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刀を亡くした侍に、鉛弾の祝福を。#6 (トレモズAct.2)

前回のあらすじ
 ツインvsトゥ&クアド! 不死身のクアドの身体を張った突進により隙をさらしたツインは、トゥの正拳突きによって頭を吹き飛ばされる。それを見届け緊張の糸が切れたシトリは、そのまま意識を失って──?

 ──……腹が減った。

 真っ先に浮かんだのはそんな言葉。次いで浮かんだのは──「腹が痛い」だ。

「ぐっ……」

 痛みに呻きつつ、シトリは目を開く。見慣れたバーの天井、喧騒。脇腹が焼けるようにいたい。

「あ、起きた」

 顔を顰めながら起き上がるシトリに、オレンジ色の髪をした若い女が言葉を投げた。シトリはそちらに視線を遣り、相手の名を呼ぶ。

「……サン」

「調子はどう?」

「腹が減った」

「元気そうでなにより。食べもの取ってくるわ。あんまし激しく動かないようにね」

 そんな言葉と共に、サンは厨房への扉をくぐった。その向こうからドタバタと音がして、モッズコートの男──トゥが飛び出してきた。

「シトリ! 起きたか!」

 彼は珍しく焦ったような声色だった。流石に大怪我で心配させてしまったか。シトリはそんな彼に口を開く。

「すまない、心配を──」

「お前も見ろよこれ! すげーぞ!」

 トゥはしかし、シトリの謝罪を遮って手に持ったそれを見せつけてきた。

「あの女の右手! カッコよくね!?」

「…………そうだな」

 ──殊勝に謝った自分が阿呆だった。

 シトリは嘆息しつつ、トゥが差し出した"女の腕"を受け取った。その重さは、常人の腕のそれとは比べ物にならないほど重い。パックリと展開した掌からは銃口のような筒が顔を見せている。

 シトリは、ツインと名乗る女との戦闘を思い返す。筒先から放たれたのは熱線。それもバーの壁を爆発させるほどの威力を持っていた。そういえば撃たれたんだった。腹が痛いのはそのせいか──などと考えつつ、シトリは呟いた。

「やはり、仕込み義手の類か」

「義手なんてもんじゃねーよ。こっち来てみ」

「……?」

 トゥに促されて立ち上がり、シトリはバックヤードへと踏み入る。そこには、バーテーブルを並べて作った簡易的な手術台と、そこに横たわるツインの身体。シトリはそれを見て眉をひそめた。

「こいつ……機械か?」

「そのようだ。おそらく、全身がな」

 シトリの呟きに答えたのはバーテン服を着た大男──クアドである。

 クアドが見下ろすその女は、腹が自動車のボンネットのように開いている。腹の中は歯車やらよくわからない部品やらが収まっており、生物的な要素はひとつもない。

「あとシトリ、これ」

「ん」

 眉を潜めて機械の身体を検めるシトリの背後から、トゥが声をかける。振り返ると、トゥは鞘に入った刀を掲げていた。

「……そういえば、そうか」

 シトリはそれを受け取り、無造作に引き抜いた。

 ──愛刀は中央付近がぽっかりと融解し、失われていた。

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