ウェイクアップ・クロノス Part8 #刻命クロノ
刻命部隊クロノソルジャー
第1話「ウェイクアップ・クロノス」
前回のあらすじ
ここは常夜の呪いがかけられた日本。クロノレッドこと鳥居夏彦が命を賭して守った少年は、名を暁 一希(イッキ)という。
イッキとクロノソルジャーの居る病院を、夏彦の仇・怪人リューズの軍勢が襲撃。イッキの見守る前で、クロノソルジャーの面々は変身して戦いを始める。
リューズを追い詰めたかに思えたその時、怪人の背から黒い靄が発生。そこから現れたのは怪人ヤミヨの大幹部たちと、それらが率いる数百体の"影"の軍勢であった──
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「さぁさぁさぁさぁ! 文字通りの"総力戦"をはじめようじゃあないか! ンギャハハハ!」
"影"の軍勢の中心で、リューズはどこまでも楽しそうに笑う。
──絶望的な戦が、はじまろうとしていた。
しかし。
「たわけ! 余裕をこいていられるのも今の内だ水晶頭! クロノソルジャーをナメるんじゃあない!」
モヨコちゃんは──否、クロノソルジャーの誰しもが、微塵も臆していなかった。そんな様を見て、リューズは大袈裟に驚いてみせる。
「おおっ? 果敢だねぇ! 少しは諦める素振りとか見せてもいいんじゃないの?」
「諦めるわけあるか。我々が逃げたら誰が戦うというのだ! 覚えておけ水晶頭! クロノソルジャーの辞書に"撤退"の2文字はない! ここが最終戦線だ!」
「んふふふふ、活きが良いねぇ! さぁレッツゴー暗鬼たち! そいつらを押しつぶせー!」
大地が、揺れる。
それは隊列をなす"影"──<暗鬼>たちの足音だ。その数、数百体。その手に槍を、剣を、銃を持ったそれらが、雪崩を打ってクロノソルジャーへと走り出す。
迫りくる軍勢を前にモヨコちゃんは堂々と胸を張り、メンバーに向かって声をあげた。
「ハル、ノゾミ、ショウ、カオル! 目に物見せてやれ!」
「柚木! 右側は任せる! 桜井は左側! 葉山はその援護!」
「了解!」「あいあいさー!」「指図すんじゃねぇ!」
双剣を構えたブルーの号令一下、イエローは大剣を、ピンクはレイピアを、そしてグリーンは銃を──それぞれが得物を構え、暗鬼の軍勢に真正面から駆けてゆく。
そしてはじめに敵側と激突したのは、クロノイエロー!
「だああああああありゃあああああ!!!」
その咆哮が夜空を揺らす。そして、暗鬼の群れが盛大に吹き飛んだ!
「わっ……!?」
その漫画のような光景に、僕は思わず声をあげた。
イエローが大剣をひと振りするたび、5,6体の暗鬼がバラバラになって飛んでいく。闇夜を切り裂き飛び交う光線を躱しながら、イエローは右に左に大剣を振り回す──
同様に、クロノブルー、グリーン、ピンクもまた暗鬼たちを殲滅していく。月光にギラリと刃が煌き、暗鬼の首が、腕が宙を舞う。
暗鬼たちはクロノソルジャーに近付くことすらできぬまま、瞬く間にその数を減らしてゆく。
「す、すごい……!」
「当然だ少年。何体集まろうと暗鬼は暗鬼! ビビったら負け、ビビらなければ大勝利だ!」
ふふんと鼻を鳴らすモヨコちゃんであったが、その表情はすぐに苦々しいものへと変わる。その視線をクロノイエローに向けながら、モヨコちゃんはぽそりと口を開いた。
「……暗鬼だけなら、な。問題は……」
イエローは勢いを落とさぬまま大剣を振るい続け、暗鬼たちを殲滅してゆくが──
「ほいほい、そこまでー」
──その大剣が、受け止められた。
「相変わらず馬鹿力だねぇ黄色ちゃん」
「ビジョウ……!」
イエローの剣を受け止めたのは、一本のツルハシだった。使い手は、女幹部ビジョウ。
5,6体の暗鬼をまとめて吹き飛ばすほどの大剣の一撃を、ビジョウはその細腕一本で受け止め、そして弾いてみせた。
「ほいっと」
「ッ……!?」
イエローは逆らわず跳び下がり、大剣を構え直す。その様子を目にして、ビジョウの後ろに控える筋骨隆々な二人の男・ユーカクとテーカクと呼ばれたそれらが声をあげた。
「ビジョウ様!」「ここは我々が!」
「構わん、こいつァアタシの喧嘩だよ」
「このッ!」
ユーカク・テーカクの言葉をビジョウが笑い飛ばしたのと、イエローが再度大剣を振り下ろしたのは同時だった。隙をついたその一撃を、ビジョウはツルハシで受け止める。
「おうおう、本当に気合が入ってるな」
「うるさい!」
大剣とツルハシが繰り返し激突する。発生した火花が閃光となり夜空を切り裂き、金属同士がぶつかったとは思えない、爆弾が炸裂したかのような音が、辺りを揺らす。
それを耳にしながら、モヨコちゃんは言葉を溢した。
「……大幹部は正直、かなり厄介だ。夏彦を欠いた今、奴ら一体ずつでもかなり苦戦することに──」
「桜井! 伏せろ!」
「わっ!?」
モヨコちゃんの言葉を、クロノブルーとピンクの声が遮った。咄嗟に身を屈めたピンクの頭上を、”なにか”が砲弾のような勢いで通過する。
「ぐっ……!?」
ブルーはそれを、クロスした短剣で辛うじて受け止めた。金属音と共に弾かれたそれは、子供だった。青髪青目、ポンチョを纏った子供。ダイヤルと呼ばれていたヤミヨの幹部だ。
と──その時。
「あぶねぇ!」
「わッ!?」
その声……ハルさんの声は、僕とユーリ、そしてモヨコちゃんの真横から聞こえた。続いて、ゴガンッとなにかが激突する音が僕らの耳に届く。
慌てて視線を遣ったそこには、ブルーと同じように”なにか”を受け止めるクロノグリーンの姿があった。
「は、ハルさん……!?」
「おいモヨコ! あとガキ! 邪魔だからどっか隠れてろ!」
怒鳴るグリーンの手元で、銃が軋む。その銃身で受け止めるは、赤髪赤目の魔性の子供・ベゼルだった。ロケット頭突きを防がれたそいつは、くすりと笑いを零すと身を翻し、宙を舞う。
「ッ……少年! こっちだ!」
「は、はい! ユーリも!」
モヨコちゃんの声に応え、僕らは慌てて身を退く。しかし、いつの間にか僕らの周囲はぐるりと暗鬼に取り囲まれており、逃げ場がない。
「チッ……囲まれた……!」
「だから言わんこっちゃねぇ、さっさと逃げりゃ良かったんだ」
「やかましい。撤退の文字はないと言ったろう!」
言い合うグリーンとモヨコちゃんを見ながら、魔性の双子は音もなく着地。クロノブルーとクロノグリーン、それぞれと対峙した。
「まずはこいつらだね、ベゼル」
「ええ、まずはこいつらね、ダイヤル」
「ッ……警戒しろ、葉山」
「わかってる。いちいち仕切んなメガネ」
その時、ガシャガシャガシャと金属音が響いた。
それは、双子の纏ったポンチョの裾から落下した、武器が立てた音。ポンチョの収容能力を明らかに超えた物量の武器や兵器たちが、触手のごとく姿を表す。
「そっちは任せたよ、ベゼル」
「ええ、そっちは任せたわ、ダイヤル」
いつしか双子の目線は、ブルーとグリーンの背丈よりも高くなっていた。裾から延びる、刀、槍、剣、鉈、銃、鈍器、その他あらゆる殺傷武器を大地に突き立てて、魔性の双子は嗤いながら宙に浮きあがった。
「5分も保つかな、ベゼル?」
「5分も保つかしら、ダイヤル?」
双子は邪悪な笑みと共に、クロノソルジャーに向かって武器を振り上げる。触手のようなそれは、紛れもなく僕らにも向けられていて──
その時だった。
『そーーーこーーーまーーーでーーーー!!!』
不意に、戦場に知らない女の人の声が響き渡る。スピーカー越しで割れたその声に真っ先に反応したのは、モヨコちゃんだった。
「ンなっ!? こ、この声はミカか!?」
『無茶なことしてんじゃないッスよ脳筋ども! こういうときは撤退! 撤退ッス!』
そんな言葉と共に、夜に包まれた病院の駐車場に猛烈なエンジン音が響き渡る。クロノソルジャーも、ベゼルとダイヤルも、ビジョウも、暗鬼たちさえも……戦場に居る誰もが、音のしたほうに目を向けた。
その瞬間、ヘッドライトの猛烈な光が僕らを照らす。
「こ、今度はなに……!?」
僕の呟きは、キュルキュルキュルというタイヤの音で掻き消された。
姿を現したのは車だった。それも、とてつもなく大きな。
(つづく)
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