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21XX年プロポーズの旅(5)

(承前)

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 ──昨夜、月面基地行きの星間バスで発生した小惑星激突事故の続報です。被害者は重傷者10名、重体4名、軽傷30名、死者4名──

「やってしまった……」
 僕は星間ターミナルに流れるニュースを見ながら、後悔に頭を抱えていた。

 流れている言語は火星の土着言語。歩いてる人の8割が火星人──ここは火星。太陽から見て、地球の次の惑星である。

「飲み物買ってきたよ」
「あ、ああ……ありがと」

 売店から戻ってきたリカコがくれた海洋深層水をひとくち飲んで、僕は大きく息をついた。

「はあ……火星かぁ」
「なんとか逃げられてよかったねぇ」
 リカコはニッコニコだ。可愛い。しかし和んでる場合じゃないのだ。

 やってしまった。

 ここじゃダイヤモンド・リングどころか日食そのものが見えないじゃないか!

 月に折り返そうにも、僕らが──いや、リカコが起こした事故(事件?)のせいで運休が多発してるせいでしばらくは惑星から出られない。
 ちくしょう、リカコのせいだ。可愛いから許すけど!
 とにかく日食まであと3日。ボヤボヤしてはいられない。僕は酸欠でフラフラする頭を4本足で支えて立ち上がった。

「ちょ、ちょっとまだ無理よ! 無茶したんだから!」
「ああうん……無茶したのは君だけどね……」

 ──最強騎士アーサーから逃げるべく、リカコが星間バスの壁をぶち破って外に出たあの時。

 僕はリカコの全身を覆って、宇宙服のような役割を果たした。クラーケン族は気圧や温度の急激な低下にも余裕で耐えられる。壁をぶち破って宇宙空間に脱出するのは、僕ら"オクト&レオン"の常套手段なのだ。

 しかし、リカコの無茶はここからだった。彼女はそのまま数百メートルほど宇宙を遊泳し、通りすがりの星間バスの機体表面に取り付いたんだ! 第三宇宙速度で通過する機体表面にだ!

「流石に死ぬかと思ったよ……」
「相手はアーサーだもの。あのくらいしなきゃ逃げられないかなって」

 ごめんね、とウィンクするリカコ。可愛いから許す。

「それはそうと……結局なにを盗んだの?」
「ああ、えーと……」
 少しの間をおいて、僕は事前に考えていたとおりに答えた。

「"王国"の機密情報なんだ。それも最上級の」
「それって、例えばアーサーの性癖とか?」
「いやそれはないな……?」
 内容まで考えてなかったけど、まぁなんとか誤魔化せそうだ。

「とにかく、これを知ったら君も命を狙われることになる。よほどヤバいときまで、内容は秘密。いいね?」
「えー!? いいじゃん教えてよー!」
 リカコはしばし駄々をこねたが、こればかりは絶対に秘密だ。彼女のためのサプライズなんだ。

「とにかく。この機密を持って、月までいかなきゃいけない」
 僕は大きく背伸びをした。そして、リカコに向きなおる。
「期限は、あと3日」

 そう。あと3日で"ダイヤモンドリング"が起こる。それまでに、僕らは月に行かねばならない。

「そうと決まれば話は簡単ね」
 そう言って、リカコは僕の手を引いた。

「星間バスをかっぱらうわよ」
「さすがリカコ! 天才!」

 僕らは笑いながら火星ターミナルを駆け抜ける──

(つづく)

続き


2018.11.26 作者よりお詫び
 本文中にケアレ・スミス氏が登場し、「日食」と「月食」を間違えるという誤植が発生しておりました。誤植は修正され、スミス氏は罰として「月面で月食は見えません」と唱えながら御百度参りをしました。
 お知らせはいじょうです。

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桃之字/犬飼タ伊
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