第5話「憧れは紫煙に消ゆ」 エピローグ #hk_amgs
碧空戦士アマガサ
第5話「憧れは紫煙に消ゆ」
(前回のあらすじ)
湊斗=アマガサは、九十九神コハクの力を借りて雨狐ジロキチを見つけ出すことに成功した。リターンマッチの最中、再度逃走を図るジロキチ。再度取り逃しかけたその時、コハクが動いた。遺棄されたバイクに妖力を注ぎ、復活させたのである。
アマガサの駆るバイクはリュウモンの風の刃を纏い、ジロキチを撃破する。青空の下、ジロキチは「ああ、楽しかった」と言い残し、爆散したのだった。
- エピローグ -
「……というわけで、改めて紹介する」
ジロキチの事件から2日後、時雨本部──その屋上。
晴香のみならず、そこに居るのはタキ、凛、乾、ソーマ、そして隊長・光晴と、ついでに涼子だ。超常事件の関係者が今、一堂に会している。
彼らの視線が向かう先は、屋上の中央。
そこに佇むは、湊斗……の、変身後の姿。
白銀の戦士アマガサが、全員の前に立っている。
「天野湊斗、コードネーム『アマガサ』。そんで……」
晴香がちらりと視線をやった時、アマガサの手元から九十九神たちが飛び出した。
『カラカサ!』からーん。
『リュウモン!』びゅおーん。
『コハク!』もっくもく。
意志持つモノたちはアマガサを囲むように旋回し、めいめいに謎のポーズを取った。
『『『我ら、九十九神三人衆なり!』』』
沈黙。
謎ポーズで静止した九十九神たち。反応に困りまくっている人間たちを見て、真っ先に限界を迎えたのはカラカサだった。
『こ、コハク! どうするのこの空気!』
『し、知るかよィ! 俺に言うなィ!』
『いやコハクが言い出したんでしょ!?』
ギャイギャイと喧嘩を始める九十九神たちを一瞥して、晴香が口を開いた。
「……そういうわけで、こいつらも湊斗と一緒に超常事件の元凶を退治している協力者。九十九神の三馬鹿だ」
『だ、誰が三馬鹿でィ!』
コハクは先日の事件以降、すっかり時雨に居着いてしまった。湊斗と凛に懐いているが、晴香のことはまだ怖いらしい。
ジロキチと“鼠小僧”の因縁については、結果としてわからずじまいだった。コハクは「ま、あの紫陽花とかってヤツを追っかけりゃわかることよ」と笑い、湊斗の戦いに力を貸すことを約束してくれた。ちなみにバイクはメンテナンス中だ。持ち主探しから始めるので少し時間がかかるだろうと晴香が言っていた。
アマガサは変身を解除し、時雨メンバーを見回す。既にアマガサのことを知っているタキ、ソーマ、凛、涼子はさておき──
「……えっと、乾さん? 大丈夫ですか?」
「……………………」
湊斗の言葉に返事はない。隣で腕組みしていた光晴が、その顔を覗き込んだ。
「……こりゃ気絶しとるな」
「立ったまま……!?」
思わずツッコんだ湊斗の言葉に、光晴はカカカと笑う。そんな爺さんを見て、湊斗は問いかけた。
「というか、隊長はあんまり驚いてないみたいですね?」
「ん。まぁ、変身したのは驚いたが……カラカサはワシ、知っとったし」
「え」
ぎょっとした様子の湊斗に微笑みかけ、光晴はカラカサへと視線を移した。
「キッチンでつまみ食いしとるのを何度か目撃してな」
『ぎくっ』
「カラカサお前……」
湊斗がため息と共にカラカサを睨む。それを微笑ましげに眺めながら、光晴は言葉を続けた。
「不審者ならば背骨くらい叩き折ってやるとこなんだが、さすがに妖怪となると効くかわからんでなぁ」
『ひえっ』
「そういうわけで、しばらく泳がせておったんだ。いつも湊斗くんの部屋に戻るから、なにかしら関係があるんだろうと思っていた」
「……命拾いしたねカラカサ?」
『う……あ、……はい……すみませんでした……』
「ま、雑談はそのくらいにして」
晴香が口を挟む。一同の視線が集まる中、彼女は湊斗へと声を投げた。
「湊斗。ここから先の説明は頼む」
「うん。……まずは、みなさんに秘密にしててごめんなさい。ここから俺が話すのは超常事件の元凶、“雨狐”についてのこと。そして、これからの戦いについてのこと」
湊斗は隊員たちひとりひとりの顔を見る。乾は相変わらず気絶しているようだが、それ以外のメンバーは「みなまで言うな」と言わんばかりの表情だ。
「俺はあいつらを倒したい。だから協力してほしい。次の作戦は──」
そうして湊斗は、決意と共に言い放った。
「──雨狐の本拠地を見つけて、こっちから叩こうと思う」
***
「くぁ……ジロキチの奴、あっさり逝っちまったな」
「おや。お目覚めですか」
「起きてはいたぞ。アマノミナトとの戦いも“見てた”しな」
イナリは起き上がる。広がるは灰色の荒野。なにも見えぬ虚無の世界。
眼前に座すは、紫陽花ともうひとり。花魁の服装をした雨狐・羽音(ハノン)。彼女は小首を傾げ、問いかけてくる。
「王様、元気? 調子はどう?」
「悪かねぇ。今回の“欠片”は大人しいな」
「そう感じるのはおそらく、あなたの力が強まっているからかと」
「ハッ。そいつァいい」
口を挟んだ紫陽花にそう応え、イナリは言葉を続けた。
「紫陽花。ジロキチが死んだ今、屋根下にある欠片をとってこれる奴ァいなくなった……そうだよな?」
「ええ。とはいえ、あと2箇所くらいですが」
「ほう。どこだ?」
「……まさか、行く気ですか? まだ“欠片”が馴染むまで時間が──」
「ンなこたわかってる。お前は本当に退屈な奴だな」
イナリは体内で暴れ回る妖力を噛み締めながら、獰猛な笑みを浮かべた。
紫陽花と羽音(ハノン)はその時、同時に怖気を抱いていた。
「“試し振り”だよ。いいだろそんくらい?」
大きな力が、動こうとしていた。
第5話『憧れは紫煙に消ゆ』
完