阿吽昇天 Part5 #グラライザー
第1話
「阿吽昇天:装震拳士グラライザー(68)」
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前回のあらすじ
千寿菊之助は68歳のヒーローである。彼は50年前の宿敵・人造人間リュウと共にハイドロ帝国の怪人たちと戦いを繰り広げていた。
ハイドロ帝国の怪人たちは、新たなる力ヨモツ・ヘンゲを発動。その圧倒的な力の前に、グラライザーとコクリュウは徐々に追い込まれてしまう──
「……こっちも結構、手一杯だ」
そう言うコクリュウの鎧は、右の肩当てがバッサリと斬り落とされていた。
いや、それだけではない。右肩の龍は上顎を斬り飛ばされ、左肩の龍はぺしゃんこ。漆黒のマントは穴だらけで、兜のツノも折れている。
かく言う俺も、胸部装甲はヒビだらけ、革部分もウェストクロスも一部が破れていたりする。ダメージレベルだけで言えば、変身が強制解除される寸前といったところだ。
「ググググェッソゲソゲソ! 『震えて、眠れ』とか言ってたクセにざまぁないな!」
「言われてんぞ、リュウ」
「オメーもだろ……」
会話しながら、俺はコクリュウに並び立つ。海産物四天王は、ボロボロの俺たちを見て心底愉快そうに笑っている。
「ゲーソゲソゲソゲソ。にっくきグラライザー、そして音に聞く装震覇王コクリュウがこーんなにもボロボロだ! 気分が良いなぁ!」
「いい調子だー! ぶっ殺ーす!」
海産物どもが声をあげる中、バイザー内の視界にイカ毒の解析結果が表示された。遅効毒。主な作用は視野の歪みと遠近感の狂い。なんつー厄介な。
「……おいリュウ、なんか打開策はないのか。悪の総統だろ」
「なんだその無茶なフリは──」
俺の言葉にコクリュウが答えたとき、イカオーガがその言葉を遮った。
「ではトドメだ! 行くぞお前たち!」
「「おうよ!」」
そう言って諸手(8本)を挙げたイカオーガの周囲に、海産物四天王が集結する。
イカオーガの前に、ウィッチアコヤが鎮座した。その砲台に、得物を持ったままのシャチデビルとカジキヤイバが手を添える。紅く輝く切っ先がこちらを向き──最後に、イカオーガが挙げていた諸手(8本)を砲台の上にペタリと置く。
…………おいこれ、見たことあるぞ。
「……まさか」
「察しがいいなァグラライザー! だがもう遅い!」
思わず零した俺の言葉を聞きつけてイカ野郎がゲソゲソと叫ぶ中、こちらを向いたウィッチアコヤの砲塔に赤き輝きが灯った。据えられた銛と刀の切先から赤い稲妻がバチバチと迸り、砲塔の中に吸い込まれていく。
「なんだこりゃ……!?」
「リュウ。装震装甲の全エネルギーを防御に回せ……やべーのが来るぞ!」
驚愕の声をあげるリュウに、俺は戰慄と共に声を投げた。
昔、カラフルな変身ヒーローたちが異世界から迷い込んできたことがある。あいつらは怪人に対し、全員の武器とエネルギーを一箇所に集めて撃っていたのだが……今、海産物四天王が、それをやっている!
「ゲッソゲソゲソゲソ! 逃げないか! 大した覚悟だ! 流石はヒーローだな!」
砲塔に膨大なエネルギーが集まり、その先端で血色の球体を形成していく。大地が揺れんばかりの高エネルギー。海産物四天王の周囲でアスファルトがひび割れ、血色の稲妻が怪人たちの周囲を迸る!
「さぁ、消え去れ……グラライザー!」
「畜生、やるっきゃねぇ……!」
イカオーガが声をあげる中、俺は装震装甲の出力を最大にして、両足で地面を踏みしめた。そして──
「「ヨモツ・ハイドロ・カノン!!!」」
世界を、轟音が塗りつぶした。
放たれたのは、人の背丈を優に超える血色のビームだ。それは経路上の地面を消滅させながら音速で俺たちに迫り──俺の視界を血色の光が塗りつぶした。
「──……!!」
俺の声を掻き消して、ビームはなおも直進する。
その圧倒的な熱量によって凄まじい破壊をまき散らしながら、ビームは1キロほど先のビルに直撃。そのまま貫通し、空へと消えた。
──轟音が消える。
経路上の建物は余波で崩壊。停めてあった車は爆発炎上。地面は熱でドロドロに溶け、赤々と燃えている。
そして、俺たちが立っていた場所には、最早なにも残っていなかった。
「グググ……ゲゲゲゲゲェーッソゲソゲソゲッッソォ!!」
「跡形もなーし! ぶっ殺したー!」
「やったわ!」「ウム!」
海産物どもが歓声を上げ、互いにハイタッチしたりハグしたりして喜んでいる。
──俺は、その様子を見ていた。
……上空から。
「……………………え!? お!? へ!?」
気付けば俺は、付近のどの建物よりも高いところから街を見下ろしていた。テレビで見たドローン映像のような視点。勿論足場などない。つまり──俺は今、空中に浮いている。
「ちょ、え、なんだこれ!? は!?」
「……落ち着けジジイ。年甲斐もない声を出すな」
不機嫌そうな声は隣から聞こえてきた。コクリュウだ。
「お、おいリュウ。これはお前の仕業か!?」
「騒ぐなっての。消し飛ぶ寸前、飛翔魔法で上空に逃げただけだ」
コクリュウは面倒くさそうに答えた。そういえばこいつ、魔法を使えるんだった。なら……ってそういう問題じゃねぇ!
「いや街が大変なことになってるじゃねぇか!? だめだろこれ!」
「アホか。あの威力を二人で止められるわけがねーだろ」
「アホはそっちだ! そこら中ズタボロじゃねぇか! 確かに街の人は避難してるが、こんだけボロボロだと復旧にどれだけ時間がかかるかわかんねぇ。それにあっちのビルは避難が終わってるかわから──」
「ヒーローっつーのは、色々と考えることが多くて大変だな」
言い返す俺に掌を向け、コクリュウは言葉を遮る。
「あン? そりゃそうだろ、守るために戦ってんだから」
「俺は悪の総統だからな」
眉を顰めた俺に向かって、コクリュウは自虐的に笑ってみせ、更に言葉を続ける。
「まぁなんだ、その辺は俺に考えがある」
そうしてコクリュウは言葉を切り、剣を肩に担いで不敵に言い放った。
「今はそれよりも……反撃だ」
(つづく)
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◆宣◆
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