Netflix版T・Pぼんシーズン1-第9話「バカンスは恐竜に乗って」の改変についての考察。
若干今更感があるのですが、最近、NetflixのT・Pぼんというアニメにはまりました。私が言うまでもなく、藤子・F・不二雄の名作漫画が原作のアニメです。
さて、このT・Pぼんの第9話に、ぼんとリームがタイムパトロールの休暇で1億5千万年前、後期ジュラ期の北アメリカにバカンスに行く、というエピソードがあります。実はこのエピソード、原作ではバカンスの行き先が、1億9千万年前の南アフリカでした。アニメ化に際して変更されていたわけです。
この設定変更に伴い、エピソード中で遭遇する古生物の顔ぶれや、ぼんとリームの会話の内容がかなり変更されていました。そこで、この記事では、このエピソード「バカンスは恐竜に乗って」における、原作とNetflix版アニメの違いから、「なぜこんな設定変更をしたのか」を考察していきたいと思います。
原作漫画とNetflix版アニメの違い一覧
バカンス先の時間・場所
原作漫画:南アフリカ、1億9千万年前。三畳紀とジュラ紀のちょうど中間
アニメ:北アメリカ、約1億5千万年あたりの後期ジュラ紀
海で見たもの①
原作漫画:テーブルサンゴ、ウミユリ、アンモナイト
アニメ:テーブルサンゴ、ウミユリ、アンモナイト
備考:原作漫画/アニメ版共に、アンモナイトに頭巾がある復元は現在の学説とは異なる。
参考:https://x.com/ammo_ammo_ammo/status/1449728119808483331
海で見た大きな生き物②
原作漫画:ノトサウルス。ひれ竜類。海陸両方に住んでいた。肉食性。
アニメ:クビナガ竜類のプリオサウルス
初日ディナー中に、ぼんが明日見たいと言ったものと、リームの返答①
原作漫画:「ステゴサウルス。」「ジュラ紀の中頃まで、あと三千万年待たなくちゃ。」
アニメ:「イグアノドン。」「イグアノドンがいたのは白亜紀前期だから、あと三千万年待たなくちゃ。」
初日ディナー中に、ぼんが明日見たいと言ったものと、リームの返答②
原作漫画:「ティラノサウルス。」「白亜紀ね、あと6千万年。」
アニメ:「ティラノサウルスは白亜紀最末期。」「あと8000万年以上先ね。」
実際に翌日見に行ったもの
原作漫画:ブロントサウルスの群生地。
アニメ:アパトサウルスの群生地。「昔の図鑑では"ブロントサウルス"と言う名前で載っていたけど。」
備考:アニメ版では、2015年にアパトサウルスの別種が見つかり、ブロントサウルスを復活させようという論文が出たが、広く支持されてはいない、というリームの台詞あり。
アロサウルスのデザイン
原作漫画:いわゆる「ゴジラ立ち」のデザイン、羽毛は無し
アニメ:背中、喉元、前足に羽毛が生えたデザイン
乗り物にした恐竜
原作漫画:シーロヒシス
アニメ:ケラトサウルス
備考:「シーロヒシス」、イマイチピンときませんが、現在では「オルニトレステス」として知られる恐竜のことのようです。
ぼんたちが移動中に見たもの①
原作漫画:イグアノドン
アニメ:カンプトサウルス
備考:原作漫画の初出が1979年だけあって、復元が昔懐かしい感じですね!
ぼんたちが移動中に見たもの②
原作漫画:「プロアビス。鳥と爬虫類の中間ぐらいの動物よ。」
アニメ:「アーケオプテリクス。最古の鳥類。始祖鳥とも呼ばれているわ。」
備考:プロアビスとは、獣脚類恐竜から鳥類に至る仮説上の進化段階を説明するための仮説上の絶滅分類群で、そういう種の化石が見つかっているわけではない。なお、1983年に化石が見つかったジュラ紀の鳥類「プロトアビス」とは別物。
密猟者が撃った哺乳類の先祖
原作漫画:シノグナータス。哺乳類型爬虫類。
アニメ:ジュラマイア。最古級の哺乳類真獣。
備考:原作漫画の「シノグナータス」、現在では「キノグナトゥスス」と言ったほうが通りがいいかも。
生物以外の変更点
バカンス初日夜にぼんが見た「火」が、時空痕に変更された
考察:なぜバカンス先が変更されたのか?
変更のなかった設定から推測するに、
バカンス先の時代・場所を、現在の定説によるアロサウルスの生息年代、生息場所(ジュラ期後期のヨーロッパ及び北アメリカ全域)に合わせた
密猟者が撃つ「哺乳類の共通先祖」を、NHK「生命大躍進」などで知名度が上がったジュラマイアにしたかった
といった理由があったのではないかと想像しています。
というのも、原作での本エピソードの初出は1979年なので、現在の目線で見ると、ずいぶん恐竜についての情報に違いがあるのです。70年代当時に恐竜についてどのように語られていたのかは、下記が詳しいです。
この資料によると、アロサウルスの生息年代は1億9千万年前であり、これは原作漫画のバカンス先の年代に一致しますが、現在の学説とは全く異なっています。また、シノグナータスについてもこの資料では「この仲間の子孫が、やがて哺乳類に進化していったのです。」と紹介されていて、これが当時の認識だったのだろうことがうかがえます。
…というか、この資料、エピソードに登場する生物がやたら過不足なく紹介されています。案外、この資料の底本である恐竜の全盛時代 化石がかたる地球の歴史3が、このエピソード「バカンスは恐竜に乗って」における種本の一つだったのかもしれません。
ただ、この設定変更により、夜中にぼんが時空痕を見つけたシーンにおける、「そしてここは、人間はおろか哺乳類さえ生まれていないの」というリームの台詞に矛盾が生じてしまっています。キノドン類であるキノグナトゥスとちがい、ジュラマイアは哺乳類ですし、リームはジュラマイアを見かけてすぐに「最古級の哺乳類真獣のジュラマイアだ」と同定できていますので、この時代に哺乳類がいることは知っていたはずなのですけどね。
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