NHK BSヒューマニエンス「不安」、自らつくった進化のカギとは?
#ヒューマンエンス #科学
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「杞憂(きゆう)」という言葉がある。これは中国の古典「列子(れっし)」に由来するという。その意味は、杞という国のなかに、とてつもない不安を抱いた人がいたと言う話し。天が落ちてきて、地が崩れるかもしれないと不安を感じ、食事も睡眠もとれなくなった人がいたとされる。見かねた人が説得し落ち着かせたのだ。必要のない不安や心配について使われる言葉だ。
だが、どうなんだろう。ニュースをみると世界中で自然災害や広がっている。2024年現在、物価は日々上がり続け、おさまるところを知らない。そのうえ収入が増えるというアテなどまるでないのだ。今後の日本、急速に人口は減っていく。国力も下がり続けると思われる。日々不安は増すばかりではないか。この不安、科学の目でみると、ヒトが進化の過程で獲得し、付き合ってきた歴史が見えるというのだ。
*人類史からみた「不安」の正体
人類は700万年ほど前にアフリカの森林のなかで生まれた。その後の気候変動により居住地域の環境は草原を中心とするサバンナに変わっていく。このサバンナでは肉食獣がいる。極めて危険な地域。それでも人類は食料を得るため歩み出したという。このとき「不安」と関わる脳内物質セロトニンに関わる遺伝子の変化が起こった。
不安を感じない「N」から、不安を感じやすい「T」に変わったと言う。不安を感じることで、より慎重な活動をして、身を守るようになったわけだ。しかし、およそ10万年前に新たに「I」を持つ人たちが現れてくる。この「I」を持つ人たちは不安を感じにくい。この遺伝子が集団のなかにいることで、人々は活動の範囲を広げていったようだ。
人類は5万年前にアフリカ大陸の外へと動きだす。彼らはアジアへと動き、さらに北上してアラスカまでゆき、そのあと南下。北米から南米へと広がっていった。遺伝子を見ると興味深いことがわかる。「I」遺伝子の持つ人の割合だ。アフリカ大陸ではおよそ10から20%。アジアでは30から40%、北米から南米大陸では50%以上になると言う。つまり、移動距離が長いほど、不安を感じにくい人の割合が多い。
1万年前に農業が始まった。狩猟採集民と定住農耕民との遺伝子を比較すると、後者である農耕民の方が不安が高いとされる。農耕ではつねに自然環境の状況により収穫物は変動してしまう。作物が充分とれなければ生命の危機ともなり得る。このため、この不安により人々は知恵を働かせ、将来の飢饉に備えたようだ。「不安」は、人の生き残りのうえで欠かすことのできないものだったとされる。
*「不安」アクセルとブレーキにもなる!
セロトニンがヒトの不安を解消する一方で、なかには不安が増すヒトもいると言う。これは「うつ病」患者への臨床によって発見された事実。セロトニンを増やす薬を与えたことで、かえって悪化するヒトたちがいるのだ。これでわかるのは、セロトニンは不安を抑える働きと不安を増す働き、この2つがありその理解につながった。
人の脳にある縫線核(ほうせんかく)。正中縫線核と背側縫線核は、かなり近い位置にあるが、全く別の働きをする。正中縫線核は不安を増すのに対し、背側縫線核は不安を和らげるのだ。どうも不安は遺伝的要因だけではなく、その本人の経験の積み重ねによっても変化するという。不安は一筋縄では捉えることができないということだろう。
また不安は脳の情動を感じる前帯状皮質にも関係するという。うつ病患者の場合、この前帯状皮質が過活動になるとされる。「イライラ」から始まり、「不安」となり「憂うつ」となる。すると、次第に根気がなくなり、物事への興味も薄れ、喜びも生きがいも感じなくなってくるのだ。そうなると、完全な「うつ病」と言える。
この前帯状皮質も2つの相反する働きをするようだ。「24野」では不安を感じるのだが、「32野」においては、人と人との共感を感じる部位だという。ヒトは「32野」が発達し大きな社会をつくってきた。不安をなくす事は人との関係はどうでもよくなる。不安があることで、他者の感情に寄り添い、共感する仕組みが生まれたということだろう。
*不安を減らすコツとは?
近年、うつ病患者は増え続けている。対人関係が希薄化したことと、よりストレスの多い社会になったことが影響したと見られる。だが、不安は決して悪いことばかりでは無いのだ。この不安があるからこそ、人は人との交流をおこなうと言うこと。不安がなければ社会は成り立ち得ない。
不安を減らすコツは、共感を刺激することだと言う。ヒトとの「おしゃべり」が最も有効とされる。とくに大事なのは「傾聴」のようだ。コミュニケーションは、言葉だけでなく手振り身振りなど「仕草」でもおこなわれる。この仕草、ノンバーバルといって全体の93%にも及ぶと言われている。会話のなかで少しの間を置き考えているフリをしたり、顎に手を当てるだけでもチャンと聞いているというメッセージがになるというのだ。
*まとめ
不安には「負の側面」と「正の側面」があった。不安とうまく付き合うことで、人間性があがることがわかった。不安があるからこそ、ヒトはヒトを大事にするのだ。近年ブームとなっている「瞑想」。これもまた不安を減らすことにつながる。「不安」があるからこそ、ヒトは将来に備えるようになるし、ヒトとの関係を大事にするようにもなるということ。このことを番組を観て理解することができた。