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ヤコブの梯子と小さな僕

ろくに音も出せないまま夏がやってきた。
吹奏楽のハイシーズンだ。

毎年やってくる吹奏楽コンクール。
これは課題曲から一曲と自由曲一曲をホールで演奏して、その上手い下手を競うものだ。
何十人何百人もの部員がこのコンクールに向けて、必死で練習に励む。

我が高校の吹奏楽部は、毎年なかなか良い成績を残していたみたいで、さらにこの夏はメンバーもほぼ最強なのでは?というメンツだったらしい。
気合いの入り具合がすごかった。
鬼の様な音のカタマリに、なんども震えたのを覚えている。

コンクールが近くなってくると、練習も密度を増す。
朝練、昼練、放課後練、、、
土日も練習なんて当たり前。
とにかくこの時期は楽器を通して息を吸うほうが長くなるくらい練習に明け暮れる。

まあ、僕はニワトリ使いだったので、練習というか奇術の訓練をしていたようなもんだけど。

当日なんて、過密なスケジュールの中、音出しや合奏を行なっていかなければならない。
少しのタイムロスも許されないのだ!!!

明け方の校舎。
デカイトラックの排気。
鬼気迫る搬入。
命懸けの音出し。
最後の安息。
薄暗い舞台裏。
ホールのカビっぽい匂いと
いつもと違った面持ちの先輩達。

まるで異世界来たような怒涛の時間が流れるのです。

前の学校出番が終わると、静かに歩き出して舞台へいく。
その姿はまるで戦士だった。
まじで。

初めてホールの本場で聴く、いつもの二曲は、まるでキラキラとしたビー玉が思い思いに転がるような
綱渡り中に吹く悪戯な風のような
死ぬ前の走馬灯のような
命のかたまりのような。
音楽歴の少ない僕のは形容し難い音がした。

自由曲の中盤、空から降り注ぐようなソプラノサックスとオーボエのソロ。
舞台照明は変わってないはずなのに、色が変わったように見えた。

『三日月に架かるヤコブの梯子』

曲名のとおりの、光がさした気がした。

当時の僕には刺激的過ぎる演奏と体験。
何十人ものエネルギーがたった一つの曲になって、まるで生き物のように感じた。

そこから、初めて僕の音楽人生が始まったように思う。

あの一夏の体験が今でも忘れられなくて、未だに音楽をやっているんだと思うよ。

そんな体験、みなさんもありますか??
教えて欲しいな。

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