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【ゴスレ二次創作】Father and son Valentine's Day.

 劇作家グレイことジャックの書斎は、普段は9歳の息子と7歳と4歳の娘達、そして彼の妻フローことフロレンスが子供達の付き添いで訪れ、賑やかな空間となる。
 しかし特定の期間──バレンタインデー前の数日間は、女人禁制のカード工房となるのだった。


 さて、バレンタインの数日前。
 グレイと、息子のハルことヘンリー・ジャックは、フローと娘達──ハルにとっては妹であるハーミア・フロレンスとポーシャ・フロレンス──に送るバレンタインカードの製作に勤しんでいた。
 机の上には色とりどりの紙やリボン、花柄のシールが広げられている。
 グレイは手際よくハサミを使い、繊細な模様を切り出していく。一方ハルは、少し不器用ながらも、一生懸命ペンを握りしめてメッセージを書いていた。

「ねー、父さん」

 ハルが少し悩んだ様子でグレイを見上げる。

「『大好き』とかだけじゃ足りないからさ、シェイクスピアのセリフもかきたいんだ。いいのおしえてくれよ」

 眉を下げたその表情がどこかフローにも似ていて、グレイはニヤニヤしそうになったが、何とかこらえた。
 そしてハルの額に軽くデコピンをくらわせ、

「そーいうのはな、自分で調べろ」
「ケチー」
「悔しかったら、父さんみたく覚えるんだな」

 そう言われたハルは口をとがらせつつも、椅子から降りて本棚へと向かっていった。そこにはシェイクスピア作品を初めとした戯曲の本が所狭しと並べられている。
 ハルは踏み台を持ってきて、小さな指で本の背をなぞりながら、

「オレたちの名前ってさ、父さんがつけたんだよね。シェイクスピアの話のキャラから」
「ああ」

 グレイはその様子を横目で見ながらうなずいた。

「オレが『ヘンリー5世』で、ハーミアが『夏の夜の夢』、ポーシャが『ベニスの商人』だったよね」
「おー、よく覚えてたな」
「前に読みきかせしてくれたじゃん。振りつきで」

 ハルはそう言って、

「よし、じゃ、こっからとるか」

 と踏み台から降りた。その手には『ヘンリー5世』があった。
 その名の通り、イギリス王ヘンリー5世──かつてはハル王子、と呼ばれていた男の物語だ。

「えーっと、どこだったっけ、あのセリフ……」

 ハルは机に戻り、ぶつぶつ呟きながらページをめくり始めた。
 外見はグレイによく似ているハルだが、こうして独り言を呟きながら作業する様子は、母のフローとそっくりである。
 グレイは口元に笑みを浮かべて、娘ふたり宛のカードと、フロー宛のカードにメッセージを書き込んだ。もちろん、シェイクスピア作品の台詞を選んでである。

「お、あったこれだ!」

 ハルが歓声を上げ、ページを広げてカードにペンを走らせる。
 それが終わるとまた別のページをめくり、一生懸命に書いていく。
 そうして数分後、ペンを置いたハルは満足げにうなずいた。

「何書いたんだ?」

 グレイが覗き込んでみると、

「えーと、ハーミアとポーシャには、これ!」

 ハルは得意気に、2枚のカードをグレイに見せた。
 拙い文字ながらも、引用した台詞がしっかりと書かれている。

『少数の我ら、幸せな少数の我ら、兄弟の一団である我ら』──ヘンリー5世

「で、母さんには、これ!」

 そう言ってハルはもう1枚のカードを見せる。
 そこにははっきりとこう書かれていた。

『天使はあなたが好きなのだ、そしてあなたは天使のようだ』──ヘンリー5世

「最高じゃねえか」

 あまりにもぴったりすぎる引用に、グレイはハルの頭をがしがし撫でた。
 ハルはえへへと笑った。周りからグレイそっくりだと言われる笑顔だ。グレイは今度こそ笑ってハルを抱き締めた。
 ハルも抱き締め返して、

「ところで、父さんは何かいたの?」
「あ? ハーミア達のはこれだ」

 グレイは娘ふたり宛のカードをハルに見せてやった。

『僕の美しい白百合姫』──ヘンリー5世

「わあ、ぴったりだ! しかもオレが選んだ本のセリフ!」

 ハルは歓声を上げ、それから首をかしげた。

「じゃあ母さんのは?」
「秘密だ」
「えー、見せてくれたっていいじゃーん」
「バカ野郎、子供にはまだ早い」
「じゃ、何からとったのかだけでもおしえてよ」

 グレイは小さくため息をついて、ハルと真っ直ぐ目を合わせて笑った。

「──オマエのやさっきの台詞と同じ、『ヘンリー5世』からだよ、ハル」

 そう言われたハルも、グレイと同じ顔で、頬を紅潮させてうなずいた。


──『僕の君への愛は、優しい姫、手加減できないほど激しいんだから』──ヘンリー5世

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