ウェイクアップ・クロノス Part11 #刻命クロノ
刻命部隊クロノソルジャー
第1話「ウェイクアップ・クロノス」
前回のあらすじ
ここは常夜の呪いがかけられた日本。クロノレッドこと鳥居夏彦が命を賭して守った少年・暁 一希(イッキ)の目の前で、刻命戦隊クロノソルジャーは怪人ヤミヨの幹部たちとの戦に挑んだ。
しかし、敵の圧倒的な力を前に追い込まれ、巨大な車・クロノモービルでの敗走を余儀なくされる。そんな一同の進路上に女幹部ビジョウは巨大化することすらなく立ちはだかり、一撃で巨大ロボごと一同をひっくり返した。
生身で巨大ロボを吹き飛ばす幹部が、勢ぞろいしている。その事実に、クロノグリーンの心がとうとう折れた──
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「……はは。こりゃもう、勝てねーわ」
同時に。
ハルさんの全身から、黒い靄が立ち上りはじめた。
「おおっ!?」
それに真っ先に反応したのは、怪人リューズだ。
その長い手足を大袈裟に動かして、そいつは嬉しそうに声を上げた。
「よ〜〜やくここまできたか! んじゃクロノグリーンを使おう……おっと? おおお? ブルーもいい感じかな? いいねー豊作豊作!」
「な、なんだ……あれ……?」
確かに、メガネさんの体からも黒い靄が立ち上っていた。それはまるで、先ほどヤミヨの軍勢が姿を表したときの闇と同じものに見える。
「んふふふふ、いいねいいねー! 仕上がってるよー仕上がってるよー!」
喜んでいるのはリューズだけではない。他の幹部怪人たちも、ハルさんとメガネさんの様子を見てほくそ笑んでいるように見えた。
「ッ……まさかこいつら、初めから……!?」
憎悪を含んだその声は、ノゾミさんのものだった。僕が振り向くよりも早く、彼女は僕のそばを駆け抜け、リューズへと斬りかかる。
「ハル! ショウ! しっかりして!」
彼女は叫びながら、大剣を振り下ろした。その一撃をあっさりと躱し、リューズはケラケラと笑う。
「おお? 気づいた? いやいや、察しがいいねぇクロノイエロー」
「このっ!」
「んふふふ、ねぇねぇ、楽しみだよねー!」
リューズは嘲笑と共に、ノゾミさんの一撃一撃を飄々と躱していく。
ブオンッと風切り音が響き、アスファルトが抉れてゆく。そんな中、そいつは心から愉快そうに言葉を続けた。
「正義の味方が生み出す"ネガティブ"は、どんな怪人になるのかなァ?」
嘲笑うようなリューズの声を受けてなお、ハルさんとメガネさんは項垂れたまま動かない。その身体から湧き上がる黒い靄は夜空よりもなお黒く、まるで柱のごとく立ち昇っていた。
それはまるで、常夜に吸い上げられるかのように。
「……これって……!」
僕は、いや、僕らは、その光景に見覚えがあった。
それは、3年前。
東京の青空に向かって立ち上った黒い靄と、よく似ていた。
「ンギャハハハ! ふたり分なのにすごい量だね! 山手線のリーマンが束になっても敵わないよ! 刻王さまをもうひとり呼べちゃうんじゃなーい?」
「やめろっ!」
放たれたノゾミさんの大振りの一撃を、リューズはバックステップで回避する。と、その時。
「死ねしっ!」「おわっと!」
リューズの背後に現れたカオルさんがレイピアを振るい、リューズの燕尾服を浅く斬り裂いた。慌てて跳び退くリューズに、女性二人は息の合った連携で追撃をかける──が。
「忘れられてるよ、ベゼル」
「ええ、忘れられてるわね、ダイヤル」
「ぅあッ……!?」
鈍い音と共に、カオルさんの身体が吹き飛んだ。
ベゼルとダイヤルのロケット頭突きをまともに受けて、カオルさんは受け身も取れぬまま地面を転がる。双子はそのまま、カオルさんを追撃すべく飛んでいった。
一方のリューズはステッキを振るい、まるで大道芸人のようなオーバーな動きでノゾミさんの剣を往なしていく。
素人目に見ても、リューズが遊んでいるのは明白だった。大剣を往なし、躱しながら、リューズは演説を続ける。
「んふふふふ、いやぁ、クロノレッドの快進撃で、こっちも結構手痛い被害を受けててさぁ? 死んじゃったアンクルスとチータの代わりの戦力が必要なんだよねぇ」
「そんなこと……!」
「いやいや、もう遅いよー。あいつらの心は折れちゃったんだ! もうこのままヤミヨの核にしてあげようよ? ねっ?」
ギンッッと、ひときわ鋭い音が響いた。ノゾミさんの剣が宙を舞い、呆然と立ち尽くす僕の目の前に突き刺さる。
「しまっ──」
「そのためにも、イエローとピンクには死んでもらおうと思うんだ!」
声をあげたノゾミさんを、リューズはステッキで打ち据える。ノゾミさんは辛うじて腕で防御するが、その姿勢は大きく崩れ──さらなる追撃が、その身体を痛めつけていく。
「クロノレッドを失い、共に支え合う仲間も失い、さぁグリーンとブルーはどんな怪物を産んでくれるのかなァーハハハハハ!!!!」
「ぐあゥッ……!?」
リューズが哄笑と共に繰り出した前蹴りが、ボロボロのノゾミさんを捉えた。彼女が吹き飛び転がる先には、同様にボロボロになったカオルさんの姿もある。
女性二人のそんな様子に、ハルさんとメガネさんは見向きもしない。まるで黒い靄に全ての感情を吸われているかのように、彼らは俯いたままだ。
僕は呆然と、それを見つめていた。
戦える人はもういない。ハルさんとメガネさんはこのままだと怪人にされてしまうし、ノゾミさんとカオルさんは今にも殺されそう。
そして助けは、きっとこない。
……ユーリを連れて、逃げる?
脳裏に真っ先に浮かんだそれは、おそらく最も現実的な選択肢だろう。なにせ、ヤミヨたちは僕のことなんか歯牙にもかけていない。
ただ──
「よぉ、ボウズ。無事か」
胸の内に、夏彦さんの声が響く。
僕はまた、逃げるのか。
僕を守ってくれた人が死ぬのを、ただ見届けるのか。
僕は──
(つづく)
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