狩屋咲ミカコの豊かな新生活
「──オエッ」
凄まじい吐き気。頭がグラグラする。ここは……トイレの個室か。どうやら、便器を抱えたまま眠ってしまっていたらしい。
コンディションは最悪。戦犯はどれだ。ビール、ワイン、ハイボール? ……いやたぶん日本酒だな。テキーラみたいな味したし。
「ォエッ……ェーッ……えほっ」
……だめだこれ、吐けそうで吐けないやつだ。
肩で息をしながら、俺は便座に座り込み──
同時に、トイレの扉がドカンと開いた。
「いやさ、正直ありえなくない今回のメンバー?」
「ドーカン。なにあのシロートくさい連中」
「でもでも、コウジくんはマトモじゃなかった?」
「えまじ? ミカあーゆーのがタイプ? あれ絶対ヤリチンだって」
──…………あれ?
思わず、口を塞ぐ。
姦しく喋りながら入ってきたのは、間違いなく女子。おそらくギャル。4人組。
──……ここ、女子トイレ?
冷や汗が吹き出す。見つかったら社会的な死では? てゆーか香水キツいな。ドア越しでも──あ、やば、吐きそう。
「ん。ここ誰か入ってる?」
「──ォぇ……ッ!」
ガタガタと個室ドアが揺れる。俺は極力音を出さぬよう全身全霊をかけて、込み上げてきた胃の中身を吐き出し続ける。そして信じてもいない神様に内心で祈り始めたとき──
「んー? ドア壊れてるだけかな?」
「まぁいいっしょ。さっさとやっちゃお」
──セーフ! ありがとう神様! 初詣はお賽銭多めに入れます!
バタンと隣の個室が閉じられる音が聴こえる。それに続くように、バタバタと他の個室も閉じられてゆく。が──
「早くしてねー。ウチのも結構限界近いんだから」
その声は、ミカと呼ばれていた女性のもの。彼女だけは外にいるらしい。個室が足りなかったか。
──脱出は不可能。彼女らが去るのを待つしかない……!
俺がそう覚悟した、その時──
「待っててミカ。すぐ終わらせるからさ」
グチャッ。ゴキンッ。
隣の個室から聴こえてきたのは、まかり間違ってもトイレでは出ないような音だった。
(つづく/800字)
🍑いただいたドネートはたぶん日本酒に化けます 🍑感想等はお気軽に質問箱にどうぞ! https://peing.net/ja/tate_ala_arc 🍑なお現物支給も受け付けています。 http://amzn.asia/f1QZoXz