スペース紅白歌合戦 #1200文字のスペースオペラ
「ずん、ずんずん、ずんどこ」
「°〆<4¥〆%2〜!」
全身をサイボーグに換装した氷川きよしが歌うのに合わせ、多脚生命体たちが黄色い声をあげる。名実ともに“永遠の若手”となったイケメン演歌歌手は、月面を揺らさんばかりの盛大な声援の中でパフォーマンスを終えた。
「ありがとうございました! 『きよしのズンドコ節21XX』でした!」
総合司会(男性枠)は拍手とともに言葉を続ける。
「続いては紅組ですが──おっと、中継が繋がっているようですね?」
「はーい! こちら、星間高速船の甲板でーす!」
宇宙空間、超高速の宇宙船壁面に立つのは、総合司会(ロボ枠)のFUK-KUNである。
「続いてのパフォーマンスはPafumeの皆さんです! 100年前から毎年、最新技術を積極的に取り入れたパフォーマンスを続けてきた皆さん。今年はここの場所からだとよく見えるそうですが──おや?」
FUK-KUNは大仰に首を傾げる。そのアイカメラが天体望遠鏡並の超倍率まで画像を拡大。そこでは──
「惑星たちが膨張して……あっ! ば、爆発してます! こ、これはまさか……!?」
『そうでーす! 最新式の超新星爆発発生装置でーす!』
「なるほど〜!」
FUK-KUNの通信回線に、Pafumeの3人の声が割り込んでくる。FUK-KUNは納得したように頷くと、カメラに向かってニッコリと笑った。
「超新星爆発の光をバックにお届けする壮大なパフォーマンス! 曲はもちろん、100年以上歌い継がれる、こちらの曲です!」
「チョ・コ・レ・イ・トッディスコ! チョ・コ・レ・イ・ト──」
──宇宙世紀に突入し、紅白歌合戦は単に歌を披露するだけのイベントではなくなった。熾烈化するパフォーマンス合戦、音圧戦争、テレビ映え、そういった各要素は惑星外からやってきた技術によって宇宙規模にまで発展したのだった。
「サぁ紅白歌ガッ戦もクライマっくすでス! 続いてはマイ年恒例、巨ダイ衣装コーなー!」
「まずは白組! 今年はすごいですよ! 引退宣言から150年の時を超え、伝説が今、蘇ります!」
総合司会(概念枠)の言葉を継いだのは総合司会(男性枠)。彼自身が幼い頃にテレビで観た“あの人”を今一度観られることに興奮を隠せない。
「曲は、『愛の讃歌』! 歌うはもちろん! 美川憲一さんです!」
直後。
サソリ座星雲が、美川憲一となった。
「こっ……こレは!?」
総合司会(概念枠)が声をあげる。彼は感じ取ったのだ──同族の気配を!
「苦節100年以上! 概念となってサソリ座星雲を覆い尽くした美川さんが、再び、紅白の舞台に立ちます!」
サソリ座星雲の星々が蠢く。惑星のひとつひとつを振動させて発する『愛の讃歌』を聴きながら、彼女は──小林幸子は宇宙(そら)をあおいだ。
「……やるわね」
人間大の小林幸子が呟く。そして歌が終わり──彼女の出番。
「でも……私は、負けないわ」
──創世の日。
後世の人々は、この日の出来事をそう呼ぶことになる。
(おわり/1200文字)
この作品は、城戸センセー企画の #1200文字のスペースオペラ に参加するために書き下ろした作品です。