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農業を通じて女性の権利と尊厳に向き合う
新潟県十日町市。その豪雪地帯で、サツマイモ栽培から干し芋の加工、そして女性農家たちの社会的課題に向き合うビジネスモデルを作り上げたのが、women farmers japanです。地域の農家が協力し合い、冬場の仕事や女性たちの働く機会を創出すると同時に、多様な背景を抱える仲間同士で支え合い、学び合うコミュニティがここにあります。今回は中心人物である佐藤さんに、組織の成り立ちや目指している未来についてお話を伺いました。
“女性農家の仕事場”をつくる——生産組合の立ち上げ
新潟県十日町市の豪雪地帯で、「women farmers japan(通称:wofa)」というユニークな生産組合を運営する佐藤さん。多くの農家が冬になると積雪の影響で農作業を休まざるを得ないなか、女性農家の働く場を創出するべく奮闘しています。
「私たちの会社では、自社で栽培するだけじゃなく、地域の女性農家さんたちを中心とする“お芋生産組合”を作っています。農業機械や労働力をシェアしながらサツマイモを育てています。実は組合員の半数以上が男性なんですけれど、体力面や知識面でサポートしてくれる心強い存在です」
この生産チームで栽培するのがサツマイモ。農業機械や労働力をシェアしながら栽培を進め、市場価格より高い金額で買い取りを行うことで、女性農家さんたちが安定した収入を得られる仕組みをつくりました。割れた芋や規格外の大きさの芋もすべて買い取り、加工によって付加価値を高めています。
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「女性農家の課題を解決したい」——加工所で生まれる冬の雇用
この地域では半年近く雪に閉ざされ、農業ができない期間が長いのが現実です。男性は除雪のアルバイトや遠方のスキー場で働くなど、出稼ぎの手段を持つことが多い一方、家庭を切り盛りする女性は柔軟に外へ働きに出られない。そこで、佐藤さんたちは空き家を改修し、2021年の秋に加工所を完成させました。
「この地域は雪が降る約半年間、雪に閉ざされて農業ができないので、男性農家さんは除雪の仕事やスキー場などへ出稼ぎに行くことが多いんです。でも、女性農家さんは家庭があるため、遠方へ働きに出にくい。そこで『冬こそ働ける場を作ろう』というのが、干し芋の加工所設立の大きな目的でした」
主力はサツマイモの干し芋加工。11月下旬から4月いっぱいまで続くため、冬の稼ぎ口としては最適です。また、干し芋加工がオフシーズンになると、加工室を「レンタル加工所」として地域に開放し、食品加工にチャレンジしたい人たちを応援。行政が運営する加工施設が遠方にしかない中で、この取り組みは新しいことを始めたい方々の強い味方となっています。
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雪国のサツマイモに眠る可能性——干し芋の本格ブランド化
ビジネスの柱となっている干し芋加工。佐藤さんが試しに作った干し芋を、委託加工先であり、且つ干し芋産地の茨城県の農業大学校の先生が食べたところ「山のサツマイモなのに、なぜこんなに旨味があるのか」と驚かれたのがきっかけでした。
「サツマイモは一般的に海沿いの砂地が合うと言われますが、雪国の土壌は寒暖差があり、意外なほど美味しい芋ができるんです。しかも虫が越冬しづらい環境なので、無農薬栽培が比較的容易でした。貯蔵庫から出したあと、雪の力でぐっと追熟させることで甘みや旨味がさらに増すんですよ」
そして、スライス状の干し芋だけでなく、手間と時間をかける丸干しタイプの「丸干し芋」や、加工過程で出る芋の皮などをアップサイクルした「ベーグル」など、多彩な商品を生み出しています。どれも機械化しにくい工程が多く、人の手による丁寧な仕事が光るものばかりです。
規格外の芋を“宝物”に変える——干し芋づくりがもたらす可能性
wofaの干し芋は「雪の日の干し芋」というオリジナルブランドで展開されています。大小さまざま、形も曲がっていたり割れていたりする芋を丸ごと買い取り、高品質な干し芋やスイーツ、ベーグルなどに加工しているのが特徴です。
「同じ形、同じサイズばかりが好まれる効率的な農業に対して、私たちは『一つひとつの個性を活かせる方法を探そう』と考えています。どんな形でも手間をかければ、一つひとつ全然違う味わいになるんです。丸干し芋は生キャラメルや羊羹みたいな食感で、作業の難易度は高いんですが、その分“その子ならでは”の美味しさを出せる。曲がったり割れたりした芋だからこそ、余すところなく活かせるんですよ」
多様な形を「効率が悪い」と排除するのではなく、手間を惜しまず、その芋が持つ味わいや個性を最大限に引き出す。そんな「多様性を排除しない」ものづくりの姿勢が、多くのリピーターを生んでいます。さらに加工で出る皮やくずのアップサイクルにも力を入れており、60%以上をサツマイモが占める「ベーグル」など、新たな商品開発も進んでいます。
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家族経営の壁と向き合う——“尊厳”を取り戻すためのコミュニティ
農業は家族経営が多い一方、上下関係や家庭内の役割分担などから生じる悩みが少なくありません。佐藤さんは「女性農家が権利と尊厳を得られるようにしたい」という思いで、干し芋づくりだけでは解決できない課題にアプローチしています。
「お嫁さんになった途端、家政婦扱いされる人もいるし、『私はお父の機械だ』と小さな頃から実家でずっと“労働力”としてしか見てもらえない女性もいます。女子会みたいな集まりではガス抜きはできるけど、実際は何も変わらない。だからビジネスとコミュニティの両輪を回すことを目的にwofaという会社を立ち上げ、しっかり対価を得られる仕組みを整え、みんなが自分らしく成長できる場を用意しました」
コミュニティ内では、勉強会やワークショップを通じて「あなたは何者で、どうありたいのか」を徹底的に掘り下げます。付箋に悩みやアイデアを書き出したり、あだ名で呼び合ったり、定期的に「ありがとうワーク」を行ったり。こうして一人ひとりの内面にアプローチすることで、自然とお互いを尊重し合う関係を築いているのです。
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女性にとどまらず、十日町のコミュニティへ——地域全体が変わり始める
wofaの取り組みは、女性たちだけで完結していません。生産組合の半数以上は男性がサポートしており、最近では男性から「自分も入りたい」という声が増えているそうです。
「男性中心の既存の組合では新しいことがなかなか生まれない。wofaのように明るくどんどんチャレンジをしているところがいいと、興味を示してくださるんです。わざわざピンポンを押して“うちの芋を買い取ってほしい”と来てくれる77歳のおじいちゃんもいました。そうやって自分たちからアクションを起こしてくれるのは嬉しいですね」
家族の中でも「妻が楽しそうに干し芋づくりをしているから、手伝ってみたい」と夫婦で栽培に取り組むケースが増えるなど、夫婦関係がより良くなる家庭も少なくありません。そうした動きが連鎖していくことで、地域の農業に携わる人々全体の意識まで変わり始めています。
「仲間と分かち合う喜び」——これから目指す未来
干し芋やアップサイクル商品がメディアに取り上げられる機会も増え、広い範囲から注文が舞い込むようになりました。しかし、佐藤さんが大切にしたいのは「売上拡大」だけではありません。女性農家の尊厳と権利を守りながら、コミュニティ全体の幸福度を高めることが最優先です。
「農業って一人でやっていると、どうしても自己完結で終わりがち。でも皆で取り組むと、うまくいった時も苦しい時も“仲間”がいる。一緒に喜び合ったり、悩みをシェアしたりしながら、自分自身もどんどん成長できるんです。これからは商品にもっと“作り手の物語”をのせて、多くの人に想像力を働かせてもらえるような食文化を広げていきたいですね」
たとえば、干し芋のパッケージに「誰が育てた芋か」をしっかり表示し、作り手の成長を食べる人が感じ取れる形を目指す。雪深い土地だからこそ味わえる豊かなサツマイモの風味や、コミュニティの輪が生み出す“幸せな雰囲気”が、さらなるファンを生む原動力になりそうです。
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おわりに
干し芋やベーグルのように「かたち」が定まらないものこそ、逆に「可能性」は無限大。多様な農家や規格外の芋を丸ごと受けとめ、仲間と一緒に新しい価値を生み出していく佐藤さんたちの姿は、豪雪地帯の厳しさを超えた大きな希望を感じさせます。
「私たちが本質的にやっているのは、農業を通じて女性の権利と尊厳に向き合うこと」という言葉が象徴するように、干し芋づくりは単なる加工品の開発にとどまらず、コミュニティの成長と社会への提案を含んだ重要な活動へと進化しています。彼女たちが生み出す未来の農業は、誰もが自分らしく働ける優しく温かい世界につながっていくのかもしれません。
women farmers japan の想いを更に詳しく知りたい方はwofaさんのnoteも是非ご覧ください。
【2月4日追記】
クラウドファンディング
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