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『長崎すひあすくわっど』4-12
と言ったのと同時に、いつの間にか生物部の部室前に来ていたことに気づいた。
部室の斜め前には外へと出られる両開きのドアがある。
「あれ、こげんとこまで来とったと?」
「来てたよ。お前が気付かなかっただけだ」
アコヤが淡々と答える。その声は相変わらずの冷たいが、横顔にはほんの少し柔らかな気配が漂っていた。
コハクは首をかしげたが、それ以上深くは考えず、ドアを静かに開けビオトープへと歩いて行った。
「さて、シロクツはおるかね……」
小声でつぶやきながら、コハクは目を凝らし、足音を立てないよう慎重に進む。
アコヤも続いて来たらしい。背後から微かな足音が聞こえ、気配だけでそれとわかる。
ビオトープの人工池は日の光を受けて輝いており、そのほとりに植えられた小さな植物は静かに風に揺れている。しかしシロクツの姿はどこにも見当たらない。
「やっぱり学校の外か?」
アコヤが小声でひとりごちた瞬間、ネコの鳴き声が聞こえた。
思わずふたりで顔を見合わせると、真正面に建つ屋内プールの陰から、一匹のネコが姿を現した。
片耳が桜の花びらの形、足だけが白い黒の体色に、先端が鉤のように曲がった尾っぽ。