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有限会社うまのほね 第1話「学校の七不思議」 Part14
前回までのあらすじ
飯島ハルキは、玩具から人工知能まで様々な機械の修理を専門とするエンジニアだ。彼は馴染みのちびっ子カンタの依頼で、"ドローンのお化け"に攫われたちびっ子タロウを救うべく小学校に乗り込んだ。
二度にわたる"ドローンのお化け"との対峙は、どちらもハルキの負けで終わった。夜の学校で、ハルキ、カンタ、タロウは──
中庭に転がっていた適当なブロックに座り込み、俺は工具箱からメディカルキットを取り出した。痛む足に当てると診断が始まる。ピピ、ピピ、と定期的な診断音だけがあたりに響く。
2階から落ちてから、15分ほどが経つだろうか。工具箱を持って降りてきたカンタたちが周辺を確認してくれたものの、ドローンの姿は見つけられなかった。いずこかへと飛び去ってしまったようだ。
「はぁ……惜しかったなぁ……」
俺の傍に座り込んだカンタがため息をついたのは、メディカルキットの診断が終わるころだった。
「だなぁ」
診断結果を眺めながら、俺は相槌を打つ。骨折はなし。内蔵の破裂等もなし。内出血や擦り傷が多数ある可能性……脇腹も足裏も痛いが、とりあえず大怪我はしていないようだ。
靴もなしにあの高さから飛び降りたにしては、奇跡的なまでの軽傷。液晶に表示された診断結果を横から覗き見て、カンタが歓声をあげた。
「おお、どこも折れてない! おっちゃんすごいね!」
「毎日牛乳飲んでるからな。お前と違って」
「お、おおオレだって飲めるし!」
そんな俺とカンタのやりとりを、傍に佇むタロウは見つめている。
──その顔は、決して楽しそうなものではなかった。
「あ──」
俺がそれに気付いた時には遅かった。
「とにかく、これでまだあのドローン探せるね!」
そんなカンタの無邪気な一言が、引き金となって。
「……まだ、やるの?」
タロウの瞳から、ボロボロと涙がこぼれる。「まだ、やるの?」と繰り返した彼の声は、泣き声と区別がつかないほどか細いものだった。
「た、タロウ? どしたの?」
カンタは慌てて立ち上がり、泣き出したタロウに駆け寄った。タロウはすでに大声をあげて泣いていて、俺たちに向かって訴える。
「もう……もう帰ろうよ」
「あ……」
えぐえぐと泣きじゃくるタロウを見ながら、俺は自分の至らなさにため息をついた。
そもそもタロウは、ドローンに追い掛け回され、仲間のカンタとはぐれ、数時間にわたって学校内を徘徊していたのだ。
──その間の不安はどれほどのものだったろう。さらに、不気味の谷を具現化させたような人体模型だの、大人をボコボコにするドローンだのと出くわして……限界だったのだろう。とっくに。
「……その、気付いてやれなくてごめんな」
まだ痛みの残る足で俺は立ち上がり、タロウの頭を撫でる。タロウは泣き止む気配を見せないし、カンタもまたつられて泣きそうになっている。
自分に子供がいたらもっとうまく扱えるのだろうか。こういうとき、どうすればいいかよくわからない。
俺はタロウを抱え上げ、カンタに声をかけた。
「……今日はもう、帰るか」
***
その後、俺たちは帰路についた。途中カンタが「スケボーなくした!」とか言い出したがとりあえず帰った。明日また探しにくる。そういう約束だった。
しかしその夜──事件が起こる。
夕飯を食べ終え、さて風呂でも入るかと準備していた俺の懐で、携帯が震えた。液晶には「田頭さん」の文字。
「……もしもし?」
「い、飯島さん、夜分にすみません!」
かなり焦った様子で、田頭さん──カンタの母はこう言った。
「カンタが居ないんです! そちらにお邪魔してませんか!?」
(つづく)
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