阿吽昇天 Part4 #グラライザー
第1話
「阿吽昇天:装震拳士グラライザー(68)」
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前回のあらすじ
千寿菊之助は68歳のヒーローである。彼は50年前の宿敵・人造人間リュウと共に、襲いきた30年前の怪人組織・ハイドロ帝国と戦っていた。
順調にハイドロ帝国の軍勢を追い込む両雄であったが、そこで敵が隠し球ヨモツ・ヘンゲを発動。それはまるでヒーローの変身のようだった。
菊之助とリュウの二人もまた変身し、新たな戦いの幕が開いた!
「かかれぃっ!」
イカオーガの号令一下、シャチデビルとカジキヤイバが地を蹴った。
「ぶっ殺ーす!」
こちらに襲いかかってきたのはシャチデビル。両手に持った真紅の銛をガコンと打ち合わせ、突き攻撃が凄まじい速度で襲いくる!
俺はそれを半身で回避。カウンターの力を乗せて、反撃の拳を繰り出す。が──返ってきたのは、硬い手応えだった。
「むっ……」
「ヌハハハハ! 効かーん!」
シャチデビルは笑い、銛を振り回して追撃を阻む。先程ぶん殴った肩装甲には傷ひとつついていない。
「ちっ……伊達な装甲じゃねーんだな」
「当然だ! わかったなら死ね! ぶっ殺ーす!」
一歩引いた俺を追い、シャチデビルの銛攻撃が続く。今度は両手の銛をフル活用したラッシュだ。目にも留まらぬ速度で繰り出される連続突きは、炎すら纏ってこちらを貫く。
「おらおらおらどうしたァッ! さっさと刺されろォッ!」
往なすには手数が多すぎる。俺は回避に専念し、シャチデビルの隙を──
「──うぉっとォッ!」
刹那。背後で殺気が膨れ上がり、俺は反射的に身を投げ出した。受け身を取って振り返ると、一瞬前まで俺がいた地面が溶解、緑色の蒸気を上げている。
「うお危ねぇな!? 酸かなんかか!?」
「ゲッソゲソゲソ!」
高笑いしたのはイカオーガだ。触手の一つがなにやら粘液を垂らしている。あれか。
俺の起き上がりざまを狙い、シャチデビルの銛が迫る。ガントレットで叩き落としつつ体制を整えた俺に向かい、イカオーガは触手の先端を向けた。
「食らえィッ!」
ドプンッと不快な音とともに、毒弾が放たれる。
「うげっ……」
それも一発二発ではない! 機関銃めいて立て続けに放たれる毒弾を辛うじて回避し、俺はイカオーガを中心に駆け出した。
「グググェッソゲソ! 無駄だ無駄だァッ!」
イカオーガは、孔雀のように広げたその触手から無数の毒弾をばらまく。被弾したアスファルトが溶け、街路樹が一瞬で枯れ、付近の壁は爆ぜて抉れる。
「おいおいおい、どの弾もとんでもねーな!?」
俺は走り、転がり、側転し、致命の弾丸を回避しながら思案する。
シャチデビルは少し離れたところにいる。今のうちに、厄介な毒弾を放つイカオーガを先に片付けたいが、この弾幕はなかなか侮れない──
「ゲソゲソゲソ! どうしたグラライザー! 動きが鈍いな、歳のせいか!?」
「やかましい!」
そうして言い返しながら、俺が側宙で毒弾を回避した──その時だった。
シャチデビルが、真横に出現した。
「ぶっ殺ーす!」
「なッ!?」
──いつの間に!?
致命のひと突きが迫る。俺は空中で身を捩って切っ先を躱すが──避けきれない!
「ぐっ……!?」
トゲの生えた銛が俺の脇腹を掠め、装甲が削れて火花が散る!
「ヌハハハハ! 弱い弱い!」
その勢いで、俺はそのまま吹っ飛んだ。辛うじて四つ足で着地しつつ、俺は目を細める。こいつの今の動きはなんだ。どうやった?
着地のタイミングを狙って再び飛んでくる毒弾に、俺は思考を中断する。サイドステップからのスプリント。イカオーガを中心に、シャチデビルから離れるように──
「ヘイらっしゃい! ぶっ殺す!」
「なっ!?」
俺は瞠目する。眼前に居るのは紛うことなきシャチデビルだ。まただ。離れていたはずの怪人が、何故か目の前にいる!
「死ねィッ!」
「このっ……!」
俺は咄嗟に、繰り出された銛をぶん殴った。軌道が逸れた銛を踏みつけ、跳躍。宙返りし──そのまま勢いを乗せ、グランナックルを地面に叩きつける。
「グランブレイク!」
グランナックルが打ち震え──
直後、半径5メートル圏内の地面が、爆ぜた。
「ヌオオッ!?」「ゲソーッ!?」
眼前のシャチデビルのみならず、少し離れたイカオーガの足元までもが崩落し、怪人たちが足を取られる。俺は猫めいて着地すると、即座にイカオーガへと肉薄する。
「ゲッ!?」
「まずはテメーだ、イカ野郎!」
シャチデビルの瞬間移動は後回し。まずはイカオーガを倒して、厄介な毒攻撃を止める!
俺はいまだ体制の整わないイカオーガの身体を目掛け、右の拳を叩き込んだ。
──その、はずだった。
しかし俺の拳は手応えなく、イカオーガの身体を突き抜けた。
「!?」
「ゲッソゲソ。なにしてんだァ?」
刹那。イカオーガの声は、瞠目した俺の頭上から聞こえ──背中に、衝撃!
「ゴハッ……!」
それはシンプルなボディプレスだった。しかし、体高3メートルに金属のフルアーマーを纏った巨大なるイカだ。繰り出すそれは、装震装甲でも軽減しきれないほどの凄まじい衝撃となり、全身を襲う!
「ゲッソゲソゲソゲソ! ざーんねんでんしたー! 撃つだけが毒液じゃないのさ!」
「っ……毒液だァ……?」
このイカ野郎、幻覚剤の類をばら撒いたのか!?
イカオーガは笑いながら、人の上でドスンドスンと跳ね回る。メットのバイザーいっぱいに浮かぶ複数のアラート。胸部装甲にダメージ。過負荷、過衝撃、溶解、毒……こいつ、ストンプに加えて毒液も塗りつけてやがる!
「よくやった相棒ー! ぶっ殺ーす!」
装甲が軋む音の合間に聞こえるは、シャチデビルの声。イカオーガの身体が再度浮き、シャチデビルの銛が迫り──
「おいジジイ、なに苦戦してんだ」
不意に、リュウの声がした。次いで響くは剣戟音。
「のがっ!?」「ゲソォッ!?」
怪人たちが吹き飛ばされる音。俺は顔を上げ、音のしたほうを見た。
──そこに佇むは、黒き覇王の後ろ姿。
「まだ死んでねーだろうな?」
「痛っててて……大丈夫だ。恩に着る」
「うるせぇ、いいから立てジジイ」
起き上がる俺に言葉を投げながら、装震覇王コクリュウは剣を構えた。
その向こうには得物を構えた血色のハイドロ帝国四天王の姿。全員を油断なく睨みつけながら、コクリュウは言葉を続けた。
「……こっちも結構、手一杯だ」
そう言うコクリュウの鎧は、右の肩当てがバッサリと斬り落とされていた。
(つづく)
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◆宣◆
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