碧空戦士アマガサ 第4話「英雄と復讐者」 Part10
前回のあらすじ
リュウモンの力を借りて緑金の戦士へとフォームチェンジしたアマガサは、<雨垂>と同格の超スピードでこれを翻弄し、追い詰めてゆく。
そんな折、<雨垂>はそれまで秘匿していた能力を解放する。それは兄<鉄砲水>と同じ、破壊の水弾を放つ能力であり──
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「死ねィッ!」
水弾が亜音速でアマガサに迫る。そこに宿る妖力は、<鉄砲水>の比ではない!
慌てて体制を立て直すアマガサだったが──間に合わない!
「くっそ、油断した……!」
アマガサは慌てて両腕をクロスさせ──
グバンッッッ!
水弾が、炸裂した。
全身がバラバラになるほどの衝撃が、アマガサを襲う──はずだった。
『んお……?』「あれ?」
リュウモンとアマガサが首を傾げる。ダメージはいつまでもやって来ない。と──アマガサの耳に、ソーマの声が届く。
「湊斗さ……じゃないや、アマガサ! 大丈夫ッスか!?」
次いで、聞き慣れた銃声が響く。カラカサから光弾が放たれた音。そして──アマガサの眼前で、追撃の水弾が蒸発した!
「どわっ!?」
もうもうと立ち込める水蒸気の中、慌てて体制を整えたアマガサは、ソーマの声がしたほうに視線を遣る。そこには、地に片膝をつき、カラカサをライフルの如く構えるソーマの姿があった!
『お、大丈夫そうだ!』
「よかった!」
カラカサの言葉に応えながら、ソーマはその銃口を<雨垂>へと向けて引き金を弾いた。放たれたソフトボール大の光弾は、空気抵抗を無視して直進。天気雨を蒸発させながら一直線に<雨垂>へ向かい──
ドバンッッ!
その頭上、生成中の水弾を破壊する!
「ヌゥッ!?」
炸裂した自弾から身を守るように、<雨垂>は大太刀で体を庇いながら後方に跳躍した。そして体制を整えながら、信じられないといった様子でソーマに目を遣る。
「馬鹿な……撃ち落としたというのか……!?」
「エイムには自信ありッス! それより──」
ソーマは得意げに言いながら、立ち上がった。
「──オレなんかに、注意を取られて大丈夫ッスか?」
「なに──」
眉を潜めた<雨垂>の頭上に、高速移動したアマガサが出現する!
「ハァッ!」
「くっ……!?」
落下の勢いを乗せた大扇子の一撃!
──大太刀では、間に合わぬか!
<雨垂>は即座に判断し、居合刀を逆手で抜刀。大扇子の一撃を、紙一重で受け止める!
ギギッギギギギッ──ッギィンッ!
壮絶な火花が散り、<雨垂>は不自然な体制で弾かれる!
「ぐぅっ……!」
一方のアマガサは、空中でくるりと一回転すると音もなく着地し──再度、その姿が掻き消える!
「甘いわァッ!」
しかし今度は<雨垂>も黙ってはいなかった。大太刀と居合刀という歪な二刀流を構え、急加速!
ギンッッ! ギンッッ!
鋭い剣戟音があたりに響く。超高速で激突、数度の打ち合い、また離れ──激突!
ギギギギギッ!
「驚いたよ! <鉄砲水>の水弾まで使えるなんて!」
「イナリ様に教示いただいた! 貴様への復讐のためになァッ!」
アマガサが挑発するように声をあげ、<雨垂>は血走った目で応えながら、居合刀でアマガサに襲い掛かる! アマガサは緑風に乗って舞うように身を躱し、渾身の回し蹴りを叩き込む。しかしそれは大太刀に防がれて──
幾度目かの互角の攻防の後、両者は再び高速で離れた。アマガサが再び足に力を込めたとき──<雨垂>の目が、ギラリと光る!
ドドドドドドッ!
次の瞬間、アマガサの周囲に穿ちの雨が降り注いだ!
「っぶねぇっ!」
アマガサは咄嗟に高速移動! 天気雨の攻撃範囲から脱出し──その時だった。
「……妖力、解放!」
<雨垂>が目を剥き、低く唸るように宣言した。
刹那、アマガサの周囲の天気雨が強い虹色の輝きを放ちはじめる!
「これは……!」
『おうおうおう、マズいぞ湊斗!』
リュウモンが声をあげる。虹色の輝きがその強さを増し、光の結界となってアマガサを包み込む!
「この術で貴様を殺すのが! イナリ様への恩返し! そして──我が兄への手向けだッ!」
<雨垂>が吼えた。それに応えるように──アマガサの頭上に無数の水弾が生成されてゆく!
──それは<雨垂>の穿ちの力と、<鉄砲水>の水弾の融合体であった。
宙に揺蕩う穿ちの雨、そのひとつひとつに膨大な破壊の力が宿ってゆく。
「っ……リュウモン! 結界は!?」
『無理じゃ! 虹の中!』
「あああそっか! くっそ……!」
アマガサが相棒と言い合う中、強大なる復讐鬼の切り札が完成する!
掲げた両刀をアマガサへと向け、<雨垂>が吼えた!
「死ね、アマノミナト!」
──その時だった。
「湊斗さん、任せてください!」『走って!』
ソーマの、そしてカラカサの声が、アマガサに届き──少し遅れて、銃声が響く!
「……! リュウモン、行こう!」
『ええい、南無三!』
アマガサは走り出す!
視界一面に広がる破壊の雨。ひとつひとつが致命の破壊力を持つそれらが、アマガサに向かって降り注ぎ──
着弾するより速く、光弾に迎撃されてゆく!
「はぁっ!?」
その声はおそらく<雨垂>のものだろう。アマガサはそれを聞き流し、ひた走る──仲間を信じて!
ソーマの放つ光弾は途中で分裂し、散弾銃のごとく破壊の雨へと向かう。互いの妖力をぶつけ合い、相殺し、炸裂させる!
キュガガガガガガガガガガガ!!!!
爆炎が空を染める中、アマガサは虹色の結界から脱出! 爆風に背を押され、走行速度を増しながら<雨垂>に向かってさらに駆ける!
「バカなっ……!?」
「行くよ、リュウモン!」
『おうよ! 妖力、解放じゃァッ!』
驚愕の声をあげる<雨垂>を睨みつけ、緑金の戦士が吼える! 周囲の天気雨が再度虹色の光を帯びて、今度は怪人を取り囲む!
「──明けない夜はない、止まない雨はない」
大扇子を手に駆けるアマガサの全身を、緑色に輝く竜巻が覆う。
そのまま彼は<雨垂>に向かってさらに加速し──トップスピードで、<雨垂>と交錯する。
<雨垂>の全身を、風が撫ぜる。
着物が揺れ、髪が揺れ、両手の刀がビリビリと震えた。
──それは不思議と、爽やかな風だった。
「……お前らの雨は、俺が止める」
次の瞬間、朗々と言い放つアマガサは、<雨垂>の背後数メートルの位置にいた。滑るように急停止し、手にした大扇子をパシリと畳む。
「っ……ククク……ハハ……こんなバカな……」
──絞り出すように、<雨垂>が笑った。
「僕の……復讐は…………俺は……なんのために……」
「……お前の復讐は、ここで終わりだよ、<雨垂>」
アマガサは振り返らない。<雨垂>も。
その手元で、大太刀と居合刀が砕け散る。
「僕が死んでも……次なる復讐鬼が……お前を……」
──その言葉は、最後まで続くことはなかった。
<雨垂>の身体が、傾ぐ。
全身を網目のように緑色の光が走り、その身体がバラバラに分解されていく。そして──
「…………────!!!」
ッドンッッ!
断末魔すら飲み込んで、その身体が爆発した。
「……望むところだ、雨狐」
天気雨が、止む。
爆音に揺れる戦場で、アマガサは呟いた。
「──全滅させてやる」
その言葉を聞き咎める者はいなかった。
(つづく/次がエピローグです)
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