ひとりで踏ん張る日 夜記(21)
上手になったことがある。
料理は半分、気遣いもそこそこ。生活するのに困らないように、なんでも上手。ひとりで出来るから、確かに君がいなくても困りはしません。遥か何万光年かなたに離れていて、わたしが誰だかわからなくても大丈夫。
誰もいなくても困りません。ひとりでできる人間が困るのは、実はそんなことではございません。
10月26日 火曜日 晴れ やっぱり寒い
今日この後は、ノートも携帯電話も何も手に持てないと決まっているから、早めに書いて行きます。(予定が変わりましたので、いつも通り夜です)
朝、部屋の植木鉢に新しい土を盛って、ラベンダーの種を蒔きました。
いつかわたしの想いが届くように、願いを込めて育てるのです。
髪を切ったり着替えたり、いろいろ上手になってきたように。これ以上何を上手になりましょう。贅沢になります。
困らない程度ではなくて、喜びを感じるまでになりたがります。
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もうあなたは幸せにはなれないのだから、何にも届くことはないのだから、全て諦めなさいと自分に言い聞かせた日が、思えば三つの頃からずっと続いて、わたしは女なのだけど、化粧も何も覚えてこなかった。
今だって中途半端な覚え方です。困らない程度の。
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どうして?と誰もが不思議がった。届くくらいの想いが丁度よかったんでしょう。だけど、届いてるか届いていないのか、叶うのか叶わないのか、わからないくらいが丁度良いときもあります。
ラベンダーなんてなくても困りはしないのに、わざわざ種蒔きして育てようとするのも、そのせいです。
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このままひとりでなんでも困らない程度に上手になることなんて、一つも望んでいないのだけど。
出来た時間で歌をうたっていました。様々な手があるけれど、その中から毎日誰とも話をしないで部屋で勉強している友人の心が折れないような歌声を出来るようになりたい。
君よ、その実わたしの心がひとりで折れそうになっているのです。(わからないくらいのところに背伸びするのは大切なのに)
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ひとりでなんでも困らない程度に出来るようでいて、ひとりでは大事なことでぐうの音も出なくなるようです。
二十一日目。終わり。