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映画『湯道』(2023年)、この映画を見て考えたこと?


#映画感想文   #映画レビュー
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自分自身、「温泉好き」ということなのだろう。タイトルに魅せられ、最後まで見てしまった。内容的には「荒唐無稽」ともいえる『湯道』。家元がいて、この道を代々家伝として継承している設定となっている。湯に浸かる行為にも、決められた作法に基づき行わなくてはいけない。日本人ならある程度は暗黙のうちに身に付けてはいるが、外国人にはわからないようだ。そこをこの映画は強調していたように思われた。

*原作・企画は、あの小山薫堂
私にとって、やはり映画「おくりびと」を世に送り出した人物として、また熊本のクマモンを売出した人物として、誰よりも高く評価をしている。その小山薫堂は、前々から、日本の入浴文化の素晴らしさを、世に訴えてきたと言う。彼の頭には、いつも文化としての「入浴」が離れなかったのだろう。そういえば、米国アカデミー賞に輝いた映画「おくりびと」でも、銭湯が大事な部分で使われていたが、そのときの俳優である笹野高史と吉行和子を今回の映画でも使っていた。

日本人の文化と言えば、茶道・華道・香道ということになるが、それ以上に庶民にとっては「湯に浸かる」行為、これこそが自分たちのアイデンティティーを教えてくれるものと言うことだ。それは精神を浄化し、気を鎮め、心を豊かにしてくれる。日本人にとって、この入浴は必要不可欠なものと言えるだろう。

*ゼロから創りあげたストーリー
「湯」を題材にした物語を企画した小山薫堂は、日本各地の温泉や銭湯を訪ね歩いたと言う。そこで出会った人々との触れ合いのなかから、話を書き進めていったようだ。この映画のシナリオ作りには、2から3年もかけたと言う。

映画での舞台は「まるきん温泉」という名の銭湯。これは長崎にあった実際の銭湯がモデルだと言う。また食堂の「くれない茶屋」や「寿々屋」もモデルが実在する。実際に自分の目を通し、物語を作りあげた。さらに東京の滝野川にある「稲荷湯」では、銭湯のこまごまな作業も手伝い、どういうものかを身をもって体験し、これを物語に反映したようだ。

*ごく簡単なあらすじ
メインの話と、サブの2本立てで話は進められていく。中心となるのは、親の代からつづく銭湯「まるきん温泉」。父と母そして2人の兄弟の一家4人が暮らしていたが、今は両親は死に、弟の悟朗(濱田岳)が切り盛りしていた。兄の史郎(生田斗真)、東京の建築事務所で働いていたのだが、独立してみると全く仕事がない。金に困り果て、親の遺した銭湯をマンションに建て替え、金を得ようとしていた。

一方「湯道」家元の話し。440年の歴史を持つ「湯道」の家元、ニ乃湯薫明(角野卓造)は、このところ体調がすぐれない。弟子たちの前で「夢の道」を教えるのは梶斎秋(久保田正孝)だった。代々伝わる格言を伝えたうえで、実際に湯に浸かる作法をやってみせる。

全国の銭湯は、家風呂の普及により、いわば斜陽業種となる。だが、「まるきん温泉」の悟朗は、秋山いづみ(橋本環奈)や、謎の人物・風呂仙人(柄本明)の協力を得て続けているのだ。兄の史郎とは大ケンカになり、怪我をして入院となった。だが退院すると、悟朗もマンションにしようか!という気になったようだ。父の遺書には、親の代で銭湯を辞めるように書いてあったためだった。
果たして、銭湯「まるきん温泉」は、このまま続けていくのか。そして「湯道」家元の死により、代々続くニ乃湯家はどうなるのか。そこが注目となる。

*ドイツの温泉療養地クアルト
ドイツ語の「KUR(クア)」とは、治療療養保養のための滞在を意味する。健康を損ねたドイツ人は、中長期にわたり温泉療養をおこなうと言う。これは長年の研究により効果が実証されているためだ。さらにこのクアルトには相談できる療法医が常駐し、その指導のもと温泉療法がおこなわれている。

考えてみれば、戦国時代の武将たち。彼らは傷を負ったとき、自分の見つけた「隠し湯」でカラダの再生をはかった。湯につかる行為には、そのような療養も含まれるのだ。日本でも、温泉に長く滞在し療養するという「湯治」という習慣は残っている。だが現代日本、ほとんどの日本人は忘れてしまったのではないだろうか。

*まとめ
長崎の銭湯「まるきん温泉」は、惜しまれながらも、2009年に廃業したと言う。一方、銭湯内部の作りは、長崎小浜温泉にある銭湯「おたっしゃん湯」をモデルにしたようだ。中央に浴槽のある関西風の作りとなっている。昭和の初めにできた銭湯であるため、その佇まいは素朴で風情があり、我々の目を引きつける。

この映画「湯道」、あまりにも、突拍子もない展開になってはいたが、「湯に浸かる文化」、その意味を我々に提示してくれていたことだけは確かだ。これを見て日本各地の銭湯に行こうとする人が増れることに期待したい。

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