サイエンス2024『腸呼吸』とは何?
#イグノーベル賞
#腸呼吸 #武部貴則
科学スキにはたまらない情報。今年(2024年)のイグノーベル生理学賞をとった武部貴則教授。「腸でヒトが呼吸できる!」ことを発見したのだ。そもそも呼吸というのは、肺しか思い浮かばない人がほとんど。常識をくつがえす発見だった。いやはや、これは衝撃的であり、ビッグリ。
*COVID-19に苦しめられた!
思い起こすのは2019年から始まった新型コロナウィルスによるパンデミック。けっこう人は死に続けた。多かったのは持病もちと高齢者。有名なところでは2020年3月にお笑いタレントの志村けん(旧ドリフターズメンバー)が亡くなったことだ。重度の肺炎となり、人工心肺ECOM(エクモ)をつけて治療したが助からなかった。
ECOM、別名「体外式腹膜人工肺」。ポンプと人工肺を用い、血液の体外を循環させる医療機器である。このECOM、使いこなすにはかなりの知識がいるようで、チーム医療が必須。機器を設置する医療機関もかなり限られるようだ。
*イグノーベル賞って何?
ノーベル賞を知らない人はまずいない。一方、このイグノーベル賞、マスコミではノーベル賞のパロディーとして扱っている。「イグ」という言葉にそんな意味があるからだ。1991年から始まったイグノーベル賞だが、もとはユーモア系科学雑誌「ありえない研究 論集」によって作られた。
翌1992年から毎年のように、日本人が受賞している。ニュースなどの報道でもよく目にしていたが、単なる「お遊び」としか見ていなかった。だがよくよく内容を見ると、そうでもないのだ。2000年に「カエルの磁気浮上」でイグノーベル賞をとったアンドレ・ガイム。彼は2010年に、グラフェン研究でもノーベル賞を受賞した。
生きたカエルを磁気のチカラで空中に浮上させる。これは奇抜のアイディアと言えるだろう。人々は、風変わりでありえないと思う。だがこれも立派なサイエンスなのだ。この科学をも面白くして、お茶の間に届けている「でんじろう先生」。彼のやっていることも、科学の不思議さがわかり、子供ならず、大人まで虜にしてしまう。サイエンス普及には、これらの活動やイグノーベル賞は不可欠と言える。
*今年(2024)イグノーベル賞は
医科歯科大学、大阪大学の武部貴法教授。水中の泥のなかで生活するドジョウを観察して発見したのだ。ドジョウは古くから生命力がつよい生物として知られている。環境が劣悪な状態でも生きられるという。その元となるのは腸での呼吸だった。腸の内壁にある上皮細胞層を通じ、これをおこなう。
我々日本人にとって、このドジョウはなじみ深い生き物。日本には至るところに「どぜう」料理店がある。江戸時代から親しまれてきた。ただ私にとっては遠慮したい食材、なんといっても生臭いこれが苦手だ。ほとんどの日本人はこのドジョウ、その生命力の強さを授かりたいと思っているのだろう。
哺乳類では、豚の実験でも、腸から酸素が取り込まれたことが確認される。これは画期的なことと言っていい。あと5年をめどに人にも使えるようになると言うのだ。これはかなりありがたい。今回コロナによるパンデミック、これ以降も新たなものが発生するとみられる。だとすれば、この技術で多くの人の生命を救ってくれるのではないだろうか。
*腸呼吸のメリットとは?
今のところ人工心肺ECOMが頼りだ。だが、数に限りがあるうえ、大病院にしか設置できない。急激な感染症を広がりに対応するのは難しいと言える。かりに腸呼吸であれば、酸素を大量に含んだ溶液を準備でき、人手もそれほど必要としない。とすれば、中小の病院でも対応が可能となる。
またECOMでは、持病の関係で使える患者も限られるようだ。腸呼吸なら、それほど患者を選ばなくていい。医療者にとっても、これは管理がラクと言えるだろう。ある試算によれば、低コストでの運用が可能という。これもメリットのひとつと言えるだろう。
*まとめ
学問も科学も、「面白い」というところが出発点となる。そこから「スキ」になり、長いこと研究をかさね、新たな発見が生まれるのだ。単なるパロディーとして馬鹿にしていたイグノーベル賞。だが、こそこそ「科学の王道」なのではないだろうか。さまざまな一流の科学者を見てきて、つくづくそう思った。