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21XX年プロポーズの旅 (11)

(承前)

- 11 -

 ──やばい。死にそう。

 月が見えてきたとき、僕の脳裏に浮かんだのはその言葉だった。むしろ我ながらよく生きているなと思う。12時間もの間、時速300万kmの宇宙船にしがみついていたんだ(ちなみにリカコは仮死状態になっている)

 幸いにも僕の命があるうちに、アーサー達の乗った楔形宇宙船は月面に着陸した。今はアーサー達が降りてきて、なにやら話している。
 僕は息を整えつつ、彼らの会話に耳を傾けた。

「月も地球も無事、か」
「安心しました」
 ──失礼な。別に惑星破壊なんて企んじゃいないよ。
 ムッとした僕には勿論気付かないまま、彼らは歩き始める。

「アレが地球の7割を砂に変えたとき、私はまだ10歳でした」
「そうか……そういえばお前は、その時に家族を亡くしたんだったな」
「ええ。私は偶然旅行中で……あの光景は忘れられません」
「なんとしてもアレを見つけて……止めなければ」

 そんな会話をしながら、彼らは宇宙船から遠ざかっていった。会話の内容を反芻し、僕は首をかしげる。

 ──"アレ"って国宝の指輪のことだよな……?

「ねぇオクト。地球を砂に変えたってなんのことかな?」
 いつの間にやら仮死状態から復活していたリカコが、僕の隣にやってきた。「だいぶ前、地球はもっと綺麗な星だったんだとさ」というと、「へー」と興味深げな返事が飛んできた。

「そんな凄い兵器の話をしてるってことは……もしかして私たちを消すために導入するってことかな?」
「い、いやぁどうかなぁ」

 僕は言葉を濁す。こないだ"国家機密を盗んだ"と言ってしまった手前、まさか僕の手元にその"アレ"があるなんて言えるわけがない。

「まぁ、いっか! なんとかなるなる!」
 リカコは元気いっぱいだ。
 アーサー達が完全に居なくなったのを確認し、リカコは宇宙船から飛び降りた。僕も宇宙服モードを解除し、リカコと並んで歩きだす。

 入星ゲートを通り(勿論偽造パスだ)、僕らはロビーへと歩み出た。まだ若干足元が覚束ない僕を、リカコが心配そうに支えてくれた。
「調子悪いよね……」
「流石に、生きてるのが不思議な気分」
「だよねぇ。とにかく今は街で休憩かな」

 アーサーたちが飛ばしてくれたおかげで、"ダイヤモンド・リング"まで3時間ほどの猶予が残っている。
 そういうわけで、僕らは別々の場所で変装し、合流することになった。

 僕が選んだのはターミナルの礼拝室だ。特に信仰するカミサマはいないので、まぁバチも当たらないだろう。
「……地球の7割を、砂に変えた……か」
 変装の準備をしながら、僕は呟いた。

 彼らの会話の内容から、なぜわざわざ最強騎士アーサーが出張ってきたのか、なぜこうまで僕らを執拗に追いかけるのか、そういったことに色々と合点がいった。

 要するに"王国"の彼らは、この指輪が活性化すると地球が滅ぶと思っているんだ。

「んーでも……この指輪って別に──」

 僕はぶつぶつ言いながら、変装用のドラム型ロボットスーツを組み上げて、中に入ろうとして……咄嗟に飛び退いた。

 一瞬前まで僕が居た場所を、白銀の剣が掠めた。

 ロボットスーツが真っ二つになったし、足が一本飛んだ。いきなりこんなヤバいことをしてくる奴の心当たりは僕にはひとつしかない。

「ちっ……避けたか」
 声の主は、言うまでもなく──白銀の騎士。

「ようやく見つけたぞ、"オクト"。さぁ、指輪を返してもらおうか」
 右手に剣を携え、彼は言い放つ。その足元に僕の足がボトリと音を立てて落下した。
「……嫌だ、と言ったら?」
「指輪だけあればお前の生死などどうでもいい」
「なるほど」
 僕は一歩だけ後ろに下がった。その時。

 アーサーの足元に落下した足が消滅反応を起こし──発火!

「ぬっ……!」
「今だっ」

 僕は懐から銃を抜き、礼拝室の壁をぶち抜くと、混乱するターミナル内へと躍り出た。

 ──"ダイヤモンド・リング"まで、あと3時間。

(続く)


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桃之字/犬飼タ伊
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