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『長崎すひあすくわっど』4-10

 アコヤが無言でコハクを見る。コハクは続けた。

「そもそもあまり出歩かん子みたいやけん、意外と近くにおるとかも」
「まずは部室のあるビオトープの辺りか」

 アコヤは踵を返してすたすた歩き出した。コハクも連られて歩く。
 みなと中学校のオランダ坂側の校舎の端には、この学校が立て替えられる前からあった小さなビオトープがあるのだ。生物部の部室も、ビオトープにそのまま降りることの出来る教室を使っている。
 そこに向かって、ふたり揃って無言で歩いていると、

「──さっきのことだがな」

 アコヤがおもむろに話し出した。

「意外って言うたやつ?」

 コハクは聞き返した。アコヤは黙ってうなずき、ポツリと言った。

「ハリルリが助けを求められた時、ふたりに『行ってこい』とか言ったり、お前も一緒に手伝うのかと」
「言わんし、せんよ」

 コハクはきっぱりと言いきった。脳裏には、父の葬儀で聞いた言葉が鮮明に蘇っている。

──『あすこの社長ば助けて亡くなったとやろ? 自分で寝タバコしたくせに葬式来んとか図々しかよねえ』

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