不可解参(想)、狂想、そしてαU
3月4日に配信ライブ「不可解参(想)」があり、同月8日にはアルバム「狂想」、そしてKDDIとの共同研究開発プロジェクト「prompt αU」が公開され、さらに月末は「KAMITSUBAKI FES」が二日間に渡って開催されます。さらにNFTである「KAMITSUBAKI REGIDENT GENESYS」もローンチされる。それぞれの催し毎にグッズが出る。財布が痩せてゆく。まあ個人的な話だからそれはいいのですが。
今までの全てのコンテンツを統合するのか、「KAMITSUBAKI VERSE」というものも発表されました。これからどうなるんでしょうか、情報の海に流されそうです。
言いたいのは、全部追いかける必要は必ずしもないということです。ここまでの中でひとつ押さえておくなら、アルバム「狂想」だけ購入しておけばそれで構わないと思います。現時点におけるKAMITSUBAKI STUDIOの到達点という感じのアルバムです。これだけは持っておいて損は無いです。
というわけでまず、「不可解参(想)」です。
花譜のライブシリーズ『不可解』の完結編と銘打たれた不可解参(想)が、実際にどのような形で行われるのか。自分は想像がつきませんでした。文化的な意味とか意義の面で『不可解参(狂)』の武道館公演を超えるものがあるとは思えなかったためです。
ですが、不可解参(想)は、確かにスケールで武道館を超えてきました。
「不可解参(想)」では、現実には建築不可能な、仮想空間だからこそ可能な舞台を作り出すことで見る者を驚かせにきました。武道館の中をリアルに再現した空間からライブは始まり、序盤の数曲は「不可解参(狂)」と同じセトリを辿り、そしてこの場が“概念武道館”であることが語られます。「不可解参(狂)」では後半で歌われた「不可解」がいきなり始まり、この先が既知のものでないことが示されました。
舞台後方では炉心のようなものがうごめき、手前に向かって足場がせり上がると、その先に巨大な桜の木。概念武道館・大樹。この時点で空想全開、アンリアルな舞台のライブであることが分かります。
桜吹雪の中、高校卒業記念のイメージがある「裏表ガール」を歌い終わると、立っていた場所の魔方陣と共に、花譜は上へ昇ってゆきます。武道館公演「不可解参(狂)」では立方体の格子がイメージとして多用されており、プロデューサーのPIEDPIPER氏は超構造体と呼称していました。
この超構造体を移り渡る花譜や、中から転送されてくるゲストミュージシャン達が場を盛り上げたのですが、今回の“超構造体”は別の意味を持っています。場面が概念武道館の外へと切り替わり、青空の中、縦方向に延々と続く、超建築物というべき謎の電波塔らしきものが写し出されます。これが不可解なるもの、超構造体“COCOON”だというわけです。何のために建っているのか分からないものの内部を、謎だらけの少女が昇ってゆくというわけです。
三次元に暮らす人間が高次の存在の意図を理解できるだろうか、ということを考えると、この超構造体は人智を超えたものなのでしょう。KAMITSUBAKI STUDIOのnoteのキャッチコピーは「不確かなものをつくります」です。説明できない方が普通です。
余談ですが、映画「シン・エヴァンゲリオン」の終盤は「ネブガドネザルの鍵」とか様々な単語が出てきて登場人物は勝手に納得しますが、観ている側は説明が無いのでなんだか分かりません。ですが、父と子が衝突の果てに和解したという事実さえ分かればよいのです。この超構造体もそういうことだと思います。これは別れと出発の物語なのです。
超構造体のエレベータに乗り、花譜はひたすら上昇してゆきます。ここで武道館公演「不可解参(狂)」でも入っていたディスコタイムです。エレベータが動いている間、花譜は踊り続け、ハコを沸かせる系の音楽が流れ続けます。ここが冗長ともいうべき長さなのですが、実際エレベーターで雲海の上まで昇ると、どれくらい時間がかかるのでしょう。
ただし、その先の風景がまたこの世のものではないので、正常な空間のつもりで計算しても意味がないかもしれません。MV「甘美な無法」で飛行中の理芽を曲の長さで計算することもできますが、途中で場面の省略があると考える方が自然でしょう。
そうして、長い長いエレベータを昇りきった先に“観測所”があります。ここでゲストとしてCIEL、Albemuth、EMA、VALISが現れ、花譜は「私論理」「戸惑いテレパシー」「あるふぁYOU」「神聖革命バーチャルリアリティー」を共に歌います。さらにリフトを昇ると、押しては引くさざ波が足下を洗う灰色の場です。
詩を綴りながら、歩いてゆくと渋谷らしき街が開け、朧気な姿を見せたバンドメンバーの紹介。上空は逆さまになったビル群。非現実的な光景です。ここで「過去を喰らう」三部作を歌う中、足下のアスファルトはひび割れ、花譜はバンドメンバーと共に空へ向けて上昇してゆきます。
上空にもまた、超構造体の続きがありました。この“未観測地点”で歌われるのは「不可解」三部作の二番目にあたる「未観測」です。映像に圧倒されますが、ディスコからゲスト召喚パート、「過去を喰らう」三部作、「不可解」三部作というセトリの流れそのものは武道館公演「不可解参(狂)」と同じです。
夕焼け空に、紋様の付いた虹のような輪状の物体が動く。“臨界点”……ここがどうやら一番上でしょうか? 雲などとっくに通り越しているのではとも思われますが、改めて雲海の上に花譜は居ます。始まるのは「不可解」シリーズ最期の曲「狂感覚」。なおも上昇する花譜とバンドメンバー、背景は魔方陣と、しだれかかる、様々な色の花を咲かせた蔓。
大変に美しく、この世の果てという感じがします。
さらにさらに先にあるのは、“出発の祭壇”です。奥に円形の門があります。出発するのは誰でしょうか。自然に考えたら花譜だろうと思われるのですが、不意に呼ばれたゲストは花譜のメインコンポーザー、カンザキイオリ氏でした。カンザキ氏はここに来た理由を語ります。涙をこらえながら、KAMITSUBAKI STUDIOとTHINKRからの卒業を宣言しました。
スタジオ所属という、守られた立場から石を投げているような後ろめたさと、安寧に任せていては誰も救えないのではないかという焦り。アーティストとして居るためにお金を稼がねばならない。それと共に、過去の自分と同じような境遇にある人達の(心を)救いたい。作曲のために自分を追い込むような選択をするカンザキ氏、大変真面目だと思いました。
再び余談ですが、自分の二次創作「洋灰の都うずめし神椿」ではカンザキ氏をモデルにしたキャラクターが出てくるのですが、彼が「誰かを救うことはできないか」という課題に重きを置いているところが、現実のカンザキ氏とシンクロしている気がして、勝手ながら嬉しかったです。やっぱりそういう人だったんだなあ……と。
花譜とカンザキ氏が歌うのは「過去を喰らう」「命に嫌われている」。ライブで一緒に歌うのは、実は初めてのことだそうです。歌詞が今の二人と同調しているような感じがして、もっと二人で歌って欲しかったと思いました。
カンザキ氏が去り、最後の曲は「不可解参(狂)」で披露された「マイディア」……ではなく、新曲の「リメンバー」でした。これは誰かを送り出して進んでゆく曲という感じで、「マイディア」と同様に優しい雰囲気の曲でした。最後に愛のような感情で終わるところも、「不可解参(狂)」と同じです。今日の出来事への感謝を述べて、花譜は舞台奥の円形の門へ消えてゆきます。
長いけれど、良かったという気持ちが残るいいライブでした。
数日後に届いた花譜のアルバム「狂想」は、ライブの熱を補完するようなすばらしいものでした。名盤というか、KAMITSUBAKI STUDIOの現時点におけるマスターピースというやつだと思います。全部良い曲ばかりです。最後の曲「邂逅」に込めた想いに震えます。
さて、KDDIとの共同研究開発プロジェクト「prompt αU」につい先日行ってきました。まずディスプレイによるMV展示が並んでおり、の正面に立つとちょうど聞こえる指向性スピーカーが使われています。近付いても離れても僅かしか聞こえず、距離1mあたりの正面でようやく正確に聞こえるのはなかなか不思議でした。
音質そのものはラジオを聴いているような感じで、そんなに良くなかったように思います。まだ研究中ということだと思います。でも、これでヘッドホンやイヤホン要らずになったら凄いことではないでしょうか。テーマパークのアトラクションにも使えそうです。
続いて、ホロモデルのアプリを使ったイラストの展示です。飾られたイラストの下のバーコードをアプリで読み込むと、絵が立体的になり、動きます。今のところはそんなに利用法が思い浮かばないですが、美術館の有名な作品や資料館のジオラマがひとりでに動いたら面白いですね。
三番目はAR(拡張現実)の展示です。バイザーを着けると、現実の背景に重なるような形でらぷらすや、V.W.Pの面々が見えます。自分の行った日では、幸祜さんが座っておりました。幸祜さん以外と小さいんですね……JKみたいでした。もっと高身長おねえさんだと思っていた日もありました。
「VIRTUAL HUMAN 花譜」という展示もありました。te'resaさんのようなリアル姿になった花譜ちゃんが喋っています。おお、すまん、違和感! きっとオリジンじゃないし、花譜ちゃんでもない! どう受け取ればいいんだ。戸惑いつつ、その区切りの奥はte'resaさんがAIシンガーとリアルシンガーに分かれて展開すると言うお知らせ。どうなんだろう……思い切っていて良いと思いますが。
最後は「αU Live」。これが展覧会の目玉のようです。スマホで走査して、過去のライブを様々な視点から観ることができるというもので、真横視点からライブを観られたり、ズームアップや引きも自由自在。ただし、現時点では中央を軸にして孤を描くようにカメラを動かすことしかできないです。
花譜ちゃんの周りのVALISにズーム、とかはできませんでした。スマホカメラのオートフォーカスみたいにタッチした所にピントを合わせてズーム、とかもできるといいですね。
最後は「あるふぁYOU」のMVと、まだ機能が謎の腕時計型端末「METAVERSE WATCH consept」の裸眼立体視ディスプレイです。何も身に着けていないのに、確かな立体感がありました。
個人的にはこの腕時計型端末が一番重要なのではと思いました。生体データは今後のゲームや体感型アトラクションでどんどん取り入れられてゆくのではないかと思います。例えばゾンビで心拍数が上がってきたプレイヤーを狙って、もっと死にそうな仕掛けを出すとか。
ピザ屋の深夜勤務をするゲームなんかに実装したら良いですよね。
表は神椿、中身は思ったより技術面のアピールという感じの展示でしたが、本当はこれらの技術を全部組み合わせて使うことを想定しているのでは、とも思いました。技術によって、仮想現実の世界は距離が縮まってきているのだなと思いましたね……。
まだ「不可解参(想)」のパンフレットが手元に届いていないのですが、今月は神椿でお腹いっぱいです。新たな試みが幾つも始まっています。4月以降も目が離せそうにありません。
最後になりますが、「prompt αU」の物販で売っているエンジニアコートがお勧めです。よく出来ていますし、生地もしっかりしています。試着可能なので、気になったらスタッフさんに声をかけてみるといいと思います。
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