よめぼくスピンオフのあとがき
今回は巻末にあとがきがないので、こちらに書きます。まだスピンオフを読んでいない方は、先にそちらを読んでからあとがきを読むことをおすすめします。一応ネタバレには気をつけます。
「続編を書きませんか?」
担当の編集者から打診を受けたのは、デビュー作が発売してから1週間が経った頃でした。
「いや、無理です。これ以上書きようがないです」
とそのときはお断りしました。1巻の後半で続編は書いたつもりだし、この物語はこのまま終わらせた方がいいのだと当時は判断しました。
が、それからも時間があるときに続編のプロットを書いては納得がいかずに破棄する、というのを何度も繰り返しました。
「やっぱり続編書きませんか?」と再度打診があったのは、2022年の4月。ちょうど映画の脚本の1稿が届いた頃でした。
綾香の物語が読みたいです、と編集者の熱心な思いを聞き、さらに吉田智子さんの素晴らしい脚本を読み終えたばかりの高揚感も後押しして「書きます」と返事をしました。
デビュー作が発売してからたくさんの反響があり、中でも「三浦さんが一番好き」、「三浦さんに感情移入してしまった」、「三浦さんは幸せになってほしい」との声が多く、Web上に掲載していたときからとりわけ人気のキャラクターでした。
三浦さんが大雨の日に拓也の家に泊まったシーンでは、「ショックです」との声もあったほどです。
彼女のその後を書かなければ、この物語は終われない。彼女がふたりの死を受け止め、その先をどう生きていくのか。
そこまで書き切って初めて完結する物語なのだと思い、筆を取りました。
三浦綾香の話を書くと決めてから、まずはネイルサロンに行き(綾香はネイリストなので、知らないと書けないため)、実際に施術を受けていろいろお話を伺い、爪をピカピカにしてもらいました(本当はゴリゴリのジェルネイルをしてもらおうと思ったけど直前でびびってネイルケアだけしてもらった。女性客しかいなくてちょっと恥ずかしかった)。
次にグリーフケアのオンライン講座に潜入。自分でもなにやってるんだと思いながらも、作中の綾香のようになにかヒントを得たい一心で気づけば申し込んでいました。
以前僕自身も大切な人を亡くしたときに参加しようか迷ったことがあり、まさかこんな形で参加することになるとは思いませんでした。
僕以外の参加者は皆さん大切な人を直近で亡くされたばかりだそうで、軽い気持ちで参加したことに申し訳ないなと内心ひやひやしながら話を聞いていました。
作中で綾香が初めてグリーフカフェに参加した際の後ろめたい心情は、実はそのときの作者の実体験なのでした。
すべての準備が整ってから執筆を開始しましたが、今までで一番苦労しました。初稿は納得のいくものが書けず、編集者にアドバイスをいただき、もう一度1巻を読み返し、試行錯誤しながら2.5万字ほど加筆。過去一苦労した分、いいものが書けたと心から思います。
また彼女らの物語を書けて、とても幸せな執筆時間だったなと振り返ってみて思います。続編は作品が売れないと出せないので、書くことができたのは読者の皆様のおかげです。いつもありがとうございます。
今までたくさんのキャラを描きましたが、三浦綾香という人物は、僕にとっては一番思い入れのあるキャラクターになりました。
1巻ではふたりの友人として描きましたが、この物語のもうひとりの主人公でもあり、よめぼくは綾香の物語でもあります。
三浦綾香というキャラを作っていなければ、きっとデビューはできていなかったと思います(実際に新人賞で落選したとき、文字数の関係で綾香の「余命一年と宣告された友達を、好きになってしまった話」の部分のお話はカットして応募したので。おそらくそれが原因で落選)。
映画で綾香役の女優さんがどのように演じてくださったのか、楽しみでなりません。
スピンオフを読んでくださった方は気づいたかもしれませんが、作中にはシリーズの過去作に登場したキャラの遺族や関係のあるキャラ、それからほぼ皆勤賞と言ってもいいくらいのあの死神も一瞬だけ出てきます。
ぜひ探してみてください。
ちなみに当初は2巻のヒロインの黒瀬舞や4巻の妹を涙失病で亡くした古橋もグリーフカフェに来店予定でしたが、さすがに過去作の登場キャラが出すぎとのことでそのシーンはカットになりました。
今回も担当編集者のお二人には大変お世話になりました。いつもよめぼくシリーズの装画を描いてくださっている飴村さんにも感謝です。
それから解説を書いてくださったけんごさん。いつもありがとうございます。
今回はけんごさん自ら解説を書きたいと手を挙げてくださって、すぐに編集者にお伝えして願ってもないコラボ?が実現しました。僕のあとがきの100倍は読む価値のある解説なので、ぜひそちらも読んでみてください。
次回は映画化に関しての記事を書こうかなと思います。言える範囲内で。