前はチャムです。よろしく」
「よ、よろしく……」
そういえばこないだ学校からAIのチューニングの依頼が来ていた。週明けに対応する予定だったが、どうやらこいつのことらしい。俺も現物を見たのは初めてだ。
硬直したままの俺たちに爽やかな笑顔を向けたまま、人体模型・チャムは右手で臓器のひとつを取り外して差し出してきた。
「お近づきのしるしに、こちらをどうぞ。心臓です」
言い終わると、チャムは無言でこちらを見つめ、返事を待っている。正直めちゃめちゃ怖い。誰だこいつの導入を決めたのは。
「い、いや……要らない。仕舞ってくれ」
「そうですか」
俺がそう言うと、チャムは微かな駆動音と共に元の姿勢に戻った。
「では、なにを見たいですか?」
「えーと……」
少し悩んだ後、俺はそいつに指示をした。
「授業は終わった。電源をオフに」
「はい。お疲れ様でした」
そう言うと、チャムは項垂れて動かなくなった。俺は理科室の扉を閉めて、背中にしがみついているカンタに話しかけた。
「カンタ、終わったぞ。タロウを探そう」
「う、あ……あの……」
なにやら歯切れが悪い。
「どうした?」
「そそっそそのまま動かないで!」
カンタは叫びながら、振り返ろうとした俺のジャケットの裾を強く握ってきた。怪訝に思いつつ、俺はふと足元に視線を移す。
──そこには、小さな水たまりができていた。
「……カンタ」
「………………」
呼びかけて、改めて振り返る。カンタはなんとも言えない複雑な表情を浮かべていた。
……まぁ、気持ちはわかる。
若干の気まずさを感じつつ、俺はカンタに向かって口を開いた。
「……とりあえず、トイレ行くか」
(つづく)
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