絵本探求講座 第3期、第3回講座を終えて
2023年6月11日(日)絵本探求講座 第3期(ミッキー絵本ゼミ)第3回講座の振り返りをします。
1冊持ち寄ったケイト・グリーナウェイ賞受賞作品について、チームブレイク後、ミッキー先生から作家別に解説があった。
1、ケイト・グリーナウエイ賞について
2、私が選んだ1冊…『カングル・ワングルのぼうし』(原題:The Quangle-Wangle's Hat)
3.選書理由
作者は、ナンセンス詩人として有名なエドワード・リア。100年以上も前の詩を現代の画家、ヘレン・オクセンバリーが絵をつけ、絵本にした。
繰り返しの言葉が、心地よい音の響きを感じる。
ヘレン・オクセンバリーの絵は、繊細な線で描かれ、とてもカラフル。不思議な動物たちがユニークに描かれている。
子育て期によく読んで娘が大好きだった。そらんじていた。母子で楽しい時間を共有した。
4・あらすじ
クランペティの木の上に住んでいるカングル・ワングルは、いつも大きな毛皮の帽子をかぶっている。独りぼっちで孤独を感じるが、ある日、カナリアが、やってくると、次々に不思議な動物が、一緒に暮らそうとやってくる。そして、楽しさ極まって、みんなで踊り始めるというお話
5.エドワード・リア(Edward Lear)について
1812年にロンドンで生まれた。21人兄弟の20番目で、幼いころから病弱だった。7歳ころからテンカンの持病にずっと悩まされていた。13歳の時、一家離散。作詞や絵画に熱中する内向的な性格となった。正規の教育は受けていないが、絵の才能はあったので、ヴィクトリア女王の絵画指導係を仰せつかっていた。ナンセンス詩人として有名。
6.ヘレン・オクセンバリー(Helen Oxenbury)の略歴
1938年生まれ、イギリスのイラストレーター、絵本作家。
サフォークのイプスウィッチで育った。幼い頃から絵を描くことに熱中。学校を卒業後、10代でイプスウィッチの美術学校に通い、週末には地元劇団で背景を描くためのペンキを混ぜるアルバイトをしていた。ロンドンのセントラル・オブ・アート&クラフトで舞台美術を学び(1957-1959)、そこで後に夫となるジョン・バーニンガムと出会う。
演劇、映画、テレビの世界でキャリアを積む。
1964年に絵本作家でイラストレーターのジョン・バーニンガムと結婚。すぐに子供が生まれたため、子育てと両立できる仕事を模索し、絵本制作と児童書のイラストレーションへ仕事の舵を切る。特に自らの育児体験を活かして、年少児向けの絵本の制作をした。ボードブックの先駆者の一人。
2010年『あかちゃんがやってくる』は、夫との共作。(幼い男の子がお兄ちゃんになる前の期待と不安を巧みに描き出している)
それぞれがイギリスを代表する絵本作家となる。
7.ケイト・グリーナウェイ賞の受賞歴
1969年受賞『うちのペットはドラゴン』
(The Dragon of an Ordinary Family)
1969年受賞『カングル・ワングルのぼうし』
(The Quangle-Wangle's Hat)
1991年次点『はたらきもののあひるどん』
(Farmer Duck)
1993年次点『3びきのかわいいオオカミ』
(Three Little Wolves and the Big Bad Pig)
1993年次点『3びきのかわいいオオカミ』大型しかけ絵本
(Three Little Wolves and the Big Bad Pig)
1994年次点『いっぱいいっぱい』
(So Much)
1999年(※)『ふしぎの国のアリス』
(Alice's Adventures In Wonderland)
※2007年ケイト・グリーナウエィ賞創設50周年記念読者投票で創設から2005年までの全受賞作品から候補作10作品を選定。その中に選ばれる。
複数回受賞した14人の作家のひとりであり、夫のバーニンガムもそのひとりである。
8.時代背景
9.作品を読んで
見れば見るほど味わいがあって、ユーモアを絵にするのはオクセンバリーの得意とするところ。初期の作品は、後期のまろやかな線とは異なり、細かい線が目立つが、この手法は細部の陰影を描くのに適しており、日常世界をファンタジーの世界にうまくつなげるのに役に立っている。オクセンバリーは、創作よりも他の作家の文章に絵をつけた作品に傑作が多い。それぞれの作家の世界によく寄り添い、その魅力をいっそう味わい深いものにしている。物語を読むオクセンバリーの目の確かさが感じられる。(『はじめて学ぶ英米絵本史』より抜粋)
大きな帽子をかぶっている木の上のカングル・ワングルの顔は、最後まで見えないままでわからない。でも繰り返しのリズミカルな音の面白さに引き込まれる。悠々と遊んだ満足感が残こる。のびのびと心が解放される。
フラフラドリ、金ぴかライチョウ、足指のないポブラ、ギリシャ生まれのこぐま、きらきらはなのドング、青ヒヒ、トルコから来た子牛、はったりネズミ、びっくりこうもり・・・次々に不思議な動物が登場する。カラフルな模様で、楽しく魅力あふれるキャラクターに仕上げられている。目がどれもかわいい。オクセンバリーの絵は、優しさに溢れていて、温かみを感じる。色鉛筆画は、何色の色鉛筆が使われているのだろうと思うほど、葉っぱや羽の一枚一枚が丁寧に描き込まれている。
見返しの次の題名は、『カングル・ワングル』の文字が帽子の形に配列され、タイポグラフィの効果が見られる。
カングル・ワングルの大きすぎる帽子とそれを目指す不思議な動物達の大きさの対比が、ページによって違う。木の上にみんな登ってカングル・ワングルの帽子を寝床にする。どう考えても無理だろ!と突っ込みたくなるが、みんなが当たり前のように共存する優しい世界が感じられる。
10.ミッキー先生の解説から
みんなウェルカム。友達、仲間、コミュニティをつくっていくことは、人間の営みの原形。このお話には、子どもの遊びの原点が描かれている。強制ではない。みんな楽しそう。帽子がいっぱいになったら次考えればいい。それが子どもの遊びの原点。
繰り返し同じモチーフが使われている。『てぶくろ』(ウクライナ民話)に似ている。
オクセンバリーは、昔話や伝統をとても大切にした人。
人は、人間が生きていくための原理を象徴的に物語として引き継いできている。その物語の大事なお話は、いい芸術家が今の子ども達に魅力的な形で面白おかしく美しく、提供してくれている。
目利きになるために過去の勉強している。引き出しをたくさん持っておくこと大切。
作品には、その人の人生・考え方・いろいろなものが投影されている。魂込めて作られたものは、その魂を幾分受け取って、それを伝えることをする。その本の本質が伝わる。習慣づけることが大切。
絵本を準備するときは、常に第1候補、第2候補の準備を心掛ける。受賞作品を1冊選ぶことは、目利きになるための勉強の糸口である。1冊にしぼれというのは、選ぶという行為を経験してほしかった。なぜこの本を選んだか?選んだ理由、誰に紹介するのか?意識することで学びが深まる
【オクセンバリーの作品、その他3冊の持ち寄りがあった】
・『きょうはみんなでくまがりだ』
あそび歌をもとにしたリズミカルな絵本
・『3びきのかわいいオオカミ』
昔話のこぶたのパロディ(逆転の発想)
・『ふしぎの国のアリス』
カジュアルな服にスニーカーの現代のアリスを描き、親しみ深くしている。
11.まとめ(考察)
遠い時代に作られた、現実のどことも接点をもたないようなリアのナンセンスの世界。その詩がオクセンバリーによって、カラフルな楽しい絵本に仕上がり、世界に読み継がれていると思うと、子どもの(大人も)心に響くものは、時代を経ても変わらないと思った。
生涯、病に悩まされ続け、堅苦しいヴィクトリア朝時代を生きたリア。心の奥深いところを刺激する底抜けに無邪気な本物の楽しさを、求めていたのだと思う。遊びに対する真剣さを感じてしまう。オクセンバリーは、それを最大限の想像力を働かせて、絵に表現したのだ。彼女にとって、バーミンガムと結婚し、2人の子どもに恵まれたことは大きいと思う。オクセンバリーは、子ども達の日常生活や感情を表現することに長けており、いつも子どもの側に立って、絵本の可能性を追求していたと思う。夫、バーニンガムの影響も沢山受けていたと思う。
ナンセンスという言葉は、日常的には「無意味」「ばかばかしい」といった否定的な意味に使われることが多いが、文学や芸術では、そうではない。知的な遊びである。オクセンバリーの色彩豊かで楽しい絵とテキストの相乗効果が、子ども達の想像力を刺激する。創造性、独創性に富んだ絵であり、ページをめくるたびに広がるナンセンスな世界に魅了されていく。「この物語には、人間の営みの原形、子どもの遊びの原点が見えてくる」とミッキー先生はおっしゃった。シンプルな言葉の響き、温かみのある絵から、子ども達はこの心地よさをまっすぐに受け止めて喜び、より楽しい時間を体験していく。私も読み聞かせする中で、娘達とかけがえのない時間を過ごした。すてきなお話は、すてきな時間とすてきな気持ちを運んでくれる。
講座では、他にも美しさと内容の深い受賞作品を学んだ。読み継いでいきたい。
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