有限会社うまのほね 第1話「学校の七不思議」 Part7
前回までのあらすじ
七不思議"カリカリさん"の正体を看破したハルキ。それはそれで頭を抱えつつも、彼らは捜索を再開する。
その矢先、捜索対象のタロウが現れ、再会を喜ぶ一同。しかし、死角から件の"ドローンのお化け"がカンタに襲いかかった。ハルキは昏倒したカンタを抱え、タロウと共に逃げ出したが──?
──警備ドローンには、大きく二つの役割がある。
ひとつは"巡回"。その名の通り決まった場所を飛行し、搭載したカメラやセンサで異常がないかを監視する役割だ。
上空から見て人間がいた場合、警備ドローンは搭載したカメラで当該人物を撮影、警備サーバーに登録された教師・児童・学校関係者の顔情報との照合を行う。
──そして登録がない者、つまり不審者である場合、もうひとつの役割である"威嚇"に移る。
"威嚇"モードのドローンは音での警告と監視センターへのアラート発報を行ったのち、それでも対象が逃げないと装備を用いた排除行動に移る。
とはいえ、教育機関に配備されるドローンの多くは児童の安全性の観点から武器などは持っていない。そうすると、もう少し直接的な手段に出ることになる。
具体的には──対象に超接近する。
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!!!
「伏せろ、タロウ!」
「ぅわっ!?」
スズメバチの羽音にも似たプロペラ音が、俺たちの頭上スレスレを掠めた。風圧がのしかかり、俺の背中が悲鳴をあげる。
──接近? 威嚇? そんな生易しいものじゃないぞこれ!?
俺は内心悲鳴をあげる。赤いドローンは数メートル先で急減速、急停止。そいつはホバリングしたまま底部についたカメラを反転させ、俺たちを捉えた。
「ちっ……」
舌打ちをして、俺はお姫様抱っこしたままのカンタを抱え直す。ピクリとも動かない。血は出ていないが、頭を打ったか、それとも──
ヴヴヴッッ……ヴヴヴヴヴヴヴ……!
思案していたその時、再びドローンのプロペラが回転を増した。ボディがこちらに向かって傾斜する。カメラがこちらを凝視している──追撃がくる!
俺は咄嗟にカンタを降ろして、子供達を庇うように前にでた。
「タロウ、カンタ引きずってあっちに走れ!」
「えっ!?」
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!!
「早く!」「はいっ!」
叫ぶ俺に向かって、赤いドローンは全速力で突っ込んできた。俺は歯を食いしばり──手にした工具箱を、突進してきたドローンに突き出した。
轟音と共に、視界が大きく揺れる。衝撃で工具箱の蓋が開き、中身が飛び出した。ドライバーやらゴム槌、ケーブル類、ディスプレイ……鈍化した世界で、俺は馴染みの工具たちが宙を舞うのを目で追い──
「っ──おわっ!?」
ドローンに押し負け、俺はすっ転んだ。上向いた視線の先、重力に引かれて落ちてくる工具類が──雨あられと降り注ぐ。
「あだだだだだだだだ!?」
工具の雨を食らう羽目になった俺の視界の片隅で、ドローンが嘲笑うようにこちらを見つめている。この野郎、絶対許さん──
ガンッッ!
「ぴょっ……」
極め付けに工具箱本体が頭に降ってきて、俺の意識はブラックアウトした。
(つづく)
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