第5話「憧れは紫煙に消ゆ」 Part4 #hk_amgs
碧空戦士アマガサ
第5話「憧れは紫煙に消ゆ」
(前回までのあらすじ)
ポルターガイストに襲われて気を失った凜。助けを求める電話を受けて湊が駆けつけた先には、コハクと名乗るキセルの九十九神がいた。なんとか確保しようと暴れるうちに凜が目覚め、カラカサやコハクたちが彼女に見つかってしまう。
時を同じくして、酔いつぶれた涼子を連れた晴香も本部にやってきた。勢ぞろいした一同。その時、凜の緊張の糸が切れ、彼女は泣き出してしまうのだった。
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それから、30分ほど経って。
「……なるほど」
湊斗と凛から事情を聞き終え、晴香は問題の小人──コハクに視線を落とす。そいつは今、観葉植物に縛り付けられてジタバタともがいている。ちなみに涼子は部屋の隅で寝落ちしている。
「よくわかった。とりあえず、この小人は電子レンジにでも放り込むか」
『な、なな、なんだその……“でんしれんじ”って……?』
コハクは首を傾げるが、地獄の鬼の如き声音から自身が命の危険に晒されていることを悟った。湊斗が慌てて口を挟む。
「ちょちょちょ晴香さん、落ち着いて。流石にそれはマズいって」
「なにがだ。全身が沸騰するだけだろ?」
『沸騰!?』
声をあげるコハクを無視して、湊斗が晴香に語りかける。
「そうじゃなくて。この子、九十九神だよ」
「ふむ?」
湊斗の言葉に、晴香は彼のそばに佇むカラカサを一瞥する。
九十九神。湊斗の戦に力を貸してくれる、半妖半神の者たちだ。ちょっとクセはあるが基本的には気の良い連中で、最初は怯えていた凛も今ではすっかりカラカサ・リュウモンと馴染んでいる。
晴香が多少の譲歩を見せたのを見て、コハクが勢いづいた。
『そ、そうだぞ! オレっちは仮にも神様だ! そのオレっちにそんな罰当たりなことしたらどうなるか──』
「元となったキセルには金属が使われてるから、電子レンジだと火花が散って危ないよ」
「確かに、それはマズいな」
『そこォ!?』
コハクが悲鳴をあげる間に、晴香は他の手段を考え始めた。物騒な言葉があれこれ飛び出してくるのを聞いて、そいつは慌てて口を挟んだ。
『ちょちょちょタンマ、タンマ! そもそも喧嘩を売ってきたのはそちらさんでしょがい!』
「え? 喧嘩? 俺らが?」
答えたのは湊斗だ。コハクは大袈裟に『おーそうよそうよ! なんだ覚えてねーのかよ!』などと頷いて、言葉を続ける。
『こないだ、善光寺で寝てたオレっちをいきなり投げやがったのはお前さんらだろ!』
「善光寺……?」
「あ、それって……」
首を傾げた晴香とは裏腹に、湊斗は心当たりがあった。
それは先日、善光寺で最初に<雨垂>に襲われたときのことだ。瀕死の湊斗を助けるべく、ソーマが身体を張ってくれたとき、確かにそういう場面があったのだ。
「……雑魚が、邪魔を、するな。そう言ったはずだが」
「う、うるせぇ。湊斗さんを放せ!」
ソーマは手近な瓦礫を掴み、<雨垂>へと投げつける。ぱしゃん。今度は<雨垂>の左肩が爆ぜ、戻る。効かない。効かないが──それでもソーマは、必死で瓦礫を投げ続ける。
「……鬱陶しい。先に殺すか」
もはや動かない湊斗を蹴り飛ばし、<雨垂>は刀を携えてソーマへと向き直った。ソーマは後ずさりながらも、手近なものをとにかく掴み、投げる。
ぱしゃん、ぱしゃん、ぱしゃん。
「無駄だというのがわからんのか」
「くっそ……!」
ソーマはとにかく投げる、投げる。壺を、木材を、皿を、巻物を、置物を。その悉くが<雨垂>の身体を突き抜け──
ぱしゃん、ぱしゃん、ぱしゃん、ゴンッ
「ム……?」
「あれ? なんか、当たった……?」
<雨垂>の頭部に、なにかがクリーンヒットした。
「そっか、あの時のはコハクだったのか」
『そーゆーこった! いきなり起こされるわ、寺がぶっ壊れるわで大変だったんだからな!』
「つーことは、このちび助の狙いは湊斗かソーマだったわけか?」
口を挟んだ晴香に、湊斗は「そうみたいだね」と相槌を打つ。人間たちが傾聴モードに入ったのを見てとって、コハクは満足げに言葉を続けた。
『オレっちはあのときの縁(えにし)と妖気を辿ってここに辿り着いたってわけだ! そんでそこの穴から、なんとか侵入してみたんだがな?』
そうしてコハクが顎をしゃくった先には、換気扇があった。古い建物特有の、電源がついていない時は蓋が物理的に閉まるタイプの換気扇だ。
『なんかいきなりあれがバターン! って閉じちまってよ。そんで足音だ。おいおいこりゃ泥棒じゃねぇか!? ってんで、オレっちが退治してやろうと奮闘したってぇわけよ!』
『……?? 忍び込んだのはコハクのほうだよね?』
「私、泥棒と間違えられたってこと……?」
「めちゃくちゃだな。とりあえずシュレッダーにぶち込むか」
『待ぁってくれぇぇ!?』
カラカサと晴香、そしてコハクが口々に言いあう中、湊斗は思案顔で呟いた。
「……それにしても、珍しいよね。小人とはいえ、人型の九十九神って」
『あん? そいつァあれよ、オレっちの元の持ち主が……お?』
言いかけたコハクが、ピクリと顔をあげた。同時にカラカサが同じ方を向き、声をあげる。
『! 湊斗、姐さん! 雨狐の気配!』
「えっ。どこ!?」
『結構近いかも──』
カラカサが集中しようとした──その時。
轟音が、本部を揺らした。
ビリビリと震える窓ガラス、その向こうで上がる煙を、湊斗たちは見た。
「あれ、お向かいのビルが……!?」
ごうごうという残響の中、凛が呟いた言葉が湊斗に届く。
その視線の先、本部向かいの雑居ビルからは、煙と炎が立ち上っていた。
(つづく)
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