碧空戦士アマガサ 第4話「英雄と復讐者」 Part4
前回のあらすじ
雨狐<雨垂>との激闘! <雨垂>の繰り出す圧倒的な剣術、そして師・イナリ譲りの高速移動を前に、晴香はとうとう戦闘不能に追い込まれてしまう。そしてアマガサもまた、その肩を刀で貫かれて地に伏した!
そして<雨垂>は、アマガサの傷口を執拗に踏みつけ、哄笑と共に衝撃の事実を明かしたのだった──
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「僕は今からこいつを嬲り、拷問し、処刑する──」
そして<雨垂>は哄笑と共に──言い放った。
「アマノミナト! こいつが<水鏡>にやったようになァッ!」
「は……?」
<雨垂>の言葉に、晴香は痛む脇腹を抑えつつ、ぽかんと口を開ける。
「処刑はともかく……拷問?」
「んん? 知らんのか。なにも言っていないのかァ、アマノミナト」
晴香の顔を見て、<雨垂>は愉快そうに嗤う。そして再び足を上げ、今度はアマガサの胸板を踏みつける!
「ガハッ……!」
「なァ、なぜ殺した? なぜ? なぜ!?」
二度、三度。容赦のない踏みつけがアマガサを襲う! バキバキと胸部の装甲が砕け、それでもなお<雨垂>は止まらない!
「僕は! 一部始終を! 見ていた! こいつは!」
「っ……おい、やめろ!」
晴香の声など届くわけもなし。狂ったように嗤いながら、怪人は憎悪と愉悦の混ざる声で喚きながら、踏みつけをやめようとしない!
「こいつは! 刀が折れ! 瀕死の<水鏡>を! 踏みつけ! 嬲り──!」
もはや先ほどまでの美しい所作は見る影もない。着物が乱れるのにも構わず、<雨垂>は荒々しくアマガサの上体を踏みつけ、その鎧を砕き、骨を砕き、そして──
「──拷問し、処刑したのだ!」
足を振り上げ、アマガサの脇腹にトーキックを叩き込む!
アマガサの身体がワイヤーアクションの如く吹き飛んだ。そしてソーマの居る廃寺の壁を突き破り、ボロボロの床でバウンドし──反対側の壁に激突し、ようやく動きを止めた。
その変身が──解除される。
「ガッ……はっ……」
『み、湊斗! 大丈夫!?』
血を吐く湊斗。その傍ではカラカサが九十九神の姿となり、飛び跳ねている。湊斗は辛うじて意識はあるようであったが、まともに動ける状態ではない。
「み、湊斗さ──」
その一部始終を見て、ソーマが声を掛けようと口を開いたその時だった。
「まだ終わっていないぞ」
ソーマが瞬きをするその一瞬──コンマ3秒にも満たぬ間に、<雨垂>は湊斗の傍に佇んでいた。
『なっ!?』「は!?」
カラカサとソーマが驚愕の声をあげる。彼らは気付いていなかったが、既に天井の大部分が崩れており、廃寺の中にも天気雨が降り込んでいたのだ。
そんな小物たちに一瞥をくれることすらなく、<雨垂>は恨みのこもった瞳で湊斗を見下ろし、言葉を続ける。
「……<水鏡>だけではない。幼き<つたう>に貴様がした所業も──」
そして<雨垂>は逆手に刀を持ち、それを振り下ろした。
「──忘れたとは言わせんぞ!」
横たわる湊斗の、右腕へと!
「っっがアアアアアア!!!?」
湊斗の腕に激痛が走る! 刀は右腕を貫通、床板に半ばまで突き刺さっている!
「ハハハハハ! 気分はどうだアマノミナト! まだ両脚が残っているぞ?」
<雨垂>は哄笑をあげながら、刀を捩じり傷口を抉る。吹きだした血が着物の裾を濡らすのにも構わず、怪人は言葉を続ける。
「おっと、お前が幼き<つたう>から捥いだのは左腕だったか? まぁいい、次は両脚だ」
<雨垂>は言葉と共に、湊斗の腕から刀を引き抜いた。そして血塗れの刀を構え、次は右脚に突き立てんと再び構え──
その時、廃寺にカランッと下駄の音が響いた。
『湊斗を放せ、この変態野郎!』
それはカラカサの足音。傘先を槍のように<雨垂>に向け、全速力で突撃する!
「……雑魚が!」
しかし<雨垂>は至極冷静であった。刀から左手を離すと、カラカサの先端を摘まむように、あっさりと受け止めた!
『はっ?!』
「オレの、邪魔を!」
驚愕の声をあげたカラカサを、<雨垂>は手首の返しだけで団扇めいて振り回す!
『うわっ!? わわわわ!?』
「するなァッ!」
そして刀を握りしめたままの右拳で、その身体を殴り飛ばした!
『うごぁっ!?』
悲鳴だけを残し、カラカサが吹き飛ぶ! その身体は廃寺の壁を突き破り、境内へと落下した。滑ってゆくカラカサには見向きもせず、<雨垂>は横たわる湊斗に視線を落とす。
「……さて、続きだ、アマノミナト。次はその脚を──」
ぱしゃん。
<雨垂>が言いかけたその時、その頭が弾け飛んだ。
「…………」
天気雨の力で即座に回復した<雨垂>は、盛大な溜息をつく。そしてその原因──瓦礫を投げつけたソーマへと、視線を移した。
「……雑魚が、邪魔を、するな。……と言ったはずだが」
「う、うるせぇ。湊斗さんを放せ!」
ソーマは手近な瓦礫を掴み、<雨垂>へと投げつける。ぱしゃん、と今度は<雨垂>の左肩が爆ぜ、戻る。効かない。効かないが──それでもソーマは、必死で瓦礫を投げ続ける。
「……鬱陶しい。先に殺すか」
もはや動かない湊斗を蹴り飛ばし、<雨垂>は刀を携えてソーマへと向き直った。ソーマは後ずさりながらも、手近なものをとにかく掴み、投げる。
ぱしゃん、ぱしゃん、ぱしゃん──
「無駄だというのがわからんのか」
「くっそ……!」
ソーマはとにかく投げる、投げる。壺を、木材を、皿を、巻物を、置物を。その悉くが<雨垂>の身体を突き抜け──
ぱしゃん、ぱしゃん、ぱしゃん、ゴンッ
「ム……?」
「あれ? なんか、当たった……?」
<雨垂>の頭部に、なにかがクリーンヒットした。その時。
「ソーマくん! ジャンプ、左に2メートル!」
「! はいっ!」
外から響いたのは、タキの声だ! ソーマは咄嗟に全力で跳躍した。直後、先ほどカラカサが空けた大穴から、なにかが投げ込まれる。
からん、からん。
「……缶?」
「うわ、マジか!?」
<雨垂>が首を傾げる一方、ソーマは悲鳴と共に目を瞑り、耳を塞いだ。そして──
ドンッッッ!!!!!
閃光弾が、炸裂!
猛烈な光と音が廃寺を照らす!
「ヌゥッ!?」
──不覚!!
<雨垂>は内心で毒づいた。目は日光を直視したかの如く、そして耳は花火が傍で爆ぜたが如く、一時的に完全に機能を停止する。
床板を通して、どたどたと振動が伝わってきた。先ほどのニンゲン。アマノミナトを助けるつもりか。
「ッ……させるか──」
目を瞑ったまま、<雨垂>は刀を振るうが──その刃は、虚しく空を切る。
「っ……ならば……!」
<雨垂>は呟き、境内に注ぐ天気雨に妖力を注ぐ。<雨垂れ石を穿つ>──怪人の持つ穿ちの力が最大化され、上空の結界のすべてを穿ち、叩き割り、境内全域に弾丸の如き雨粒が降り注ぐ!
しかし、しばらく後──<雨垂>の視界がもとに戻ったとき、そこにニンゲンたちの死体はひとつもなかった。
「チッ……逃したか」
ズタボロの廃寺の中、<雨垂>が毒づき、踵を返して歩き出した。
天気雨が、止む。
──申し訳程度に残された柱が、虚しく音を立てて崩れ落ちた。
(つづく)
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