第5話「憧れは紫煙に消ゆ」 Part7 #hk_amgs
碧空戦士アマガサ
第5話「憧れは紫煙に消ゆ」
(前回のあらすじ)
雨狐ジロキチとアマガサの激闘は、ジロキチの逃走という結果に終わった。泊まり込みとなったその翌日、朝食を持って屋上にやってきた凛は、同じく屋上で空を見上げる湊斗とカラカサに遭遇する。
各々の憧れに関する話から、話題が雨狐の話に移ったそんなとき、口を挟んだのはキセルの九十九神、コハクだった。彼は雨狐について、湊斗に問いかける──
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『あいつら、もともとヒトだった……なんてことは、あるかい?』
「……どういうこと?」
湊斗が眉をひそめる。コハクは少し慌てた様子で、かぶりを振って口を開いた。
『い、いや、わからねーならいいんだ。ただ……鬼だのヤマンバだの、人間が妖怪になることだってあるだろ? だから、雨狐もそういうことってあり得るのかってぇのが、ちょっと気になっただけで──』
「それって、」
言い淀むコハクの言葉を遮ったのは、湊斗ではなく、凛のほうだった。
「“鼠小僧”のこと?」
『……聞こえてたんすか、嬢ちゃん』
それは、昨夜の戦いの最中の記憶。雨狐ジロキチが逃げた直後にコハクが溢した名前だった。
「鼠小僧……って、なんだっけ。昔の義賊?」
『んーまぁ、近いけど違うんすよ』
湊斗の言葉に、コハクは首を横に振った。
『その鼠小僧の、真似をしていたバカがいるんでぃ。……オレっちの、元の持ち主なんだけどよ』
「てことは、100年以上昔の人ってことか」
湊斗の言葉に頷いて、コハクは言葉を続ける。
『金のない学生だった。剣が達者で、腕っぷしにも自信があって、そして正義感にあふれている──そんな野郎が、歌舞伎で鼠小僧を見て憧れちまってなぁ』
「それで……正義の泥棒に?」
『ああ。金持ちの家に忍び込んでは、結構色々と盗んでたよ、“ちゃんと”な。オレっちも盗まれたもののひとつだった』
コハクは、自分の背負ったキセルを一瞥したあと、どこか遠くを見ながら言葉を続ける。
『まぁただ、貧乏だから小判なんて投げらんねぇってんで、硝子玉を代わりに使っててよ。最終的にはそれで足がついて、お縄。……本当にどうしようもねぇ、大馬鹿野郎だった』
「剣術と……硝子玉」
反芻するように呟く湊斗の脳裏では、昨夜の雨狐ジロキチとの戦いが再生されていた。光弾を斬り裂いた小太刀の剣筋、弾丸のごとく襲いきた硝子玉……。
『そう、似てたんだよ。あのバケモンの戦い方が、あの馬鹿野郎とそっくりだったんだ……けどよ』
コハクのキセルからポツポツと煙があがる。やりきれない思いを載せて、虚しく空に消えていく。
『オレっちの好きだった鼠小僧はよ、あんな盗賊まがいのやつじゃァなかった。……聞いた話じゃ、そこら中で爆発事件起こして、結構な怪我人出してるらしいじゃねぇか』
いつしかその視線は、隣のビルに空いた大穴に向けられていた。
『仮にあれがあの馬鹿野郎だったとしたら許せねぇし、ただの猿真似野郎だったらもっと許せねぇ。……だからよ、湊斗サン』
そこで言葉を切ると、コハクは真剣な眼差しで、湊斗を見据えて口を開いた。
『オレっちがアイツを見つける。だから、キッチリ退治してくれねぇか』
「見つけるって……さっきカラカサの探知やってみたけど、手応えなしだったよ?」
首を傾げる湊斗の隣では、カラカサもうんうんと頷いている。コハクは両者を見て『ああ。オレっちだけじゃ無理だ』と言葉を続ける。
『煙ってのは“えん”、つまり縁(えにし)だ。昨日のドンパチで、湊斗サンらとアイツにゃ縁ができた』
「縁……」
『そう、縁。……カラカサぼうずの捜索は、天気雨の妖気を直接探すんだよな?』
『そだね。だから雨狐が消えて暫くすると、探せなくなっちゃう』
『消えるところまではわかるってこったろ? そっから先はオレっちが探す』
「えーと……縁と妖気探知は、違うってこと?」
『そうだ。縁は死んでも消えねぇ。薄らぐことはあっても、残り香として消えずに残るもんだ』
首を傾げる湊斗に、コハクは力強く頷いた。
『だから、力を貸してくれ湊斗サン』
「……わかった。凛ちゃん」
「はい、晴香さん起こしてきます!」
「カラカサ、それにリュウモンさん」
『おっす!』『あいよ』
彼は立ち上がり、コハクを肩に載せると、隣ビルの大穴を睨んで言い放った。
「……リターンマッチだ」
(つづく)
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