将太の寿司に迸る説得力の話
この記事を読んだ後、将太の寿司を読んでくれ
弊タイムラインで最近急激に話題になった料理バトル漫画がある──聡明な読者の皆様ならばこれだけでもうおわかりだろう。
そう、将太の寿司だ。
ここで「え? 寿司でバトル? お寿司なんて酢飯に生魚を乗せるだけでしょ?」と思ったやつは唇がめくれ上がって死ぬ。そもそも将太の寿司世界において「寿司は米に魚乗せただけ」とか「寿司職人よりも◯◯のほうが格が高い」とか言ってマウント取った奴はもれなく唇がめくれ上がり勝負に敗北しギャラリーから笑いものにされプライドをズタズタにされ業界を追放されて唇がめくれ上がる。
奴らは容赦しない。発言には気をつけたほうがいい。
めくれた者から死んでいく
この作品のレビューや感想記事、特集などは、こことかアンサイクロペディアやらTogetterやらで「とにかくクズが多い」「クズが最高」「唇がめくれ上がってる」「クズがマジでクズ」など盛り上がっている。
どうしてもオモシロ系な部分がメインに取り上げられてしまう作品だが、しかしそこはそれ、私はセレベスト織田信長にヒーローを見た男である。その感受性ゆえに、私は将太の寿司を読んで素直に感動し、繰り広げられる接戦に胸を打たれ、連載中の小説の更新日を大きくぶっちぎった。その節は本当にごめんなさい。
そういうわけで、オモシロ系な部分は上記のレビューやTwitterの感想にお任せするとして、私からは単にトンチキ料理対決を楽しむものでも、単にクズが滅びるのを楽しむものでもない、将太の寿司のエモみとも言える部分──説得力について語ろうと思う。
将太の寿司に迸る説得力
将太の寿司の主題は料理対決である。新人寿司職人コンテストを主軸として兄弟子や様々なライバルたち、時には日本料理人やフランス料理人なんかと料理対決したりする。
料理対決といえどもバトルものであるため、勝敗の描写に説得力が必要だ。例えば魔王を殺せば勇者の勝ちだし、相手よりも高得点を取るか相手を試合続行不能にすれば越前リョーマの勝ちだし、敵のおもてなしを乗り越えて脳みそを信長らせれば信長様の勝ちだ。
しかし、例えばバラエティ番組における料理対決番組などを思い返してもらうとわかりやすいのだが、料理対決というものはどうしても属人的もしくは民主主義的な基準で物事が進むため、勝敗描写が難しいものであると私は思っている。
そんな難しい料理対決モノでありながら、将太の寿司には全ての勝利に説得力がある……と、私は思う。
こういうこと書くと「いやいやあの勝利はどうなんだ」とか「あれは都合良すぎなかったか」とか枝葉の部分を持ってとやかく言う奴らがいるが漏れなく唇がめくれ上がって死ぬから問題ない。相手が妨害のために異常な財力で市場の魚を買い占めようと新幹線に轢かれた奴が翌日寿司を握っていようと多重人格のやつが寿司を握ろうと塩1粒の違いすら見分ける舌を持った奴がいようと、そんなことは枝葉の話だ。
こいつはめくれたあと修行僧になり激ヤセした
ここでいう「説得力」というのは、なにも原理的に正しい/間違ってるとか、現実的に可能/不可能とか、ご都合主義すぎるとか、そういう説得力ではない。原理的な正しさや現実味というのは、勿論それが説得力になることも多々ある。ただ、それがなくとも説得力は生まれる。例えばバーフバリに現実味はないけどあの強さには説得力がある。仮面ライダーウィザードがレギオン戦で一度は失った魔法の力を取り戻したのは都合が良すぎるが彼の信念を思えば凄まじい説得力がある。
主人公の成長や意志、相手の弱点や盲点、対戦ルール上の穴、そしてシナリオ上の屋台骨となる主題……説得力にはそういった様々な要素が絡み合っている。
例えば物語の序盤、将太と佐治の戦い。
佐治はなかなかのクズ野郎で、そのクズっぷりに感動すら覚えるがその話は他のレビューに任せるとして、将太を見下し執拗にイビり続ける佐治に食らいつき、対等の"敵"と認めさせ、そして打ち克つまでの流れは相当な説得力がある。
ライバル佐治(左)と本作の主人公・将太(右)
そもそも主人公の将太は若干15歳の少年だ。寿司屋の倅だが、寿司を初めて握ったのは3ヶ月前。ひょんなことから東京三軒茶屋にある鳳寿司というところで修行することになり、そしてひょんなことから、修行5年目の兄弟子・佐治と寿司対決をすることになる。将太は徹夜に徹夜を重ね、次々と基礎を習得していく。しかし相手は5年のキャリアを持つ強敵だ。普通に考えて勝てる戦いではない。
しかし、将太は勝つのだ。それも、説得力を持って勝つのだ。
将太はまず、腰抜けが想像しただけで失禁するような努力を詰む。これがひとつ目の要素だ。それだけ聞くと「単なる努力で勝てるわけがないじゃん」とお思いだろう。だが、この作品を第1話から読んでいると、「なんか勝つんじゃないかこれ?」と思う。この作品にはそういう魔法がかけられている。その魔法とは、刷り込みだと私は考えている。
将太には「その集中力、学習能力、習熟力が凄まじい」という設定がある。しかし、これはキャラ紹介では明言されていない。明言されていたら「なーんだ天才のバトルものか」で終わってしまうが、将太の寿司はそうならない。ここに刷り込みの妙がある。
この作品では、第1話からこの大きな戦いに向けて、この「学習能力がすごい」設定を読者に刷り込んでいくのだ。唐突に出されると拒否反応が出るその設定も、徐々に徐々に刷り込まれることで自然に受け入れてしまう。無意識のうちに「将太はすごいから勝つはず」と思わされる。この丁寧な刷り込みによりこの作品全体の説得力が底上げされる。
次の要素は情熱だ。
将太が異常なまでの学習能力を発揮するのは、ひとえにその情熱ゆえだ。そしてその情熱は数々の大物たちを納得させ、協力体制を築いていく。築地で1番の目利き・百目の辰を皮切りに、彼の協力者だかファンだかわからない人が次々に増えていく。それを見た我々読者は「こんなに凄い人が太鼓判を押したものなら間違いないね!」となる。そして前述の刷り込みを経て訓練された読者は「このテクニックを将太が身につける? それは、勝ち目があるかもしれない!」と思う。私はちょろいからそう思った。だからこれは真実だ。
最後にもうひとつある。それは誠実さだ。
将太は大物たちのテクニックを習得し、最高の素材と、手にした後も油断しない。この世界ではそこで「これで勝ちだわー」となったやつから唇がめくれ上がって死ぬ。
将太は誠実な男だ。だから、自らの作るモノや勝負そのもの、対戦相手、審査員……そういったものと誠実に向き合い、脳が千切れるまで考える。その結果、大物たちすら驚くような工夫を凝らし、成長し──勝利する。
事実、佐治との勝負の決め手はその誠実な心にあった。
様々に形を変えて、この言葉が出てくる。
勝利の要となったのは、将太が食べる人のことを最後まで誠実に考え続けた結果導き出した"工夫"であった。そしてこれは、44+2巻に渡り徹頭徹尾語られてきた「寿司は人のために握るもの」という言葉そのものである。
この誠実さ故の工夫の差を目の当たりにした瞬間、その衝撃は承前の刷り込みや熱意と化学反応を起こし、説得力という名のだいばくはつをおこす。
どれかが欠けた奴は絶対負ける
対戦相手たちに限らず、将太自身すら、各要素を不意に忘れ、負ける。
戦う将太に感情移入しながら夢中で読み進め、「これは絶対勝った!!」と喜んでいるところで「お前はここに夢中になるばかりに、最後に食べる者のことまで考えていなかったのだ」とか大上段から頭蓋を割られて死ぬ。
超格上の対戦相手にネタ選びも調理技術もなにもかも負け、どうあがいても勝てない状況においても、「人のために握るもの」という信念を忘れてしまった瞬間、将太はそこを貫いて敵を殺すのだ。
そのカタルシスは忘れられない体験となる。
だから第1話から読むべき
刷り込みと、情熱と、誠実さ。これらが順番に読者を殴り、エネルギーとなり、迸る説得力となってばくはつする。将太の寿司の説得力をぜひその身で味わってほしい。
ちなみに僕の推しはこのマグロ哲と、
この覚醒後の佐治さんです。クズだったけどいい奴なんだ…信じてくれ…
そろそろ記事が終わる。終わったら本編を読んでくれ
前述の通り様々なツッコミどころがあり、いやいやそらないわと笑いながら読むうちに、将太だけではなく劇中の様々な人物からエネルギーを貰う。それは時に勇気となり、時に創作意欲となり、我々を掻き立てる。
今なら無料読み放題!
というわけで、少しでも気になった方は是非読んでほしい。
まぁ無料期間は明日までだけどな!
(2018.11.13追記)
運営「特例として……無料期間を延長とする!」
というわけで
将太の寿司の無料読み放題期間が延長されました!!
2週間アレば読める! ぜひ読んでくれ!
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