ウェイクアップ・クロノス Part12 #刻命クロノ
刻命部隊クロノソルジャー
第1話「ウェイクアップ・クロノス」
前回のあらすじ
ここは常夜の呪いがかけられた日本。クロノレッドこと鳥居夏彦が命を賭して守った少年・暁 一希(イッキ)の目の前で、刻命戦隊クロノソルジャーは怪人ヤミヨの幹部たちとの無謀な戦に挑む。
ヤミヨの幹部たちの目的は、クロノソルジャーを絶望させ新たな幹部怪人を生み出すことであった。その目論見通りグリーンとブルーが失意に落ち、イエローとピンクが戦闘不能になる中で、イッキは──
- 12 -
「よぉ、ボウズ。無事か」
胸の内に、夏彦さんの声が響く。
僕はまた、逃げるのか。
僕を守ってくれた人が死ぬのを、ただ見届けるのか。
僕は。
「わりぃな、少年」
僕は、あんな想いはもう、したくない。
拳を握りしめた僕に、巨大テーカクの影が掛かる。見上げた先で、そいつは青い瞳を爛々と輝かせ、牙を剥いて笑っている。
「ンギャハハハ! じゃ、テーカク、ひと思いにぷちっとやっちゃおう!」
リューズの楽しそうな声が聞こえる。
ノゾミさんとカオルさんはもう、立ち上がることすらできないようだった。このままでは、彼女たちは殺される。そしてハルさんとメガネさんは、人ではなくなってしまう。だけど。
「俺は、いや、俺たちは、あいつらを倒さなきゃならねぇ。だからここで終わるわけにはいかねぇ」
ここで終わるわけには、いかない。
助けなきゃ。
僕が、助けなきゃ。だって。
「今日から、お前がレッドだ」
──だって僕は、レッドだから。
「ンギャハハハ! それではいってみよーう! 判! 決!」
左の手首が、熱い。
「死刑ッ!」「ヌェぃッ!」
「やめろ!」
巨大テーカクが拳を放った瞬間、僕は夢中で叫んでいた。同時に──
ガゴンッ!
僕の真上から、激突音。
「ぬぅっ……!?」
巨大テーカクが唸り、睨む先。そこでは、横転していたはずのクロノモービルが手を伸ばしていた。
手を伸ばす。そう、手だ。正確に言えば、ボンネット部分が半分に割れて機械の腕を成し、巨大テーカクの拳を受け止めていた。
「こ、これは……!?」
横転していたクロノモービルはいつしか人型のロボットへと姿を変えていた。うつ伏せだったそいつは跳ね起き、その勢いのままに巨大テーカクの頭にソバットを叩き込む!
「ぬごぉっ!?」
「おおぉっ!? またなんかの助けかい!?」
その時、リューズが、いや、その場にいた全員が空を仰いだ。
ただ一人、僕を除いて。
「ッあああ!」
僕は眼前に突き刺さっていたノゾミさんの大剣を手に、地を蹴った。超質量のその大剣を渾身の力で振り上げて、リューズに叩きつける。
「んなッ!?」
金属音と共に、火花が散る。
「おおぃ少年!? そういう火事場の馬鹿力は逃げるのに──」
その時、僕の身体は自然に動いていた。
大剣が受け止められるのと同時に、柄から手を離す。火花と大剣を目眩しにして、僕はリューズの視界から消える。
「──使ったほうが賢いと──」
そして僕は、大地に伏せた。
重力に引かれて、大剣が落ちる。それは僕の背中に対して平行に、まるでカメの甲羅のように、僕の背中に覆いかぶさった。
「──思う……んぇっ!?」
同時に、リューズの視界が開ける。
その先では、人型となったクロノモービルが、腕先のガトリング銃をリューズに向けていた。
「撃て!」
「待────」
声をあげる間もあればこそ。
僕の声に呼応して火を吹いたガトリング銃が、リューズの身体を穴だらけにした。
ボロ雑巾のようになったその身体はそのまま力を失い、それでもなお弾丸の嵐を浴びながら、吹き飛んでいく。
左手首が熱い。僕の全身に、力が巡る。
粉塵が煙る中、僕は立ち上がって左手首の時計に触れた。そしてそこに浮かんだ文字列を──クロノレッド専用武器の名前を、宣言する。
「クロノメタル、ジャケット!」
>>Wake Up:: Chlono-Metal Jacket
直後、僕の上半身を光が覆った。ハルさんたちが武器を呼び出したのと同じように、その光は一瞬で実体を得る。
敵も、味方も。戦場の視線が一斉に僕に集まる、そんな中。
「夏彦……くん?」
その声は、僕の背後から。
視線を遣ると、地に這いつくばるノゾミさんが、僕のことを眩しそうに見つめていた。その横では、目を覚ましたカオルさんが驚いた様子で声をこぼす。
「しょ、少年……? どしたん、その上着?」
ばさり、と。
その真紅の革ジャンが、はためいた。
病院着の上に羽織ったそれは、夏彦さんの革ジャンと同じものに見える。ただし、はじめから僕の身体に合わせたかのようにぴったりのサイズだ。背中には青空と太陽をバックに、大きな鳥居の絵が描かれていた。
力強い熱は、いまや左の手首だけでなく、僕の上半身を覆っている。
「大丈夫、お前なら、大丈夫だ」
夏彦さんの声が、聞こえた気がした。
「なっ……え……は?」「少年……?」
失意のハルさんが目を見開いた。メガネさんが顔を上げた。彼らの身から立ち昇る黒い靄は、少し減ったようだった。
「予想外だね、ベゼル」
「ええ、予想外ね、ダイヤル」
「おいおい、リューズの奴は大丈夫かあれ?」
「まぁ奴なら死なんでしょう、恐らく。きっと」
口々に言いながら、ヤミヨの幹部たちが僕を睨み、得物を手にする。僕はその様子を見回すと、震える脚をひと叩きし、大きく息を吸い込んだ。
「ノゾミさん、ハルさん、カオルさん、メガネさん。……お願いです。ゆっくりでいいから、立ち上がってください」
左腕の時計に手を添える。
使い方は、さっき見た。竜頭部分のダイヤルを押し込むと、ガコンと歯車が噛み合うような音があたりに響き渡った。
「……その時間は、僕が稼ぎます!」
そして僕は、クロノスバンドのダイヤルを弾いて。
「ウェイクアップ、クロノス!」
渾身の力で、叫んだ。
(つづく)
本作の好き好きツイートや桃之字の褒め褒めコメントはハッシュタグ #刻命クロノ でお待ちしてます。
◆宣伝◆
【制作本舗ていたらく】では、ていたらくヒーロータイムと銘打ってオリジナルヒーロー小説を多数お届けしております。
更にサークル【桃之字さんちのていたらく】にて、執筆に際して桃之字が苦しんだりのたうち回ったりしている様子を観察できるプランをご用意しています。しようチェック!